ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

アルコール依存症へ辿った道筋(その18)被災地では・・・

2015-02-07 07:18:32 | 自分史
 避難先のホテルに滞在中、出張続きの合間の休日には徒歩10分程のコインランドリーで朝洗濯をしていました。一見して被災地から避難してきたと分かる人々も来ていて、精神的にクタビレてはいるものの、洗濯が出来るだけでもマシという安堵した気持ちが表情から読み取れました。実際、順番待ち後に洗濯機や乾燥機を回し始めると、しばらくは新聞や雑誌を読む寛いだ時間が持てたのです。来る日も々々新聞は震災記事で満載でした。

 洗濯のために往復する道は歓楽街のど真ん中を通ります。朝の歓楽街は飲食店から出たゴミ用容器や食べ物の残りクズ、吐瀉物などがあちこちに散らばり、それらにカラスが群がっていることもあります。電飾で装ったケバケバしい夜とは打って変わって、朝は雑然としていて気怠ささえ感じさせます。このような場の空気は、精神的にも身体的にも元気を取り戻すためにはあまり相応しくない環境でした。

 ホテルの方も安普請で、部屋同士を仕切る壁が薄く、隣室の咳払いや放屁の音まで聞こえて来る始末です。これではプライバシーなど有り得ません。震災10日目には神戸の青木まで阪神電車が運転を再開し、私の住む阪神西宮まで電車が通るようになりました。それで休日には、洗濯を済ましてからワンルームの自宅に戻ることにしました。悲惨な状態ではあっても、やはり阪神地域への愛着が強かったからです。被災地にいた方が、ホテルにいるよりも心身共に落ち着くことが出来そうだと思ったのです。

 阪神西宮駅に降り立って、初めて駅周辺の被害の壮絶さを目の当たりにしました。西宮神社(戎神社)への参道でもある規模の大きな中央商店街一帯は倒壊した建物だらけで、立っているものといえば屋根を残したアーケードだけでした。見るからに無残な姿で、賑わいがあった面影などどこにもありません。商店街の脇にある飲食店界隈も倒れ掛かった電柱や建物が並び悲惨な状態でした。火災こそ発生しなかったものの被害は甚大でした。

 商店街のアーケードに吊るされていた当時の時計が、地震発生時の時刻を指した状態のまま今も記念碑的に残されています。駅前南側ロータリーの南向かい、ダイエーの敷地の一角に現在でも見ることができます。

 戎神社では、国の重文の大練塀(おおねりべい)という築地塀が崩れ、境内の夥しい数の石灯籠も軒並み倒れてしまいました。本殿は大丈夫だったものの、拝殿の柱が倒れて全壊、社務所も全壊だったそうです。ワンルームの自宅まで徒歩12分ほどの道も、倒れ掛かった電柱で迂回せざるを得ない区画もありました。

 地震からほどなくして会社の災害援助隊が、裏六甲から車で神戸に入ったという話を聞きました。阪神間の幹線道路はどこも車両規制があり、大渋滞で簡単には神戸に入ることができなかったのです。

 会社の災害援助隊の報告によると、被災現地は報道に勝る大変深刻な状況だということでした。災害報道では通常、周辺は大したことがなくても、最も酷いところを中から選んで写していることがあります。そのため報道を額面通り受け取れない場合もあるのです。その一方で、被災から間もなくして神戸元町の中華街・南京町では早くも営業を再開したという明るいニュースもありました。

 この目で実際に被災地の最悪の状態を見てみようと、ワンルームの自宅から神戸の中心地、三宮と元町方面へ二度足を伸ばしてみたことがあります。電車が不通のままだったので、最初は歩きで途中まで、二度目は自転車で片道15kmほどの距離を往復してみました。

 国道2号線を神戸方面へ進むと、どこも同じ異様な風景がどこまでも続いていました。目にする建物でまともなものは殆どありません。自分の視界に映っている街が傾いているのか、あるいは自分自身の身体が傾いているのかが分からなくなる不思議な体験でした。どの光景を一コマとっても報道された映像そのものでした。すでに損壊したビルの解体作業が始まっていて、大型重機や電動ドリルの騒音が喧しく、辺りには粉塵が舞っていたと思います。

 三宮や元町方面へは徒歩だと往復8時間ほどかかるのですが、食料や飲料をどこで調達したのか覚えていません。コンビニは営業していたと思います。復路は二度とも国道2号線より山側、JR神戸線と阪急神戸線の間を通る山手幹線という幹線道路を通って帰りました。山手幹線の沿線の風景は一見して遥かに軽い被害だったことに驚いたものです。

