永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(36)(37)(38)その1  

2018年03月07日 | 枕草子を読んできて
 二三    たゆまるるもの  (36)  2018.3.7

 たゆまるるもの 精進の日の行なひ。日遠きいそぎ。寺に久しく籠りたる。
◆◆つい、自然に気がゆるんでしまうもの 精進(毎月六斎日。八、十四、十五、二十三、二十九、三十日。肉食飲酒を絶って勤行する)の日のお勤め。当日までに長い期間がある準備。寺に長い間籠っているの。◆◆


二四    人にあなづらるるもの  (37)  2018.3.7

 人にあなづらるるもの 家の北面。あまりに心よきと人に知られたる人。年老いたる翁。また、あはあはしき女。築地のくづれ。
◆◆人にばかにされるもの 家の北側。あまりにも気が良いと人に知られている人。年をとっている爺さん。かるがるしい女性。土塀の崩れ。◆◆


二五    にくきもの    (38)その1  2018.3.7

 にくきもの いそぐ事あるをりに、長言するまらうど。あなづらはしきほどの人ならば、「後に」など言ひても追ひやりつべけれど、さすがに心はづかしき人、いとにくし。
 硯に髪の入りて磨られたる。また、墨の中に、石のこもりて、きしきしときしみたる。
◆◆にくらしいもの 急用のある時にやってきて、長話をするお客。それが軽く扱ってもいい人ならば、「後で」などと言って追い帰えしてしまうこともできるけれど、どうしても気のおける立派な人の場合は、ひどくにくらしい。
 硯に髪の毛が入って磨られているの。また、墨の中に石が入っていて、きしきしときしんでいるの。◆◆

■心はづかしき人=こちらが気恥ずかしくて、気おくれを覚えるような、すぐれた人



 にはかにわづらふ人のあるに、験者もとむるに、例ある所にはあらで、ほかにある、たづねありくほどに、待ち遠ほに久しきに、からうじて待ちつけて、よろこびながら加持せさするに、このごろ物の怪に困うじにけるや、ゐるすなはち、ねぶり声になりたる、いとにくし。
◆◆急に病人があるので、修験者を探し求めると、いつもの所にはいないで、別の所にいるのを探し回っているうちに、待ち遠しくて長い時間がたって、やっと待ち迎えて、よろこびながら加持にをさせるのに、このごろ物の怪の調伏に疲れ切ってしるのか、座るやいなや、読経が眠り声になっているのは、まったくにくらしい。◆◆



 なでふことなき人の、すずろにゑがちに物いたく言ひたる。火桶、炭櫃などに手のうらうち返し、皺押しのべなどして、あぶる者。いつかは若やかなる人などの、さはしたりし。老いばみうたてある者こそ、火桶のはたに足さへうちかけて、物言ふままに押しすりなどもすらめ。さやうの者は、人のもとに来て、ゐむとする所、扇して塵払ひ掃き捨てて、ゐもさだまらずひろめきて、狩衣の前、した様にまくり入れてもゐるかし。かかる事は、いふかひなきいはにやと思へど、すこしよろしき者の、式部大夫、駿河の前司などいひしが、させしなり。
◆◆とるにたりない平凡な人が、わけもなくしきりににこにこ顔をして物をさかんにしゃべっているの。火鉢の火や囲炉裏などに手のひらを裏返し裏返しして、皺を押し伸ばしなどしている者。いったいいつ若々しい人が、そんな見苦しいことをしていたか。年よりじみてみっともない人こそ、きまって火鉢のふちに足までもひょいとかけて、物を言いながら、足をこすったりするようだ。そんな無作法な者は、人の所にやって来て、座ろうとする所を、扇で塵を払って掃き捨てて、座る場所も定まらずにふらふらと落ち着かず、狩衣の前の垂れを、膝の下の方にまくり入れでもして座るのである。こうしたことは、身分の低い者がするのかと思うけれど、少し身分のある者で、式部の大夫とか、駿河の前司などといった人が、そうしたのである。◆◆