永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(6)(7)

2017年12月23日 | 枕草子を読んできて
一  春はあけぼの   (6) 2017.12.23

 春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
 夏は夜。月のころはさらなり。やみもなほ蛍とびちがひたる。雨などの降るさへをかし。

◆◆春はあけぼの。だんだん白んでゆく山ぎわが、少し明るくなって、紫がかった雲が細く横になびいているの。夏は夜がいい。月のあるころはいうまでもない、月のないころのやみもやはり蛍が入り乱れて飛んでいるのはいい。ふつう嫌われる雨などの降るのまでおもしろい。◆◆



 秋は夕暮れ。夕日花やかにさして山ぎはいと近くなりたるに、烏のねどころへ行くとて、三つ四つ二つなど、飛び行くさへあはれなり。まして雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆる、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など。
◆◆秋は夕暮れがいい。夕日が華やかにさして山ぎわにたいへん近くなっている時に、烏がねぐらへ行くというので、三つ四つ二つなど、飛んで行くのまでしみじみとした感じがする。まして雁などの列を作っているのが、たいへん小さく見えるのは、たいへんおもしろい。日がすっかりはいってしまって、風の音や虫の音などがするのも。◆◆



 冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず。霜などのいと白く、またさらでもいと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもて行けば、炭櫃、火桶の火も、白き灰がちになりぬるはわろし。
◆◆冬は早朝がいい。雪が降った朝などは言うに及ばない。霜などがたいそう白く、またそうでなくてもたいへん寒い折に、火などを急いでおこして、炭火を持って廊下などを通るのも、折にかなっていていい。昼になって、だんだん寒気もうすらいでゆるむようになると、いろりや火鉢の火も、白い灰がちになってしまうのは、劣った感じがする。◆◆


■春はあけぼの=春は曙をかし、などの略。
■紫だちたる=今の赤紫色 
■をかし=明るく心楽しい感動を示す。
■あはれなり=しみじみとした感動をいう。
■つとめて=早朝。名詞。
■炭櫃(すびつ)=いろり。一説に角火鉢。
■わろし=「あし」が善悪に当たるのに対し、「わろし」は優劣に当たるという。見劣りがする。




二   ころは   
 
 ころは、正月、三月、四五月、七八月、九十一月、十二月。すべてをりにつけつつ、一年ながらをかし。
◆◆ころは、正月、三月、四五月、七八月、九十一月、十二月。すべて季節季節に応じて、一年そっくりおもしろい。◆◆