蜻蛉日記 下巻 (192) 2017.5.24
「かくてなほ同じごと、たえず『殿にもよほしきこえよ』など、つねにあれば、返りごとも見せんとて、『かくのみあるを、ここには答へなんわづらひぬる』とものしたれば、『ほどをさものしてしを、などかかくはあらん。八月待つほどは。そこにびびしうもてなし給ふとか世に言ふめる。それはしもうめきもきこえてんかし』とあり。」
◆◆こうしてまったく同じようなことが続いて、絶えず、「殿にぜひともご催促してください』などとしょっちゅうあるので、あの人からの手紙を右馬頭に見せようと思って、「こんな風にばかり言ってきますので、返答に困っております』と使いを出して申し上げると、返事には「時期については、これこれと申しているのに、どうしてこうも右馬頭はあせっているのか。八月を待っている間に、そちらでは大層大仰にもてなしていると世間ではうわさになってるよ。(道綱母が右馬頭を愛人めいて扱う)私は嫉妬のため息を吐かずにはいられない」とありました。◆◆
「たはぶれと思ふほどにたびたびかかれば、ああやしう思ひて、『ここにはもよほしきこゆるにはあらず。いとうるさくはべれば、〈 すべてここにはのたまふまじきことなり〉とものし侍るを、なほぞあめれば見たまへあまりてなん。さてなでふことにも侍るかな。
〈いまさらにいかなる駒かなつくべきすさめぬ草とのがれにし身を〉あなまばゆ』とものしけり。」
◆◆冗談だと思っているけれど、たびたびこんなことを言うので、不思議に思って、「私の方でことをせいているのではありません。たびたびうるさく言ってくるので、『わたしにおっしゃるべき筋のことではございません。』と言っておりますのに、それでもおかまいなくうるさく言ってくるので思案に困っております。 ところで貴方のお手紙のあの言葉はどういうことでしょう。
(道綱母の歌)「今更、いったいだれが私になど寄りつきましょうか。馬でさえ寄り付かない枯れ草のように、貴方に捨てられた私ですのに」まあ嫌な事を!』書いて送りました。
◆◆
「かくてなほ同じごと、たえず『殿にもよほしきこえよ』など、つねにあれば、返りごとも見せんとて、『かくのみあるを、ここには答へなんわづらひぬる』とものしたれば、『ほどをさものしてしを、などかかくはあらん。八月待つほどは。そこにびびしうもてなし給ふとか世に言ふめる。それはしもうめきもきこえてんかし』とあり。」
◆◆こうしてまったく同じようなことが続いて、絶えず、「殿にぜひともご催促してください』などとしょっちゅうあるので、あの人からの手紙を右馬頭に見せようと思って、「こんな風にばかり言ってきますので、返答に困っております』と使いを出して申し上げると、返事には「時期については、これこれと申しているのに、どうしてこうも右馬頭はあせっているのか。八月を待っている間に、そちらでは大層大仰にもてなしていると世間ではうわさになってるよ。(道綱母が右馬頭を愛人めいて扱う)私は嫉妬のため息を吐かずにはいられない」とありました。◆◆
「たはぶれと思ふほどにたびたびかかれば、ああやしう思ひて、『ここにはもよほしきこゆるにはあらず。いとうるさくはべれば、〈 すべてここにはのたまふまじきことなり〉とものし侍るを、なほぞあめれば見たまへあまりてなん。さてなでふことにも侍るかな。
〈いまさらにいかなる駒かなつくべきすさめぬ草とのがれにし身を〉あなまばゆ』とものしけり。」
◆◆冗談だと思っているけれど、たびたびこんなことを言うので、不思議に思って、「私の方でことをせいているのではありません。たびたびうるさく言ってくるので、『わたしにおっしゃるべき筋のことではございません。』と言っておりますのに、それでもおかまいなくうるさく言ってくるので思案に困っております。 ところで貴方のお手紙のあの言葉はどういうことでしょう。
(道綱母の歌)「今更、いったいだれが私になど寄りつきましょうか。馬でさえ寄り付かない枯れ草のように、貴方に捨てられた私ですのに」まあ嫌な事を!』書いて送りました。
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