六七 草は (80) 2018.9.6
草は 菖蒲。菰。葵、いとをかし。祭のをり、神代よりとして、さるかざしとなりけむ、いみじくめでたし。物のさまも、いとをかし。おもだかも、名のをかしきなり、心あがりしけむと思ふに。三稜草。ひろむしろ。苔。こだに。雪間の青草。かたに。かたばみ。綾の紋にてあるも、こと物よりはをかし。
◆◆草は 五月の節供に用いる菖蒲。水草で筵などをつくる菰。葵がよろしい。賀茂別雷神が夢に託宣したのが賀茂祭の葵の挿頭(かざし)の由来でたいそう趣がある。おもだかも面高のことで名前がおもしろい。思い上がったのだろうと思うと。沼地に生える三稜草(みくり)。浜人参のひろむしろ。苔。こだに(?)。雪間に生える青草。かたに。かたばみ、これは綾織物の紋様として使ってあるのも、他のものよりはおもしろい。◆◆
あやふ草は、岸の額に生ふらむも、げにたのもしげなくあはれなり。いつまで草は、生ふる所いとはかなくあはれなり。岸の額よりも、これはくづれやすげなり。まことの石灰などには、え生ひずやあらむと思ふぞわろき。事なし草は、思ふ事なすにやあらむと思ふもをかし。また、あしき事を失ふにやと、いづれもをかし。
◆◆あやふ草(木や岩につく蔦の一種)は、崖の出っ張った端に生えているとかいうのも、「危うい」というその名のとおり、なるほどたよりなさそうで、しみじみとかわいそうである。いつまで草は、崖の端よりも、これは崩れやすそうだ。本当の漆喰塗りの白壁などには、とても生えることができないだろうと思うのが、欠点である。事なし草は、思うことをなしとげるのだろうかと思うのがおもしろい。また、悪いことを無くすのだろうかと、
どちらもおもしろい。◆◆
しのぶ草いとあはれなり。屋のつま、さし出でたる物のつまなどにあながちに生ひ出でたるさま、いとをかし。蓬いとをかし。茅花いとをかし。浜茅の葉は、ましてをかし。まろ小菅。浮草。こま。あられ。笹。たかせ。朝茅。あをつづら。
◆◆しのぶ草はとてもしみじみとした感じがする。軒端や、さし出ている物の端などに、強引に生え出ている様子が、たいへんおもしろい。蓬はとてもおもしろい。茅花(つばな)はおもしろい。浜茅(はまじ)の葉は、いっそうおもしろい。まろ小菅。浮草。こま。あられ。笹。たかせ。丈低く生えている茅萱。あおつづら。これらがおもしろい。◆◆
木賊といふ物は、風に吹かれたらむ音こそ、いかならむと思ひやられてをかしけれ。なづな。ならしばいとをかし。蓮の浮き葉のいとらうたげにて、のどかに澄める池の面に、大きなると小さきと、ひろごりただよひてありく、いとをかし。取りあげて、物おしつけなどして見るも、よもにいみじうをかし。八重葎。山菅。山藍。日陰。浜木綿。葦。葛の風に吹きかへされて、裏のいと白く見ゆるもをかし。
◆◆木賊(とくさ)といふ物は、(ざらざらしているので)風に吹かれている場合、どんな音がするのか自然と想像されておもしろい。なづな。ならしばはとてもおもしろい。蓮の水面に浮く葉がとても可憐で、のんびりと静かに澄んでいる池の面に、大きいのと小さいのと、広がりただよって動きまわるのは、たいへんおもしろい。葉を取り上げて、物を葉に押しつけなどして広げて見るのも、あれこれとおもしろい。八重葎。山菅。山藍。日陰。浜木綿。葦。これらがおもしろい。葛が、風に吹きひるがえされて、裏がとても白く見えるのもおもしろい。◆◆
草は 菖蒲。菰。葵、いとをかし。祭のをり、神代よりとして、さるかざしとなりけむ、いみじくめでたし。物のさまも、いとをかし。おもだかも、名のをかしきなり、心あがりしけむと思ふに。三稜草。ひろむしろ。苔。こだに。雪間の青草。かたに。かたばみ。綾の紋にてあるも、こと物よりはをかし。
◆◆草は 五月の節供に用いる菖蒲。水草で筵などをつくる菰。葵がよろしい。賀茂別雷神が夢に託宣したのが賀茂祭の葵の挿頭(かざし)の由来でたいそう趣がある。おもだかも面高のことで名前がおもしろい。思い上がったのだろうと思うと。沼地に生える三稜草(みくり)。浜人参のひろむしろ。苔。こだに(?)。雪間に生える青草。かたに。かたばみ、これは綾織物の紋様として使ってあるのも、他のものよりはおもしろい。◆◆
あやふ草は、岸の額に生ふらむも、げにたのもしげなくあはれなり。いつまで草は、生ふる所いとはかなくあはれなり。岸の額よりも、これはくづれやすげなり。まことの石灰などには、え生ひずやあらむと思ふぞわろき。事なし草は、思ふ事なすにやあらむと思ふもをかし。また、あしき事を失ふにやと、いづれもをかし。
◆◆あやふ草(木や岩につく蔦の一種)は、崖の出っ張った端に生えているとかいうのも、「危うい」というその名のとおり、なるほどたよりなさそうで、しみじみとかわいそうである。いつまで草は、崖の端よりも、これは崩れやすそうだ。本当の漆喰塗りの白壁などには、とても生えることができないだろうと思うのが、欠点である。事なし草は、思うことをなしとげるのだろうかと思うのがおもしろい。また、悪いことを無くすのだろうかと、
どちらもおもしろい。◆◆
しのぶ草いとあはれなり。屋のつま、さし出でたる物のつまなどにあながちに生ひ出でたるさま、いとをかし。蓬いとをかし。茅花いとをかし。浜茅の葉は、ましてをかし。まろ小菅。浮草。こま。あられ。笹。たかせ。朝茅。あをつづら。
◆◆しのぶ草はとてもしみじみとした感じがする。軒端や、さし出ている物の端などに、強引に生え出ている様子が、たいへんおもしろい。蓬はとてもおもしろい。茅花(つばな)はおもしろい。浜茅(はまじ)の葉は、いっそうおもしろい。まろ小菅。浮草。こま。あられ。笹。たかせ。丈低く生えている茅萱。あおつづら。これらがおもしろい。◆◆
木賊といふ物は、風に吹かれたらむ音こそ、いかならむと思ひやられてをかしけれ。なづな。ならしばいとをかし。蓮の浮き葉のいとらうたげにて、のどかに澄める池の面に、大きなると小さきと、ひろごりただよひてありく、いとをかし。取りあげて、物おしつけなどして見るも、よもにいみじうをかし。八重葎。山菅。山藍。日陰。浜木綿。葦。葛の風に吹きかへされて、裏のいと白く見ゆるもをかし。
◆◆木賊(とくさ)といふ物は、(ざらざらしているので)風に吹かれている場合、どんな音がするのか自然と想像されておもしろい。なづな。ならしばはとてもおもしろい。蓮の水面に浮く葉がとても可憐で、のんびりと静かに澄んでいる池の面に、大きいのと小さいのと、広がりただよって動きまわるのは、たいへんおもしろい。葉を取り上げて、物を葉に押しつけなどして広げて見るのも、あれこれとおもしろい。八重葎。山菅。山藍。日陰。浜木綿。葦。これらがおもしろい。葛が、風に吹きひるがえされて、裏がとても白く見えるのもおもしろい。◆◆