ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

アルコール依存症へ辿った道筋(その7)嫉妬は酒の肴のツマのような・・・?

2014-11-22 06:08:52 | 自分史
 業務が進行し時間が経過するにつれ、横槍が入るわ、想定外の事件で逆風が吹くわ、火の粉が降り懸るわで、「好事魔多し」成功の後ほど“魔”が忍び寄るのは世の常だと初めて実感しました。

 臨床開発業務の現場の具体的作業内容を紹介しましたが、正直大変な仕事です。当時、OA化の革命が進行中で内勤作業がワープロからパソコンへ時代が変わりつつありました。OA機器は進歩したものの、経験に裏打ちされた人の能力が重要であることに変わりありません。

 経験が問われるのは回収したデータのまとめ作業の時です。治験実施計画書から逸脱する問題症例がどのような場合に発生し易いのか、逸脱し易い医師はどのような癖の持ち主かまでも察知できるようになるには、まとめ作業の経験がモノを言います。これは回収した患者データを一例々々じっくり点検することでしか得られません。経験を積むことで、治験実施計画書を医師に説明する際も要点を絞り込み、要領よく伝えられるようにもなります。

「Ik君は優秀そうだから、別のプロジェクトで使いたい。」

 私が社長賞を受賞した39歳の初夏のある日、新化合物Aの承認取得に目途が付き、益々自信過剰になっていた上司のN先輩からこう切り出されました。研究所での会議後、市内のスナックに向かう道すがらのことです。Ik君が新Ca拮抗薬Pのチームに配属になってから2年ほど経った時でした。

「Ik君はまだ経験不足ですよ。もう少し“まとめ”の経験を積ませるべきです。」
「代わりは補充するから・・・いいな。」

 これだけでIk君は別プロジェクトに移ることが決まってしまいました。

 私が新Ca拮抗薬Pの兼任となったとき、Ik君が作った小規模な治験の症例検討会資料を見たことがありました。症例検討会というのは問題のある症例のデータ採否を決める研究会のことです。一瞥しただけで経験不足が見てとれました。資料を検討して“いただく”視点でまとめていないのです。

 共通する問題点を類別した上で、該当する個々の症例の問題箇所を類別した問題ごとに抽出して一覧にするのではなく、問題症例そのものをただ雑然と一覧にしていました。大規模なデータが相手では、一目瞭然で簡潔な資料の要請にはとても太刀打ちできないだろうと思いました。

 Ik君は営業部門出身者だけあって医師の興味を察知し、医師が興味を示す領域での規模が小さいチマチマした治験話を提案するのを得意としていました。仕事を広め、増やすことは得意でしたが、臨床開発にとって肝心なまとめ作業は不得手でした。それでも、まとめ作業さえ指導すればもう一息で一人前になる所まで来ており、そのようなスタッフを失うことは痛手でした。

 人事考課上は、仕事を広め、増やすことこそが前向きな(積極的)姿勢の表れと、高い評価を下されるのが全社的に共通した認識でした。まさに営業的発想の人事考課です。別プロジェクトでIk君の癖が発揮され、Ik君の再異動後に残ったスタッフがまとめ作業で四苦八苦したのは遥か後になってからのことです。

 酒が入ったら、くどくど理屈を捏ね出すのが私の常です。Ik君の件で腹が収まらず、N先輩に直接不満をぶつけては角が立つので、勢い専務のK氏批判をしてしまいました。

 そもそもの原因は、臨床開発担当の若手の数が少ないことです。新規の薬理作用を持つ新化合物の新規プロジェクトを立ち上げようとしても、肝心の経験を積んだスタッフ候補が払底していました。どのプロジェクトにも余裕が無いのです。

 経験者を臨床開発部門内で調達する方が、手っ取り早い策であることは理解できます。 が、「無い袖は振れない」のです。根本原因は、たとえ余剰人員の懸念はあっても、地道な教育でスタッフを養成しようという発想がなかったのか、あるいは育成しようとする発想はあっても提案できない社内の空気だったのか、このいずれかです。いずれにせよ、“少数精鋭”の虚名の下で人員の拡充を怠った責任は臨床開発部門トップ、専務のK氏にある
―― こんな正論で、K氏批判をしました。