 こんな最中に呆れた悲喜劇もありました。神戸の中心部からやや西の方、須磨付近で阪神高速に誤って入ってしまった乗用車が、橋桁が落下した部分から転落したという事故の報道があったのです。神戸では阪神高速の橋桁があちこちで落下し、通行止めとなっていることは報道で周知のことでした。私のように被災地を一目見てみようと県外から来た野次馬が、日常的習慣の意識のままに無意識に引っ掛かってしまった落とし穴だったと思います。

 被害が集中した被災地の様子は私が目にしただけでもこのような惨状でした。壊れた街は一度解体し、その後再建しなければなりません。それらの作業は一斉に始められるものではなく、復興するまで一筋縄にはいかないだろうと思われました。

 あの時から20年経ちました。私が現在通院しているアルコール依存症専門クリニックは元町の繁華街のひとつ、南京町の西外れにあります。当時を知る地元の人なら今でも分かるのかもしれませんが、近くの元町商店街を含め周辺のどこを探しても、今では震災の爪痕を見つけることができません。クリニックのビルも震災後に建てられたものです。

 私の地元の被害が酷かった西宮中央商店街では、地主と借地権者(家主)と店子の権利関係が複雑に混み入っていたため、再建まで相当長い年月を要しました。再建した商店街には高いビルが並ぶようになりましたが、震災前の活気ある賑わいは戻って来ていません。


 ワンルームの自宅近隣の被害状況も見て回りました。その日常生活の様子についても触れておきます。

 倒壊した家屋は至る所にありました。その残骸に連絡先を記したダンボール紙が置かれていた所もありました。被害の程度に関わらず、ほとんどの飲食店は仮店舗を構えるなりして何とか営業を再開していました。

 阪神西宮の方角から時計回りに60度ほど北側に回転させた同距離のところにJR西ノ宮駅があり、駅前の国道2号線沿いあるコープ神戸の大型店舗も営業していました。大概のものは揃えていたので、酒やら食料やら一切合切の生活用品を買い求めることができました。

 コインランドリーが併設されていた銭湯は煙突が倒れてしまい、建物も半壊状態でした。洗濯のため利用していたのですが、利用不能です。洗濯をどうするかが緊急課題となりました。幸い避難先で済ましていたので当面は問題ありません。この洗濯問題もライフラインが復旧する頃には、更地になった所にプレハブ造りのコインランドリーが出来、一件落着となりました。ワイシャツを出していたクリーニング屋は建物が全壊でしたが、少し離れた所で仮店舗を構え営業していました。

 これで食料、酒、洗濯という生活する上での問題は解決となりました。私にとって残る問題はガスと水を必要とする風呂だけでした。妻と息子たちは車で10分ほどにある天然温泉を利用していたそうです。

 誰もが生きることに必死で生活することに懸命だったのです。耳よりな情報をお互い交換し合い助け合って生活していました。

 ワンルームの自宅での夜、ビールが切れて酒屋の自動販売機に行くと、販売機の影の暗がりに男が一人しゃがみこんでいました。同じ場所で何回か見かけたので、ある時声をかけてみました。「いつも、ここで呑んでいるんですか?お幾つですか?」男は52歳の独り身と答えました。聞くと「失業してしまい・・・、震災になってこの方、何もすることがなくってやる気が出て来なくて・・・」呑んでばかりいるとのことでした。

 私と同じように直ぐ近くのワンルームに住んでいて、たまに昼間でもふらついた足取りで歩いているのを見かけました。髪がバサバサで182cmの大柄な身体が酷くみすぼらしく見えました。見るからにアル中そのものでした。

 経験者となった今からみると、やる気が出ないということはビタミンB群不足が相当進んでいる証拠です。震災3日目に会社から電話で呼び出しがなかったら、私もこんな風になっていたのだろうと思いゾッとしました。定年退職後によく嵌りやすい恰好の落とし穴と後で身を以て知りました。ほどなくして、その男の姿を見かけなくなりました。入院したのか亡くなったのか分かりません。

 地震発生から54日後の3月12日にガスと水道が同時に復旧しました。早速、非難先のホテルを引き払いワンルームの自宅に戻りました。3月20日には東京でオウム真理教による地下鉄サリン事件が起こり、メディアの関心は震災から離れて行きました。

 4月になってからだと思います。JR神戸線が全線復旧して神戸の鷹取や長田まで行けるようになったので、電車の窓から線路南側の被災地を見てみることにしました。現地はまるで空爆を受けた跡のようでした。焼け残ったビルがポツンポツンと建っているだけで真っ黒に焼け焦げた廃墟が広がっていました。その光景にはただ息を飲むだけでした。


アルコール依存症へ辿った道筋(その19)につづく



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コメント (1)
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