 製薬企業に世界標準の臨床開発体制を迫る法律の改正(GCP:医薬品の臨床試験の実施に関する基準)の動きが始まっていることは、私自身当時まだ知りませんでした。世界標準の臨床開発体制では、少なくとも倍以上の人員が必要となります。

 臨床開発業務では、患者一例々々のデータを点検しデータ全体の質が評価に耐えられるのか判断することと、治験薬の特色を際立たすためのデータの切り口を見出すことが重要です。この点で学会や医療界の趨勢を採り込むことはデータの切り口を見出すのに有用なのです。これらで培われた知見が治験の立案にも反映されることになります。

 営業部門では出来合いの治験データの完成版を顧客=医師のニーズに応え要領よく説明することが主眼であって、臨床開発では個々のデータからまとまった成績の形に造り上げるのが主眼で、両者は決定的に違います。使う人と造る人の違いです。個々のデータを読み込むことによって、データ全体の姿を把握するだけでも相当な経験を要します。一朝一夕に出来るものではありません。

 後から振り返ってみて、臨床開発部門の人員拡充する際の最善策は次のようなものでしょうか。

 即戦力が必要なら、3~5年程度の臨床開発の経験がある転職希望者を募るのが最適で、多人数が一度に入社して来てもあまり問題はありません。新しい会社について、必須の知識の習得に要するのが半月、社風を理解するにも通常業務をさせながら3ヵ月もあれば十分です。

 未経験者の場合は、医師相手の営業経験者であっても、3年以上経験させないと本当の戦力にはなりません。実践に即した教育ですから、最低半年間は1対1の教育担当係が絶対に必要です。未経験者に対し、治験実施計画書を読ませた後で患者データを見せても、最初はチンプンカンプンでしょう。実践そのもので鍛える徹底した現場教育(OJT)によって、1年ぐらいでモノになれれば儲けものです。

 N先輩配下のプロジェクトで新人を教育できるのは、経験と実績からしても私しかいなかったのも事実です。「しょうがない」私はこのように収めようとはしていました。が、私たちの窮状を間近で見ているはずのN先輩の、有無を言わせない言い方がひどく気に障ったのです。一人で酒を飲むとき、しばらくは何度も憤懣が湧いてきました。

「くそっ、オカシイィ!社長に可愛がられ偉くなったヒトは違う。・・・」嫉妬は典型的なマイナス感情です。仕事で長時間にわたって神経の緊張を強いられ、習慣的飲酒で心の歪みが相当進んでいたのでしょう。相手にされることのない刺身のツマならば思うような、遣り場のない気持ちでした。憤懣の矛先を、本来ならばどこに向ければいいのか・・・?全決定権は社長にありました。

 会社でも仲の良かった2歳年上のPM仲間と二人で飲むときには、決まってN先輩の傲慢な行状を酒の肴にしたものです。
「Nさん(先輩のこと)、最近オカシいんじゃないか?特に近頃、益々ヒドクなっていないか、歩く傲慢だよな!?」
この人とは一緒に米国出張したり、日航機の御巣鷹山墜落事故のとき一緒に新幹線で帰阪したりした仲で、彼の承認申請作業を手伝ったこともある気の置けない仲間でした。彼の前では、酒を飲んではよく愚痴をこぼしていました。堪え性が無くなっていたので、怒りの矛先が筋違いのN先輩に向かっていたのでしょうね。

 交代要員として来たのは、入社4年目の営業成績が優秀な、八方美人の若手、M君でした。これでは交代要員ではなく、事実上の戦力ダウンです。医師との付き合い方は心得ていても、臨床開発についてはズブの素人です。臨床開発業務を一から教えることになり、教育にそれなりの時間を割かなければなりません。内勤の女性社員1人を除き、私も含めて全員で4人の戦力から1.5人分の戦力を削がれたと同じでした。


アルコール依存症へ辿った道筋(その8)につづく


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