ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

アルコール依存症へ辿った道筋(その20)離婚届と手紙の交換?

2015-02-27 18:29:21 | 自分史
 こんな言葉があります。
「男は浮気した女の肉体に嫉妬し、女は浮気した男の心に嫉妬する」。
当時の私が抱いていた男女関係もこんな類いのものでした。以下は、私に当時取り憑いていた妄想の一端です。

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 エロス=性愛の領域は、相手が独立した人格と認める日常とは全く異なった精神領域にあります。日常では他人という人格は自分の思い通りにならない存在との認識が普通です。ところが性愛では違いがある人格は邪魔です。黙殺出来る程度の相違の方が良いのです。“臍下三寸は別人格” とはうまく言ったものです。

 性愛の領域では、相手が自分好みの体型をしていて、自分の欲求を思いのままに受け入れてくれ、愛撫に反応してくれ、快感をストレートに表してくれることが一番よい相性となります。いわば異性が生きた愛玩ペットであることが最高なのです。

 男も女もお互い相手の性器を前にすると、人格の違いなど全く気にしない異質の意識へとスウィッチが入り、恥も外聞もかなぐり捨てて異質の行動を採るようになります。まさに異次元の別世界へワープ(warp)する感覚です。

 AVも含めた性風俗の根強い人気は、男性に共通するこの異次元の別世界へワープしたい意識があるからです。その業界に働く女性も同じ意識を共有しているから、たとえ相手が初対面でも大して抵抗もなく従事できているのです。

 性愛は日常の善悪を超越した世界です。一心同体が唯一の目標となる共同幻想、共同妄想なのです。性ホルモンという物質に操られた本能によるものです。日常はその対極にあるいわば理性優勢の世界です。

 日常と性愛とは日々共存していますが、そのうち日常の方が圧倒的に優勢となってしまうのが結婚生活です。日常が優位な精神状態でなければまともな経済活動はできません。稼ぎがなければ結婚生活は必ず破綻するのです。

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 手紙を見つけた時の私は、妻が別の性愛の世界に移り去ってしまったこと、つまり “寝取られた” ことに衝撃を受け、その事実が受け入れ難かったのだと思います。妻の心に嫉妬したわけでもなく、妻が愛しかったからでもありません。自分流に築き上げてきた性愛の世界を K にあっけなく壊されて無くなってしまったことに嫉妬して怒り狂うこととなったのです。

 妻という存在は独立した人格で、独立した人格は自分の思い通りにはならない、だからこうなる事態も当たり前、と判断できる日常の理性は全く頭になかったのです。このように通俗的としか見えない怒りの感情にも合理的な不合理があります。

 妻と K の二人が息子たちを巻き添えにした罪も許せませんでした。信用していた母親に自分たちは裏切られたと思ったに違いありません。旅先で長男は一人離れて行動していたそうです。私の築いた家族は私の知らないところで文字通りバラバラにされていました。大人の分別を欠いた二人の狼藉に腹が立ったのです。

 その翌々日だったと思います。昂ぶった気持ちを鎮めるためもあって、気晴らしに市内をサイクリングしに出掛けました。交差点では舗道と車道の境が段差になっていますが、その段差の衝撃で前輪が支軸から外れてしまいました。15~20分ほど走ってからのことで、スピードを出していたら身体が前方に飛ばされてしまう危ういところでした。車が通りかかっていたら間違いなく人身事故でした。

 車輪と支軸がナット圧だけで繋っているという簡単な構造だったからで、近くにたまたま自転車屋があったので緩んだナットを締めてもらいました。その時は人為的な細工の可能性など思い浮かばず、ナットが緩むこともあるんだと余り気に留めずにいたのです。

 手紙の発見から7日ほどしてからのことです。会社から帰ってみると、室内の雰囲気がどこか違うことに気付きました。調べてみると、例の箱とは別にしていた手紙が皆持ち去られていたのです。箱の方はそのまま残っていました。自転車の前輪外れも意図的な事件だったかもしれないと思われ、心底背筋が凍る恐怖にかられました。

 不安で居たたまれず親友の Y に電話し、殺されるかもしれない恐怖を伝えました。K と妻のコトの経緯を洗いざらい打ち明けました。この Y と、かつて大学受験のとき合宿した T、それと K の三人を私は親友と思っていました。翌日 Y が東京からわざわざ駆けつけて来てくれました。

 「有朋自遠方来、不亦楽乎」論語のこの言葉がぴったりの頼もしい援軍に映りました。二人で酒を飲み、愚痴をこぼすことが出来て、私はやっと落ち着きを取り戻したのです。酔いの勢いで深夜に本宅マンションを見てもらいにも行きました。往復とも徒歩行ですから2時間以上かかりました。酔って気が大きくなっていなければ、とても出来るものではありません。Y は快く付き合ってくれました。

 泥棒みたいに勝手なマネをされたことに腹の虫が治まらず、翌日妻に電話で抗議しました。

 いの一番に不在時に無断で部屋に入り込み、勝手に手紙を持ち去ったことを詰(なじ)ってやりました。妻は、部屋に入れるのは鍵を持っている長男だけで自分はやっていない、勝手にものを持ち去ったと言うなら自分(私)こそ大切なプライバシーそのものをコソコソ盗んだではないかと反論して来ました。そこで私は自転車のナット緩みの件も持ち出し、私を殺(や)ろうとしたのではないか問い詰めてみました。当然、妻の応えはそんなことは知らないと冷やかに言うだけでした。

 こうなったら不毛の水掛け論です。つまらない論争になったと思い電話を終えました。妻への不信感は拭えないままでした。離婚はもう避けられないと考えていました。

 離婚に同意すると妻に伝えたのは翌月になってからでした。さらに1ヵ月して協議離婚に同意する覚書を交わしました。

 覚書では、管理費・光熱費・電話料金を私が負担するままとし、二男が高校を卒業するまで本宅マンションに住み続けることを容認、というのが主眼でした。が、文案中に書き込んだ “不義密通” という離婚原因の言葉に妻が強い拒否反応を示し、削除を求めてきました。なぜ拘るのか興味がありましたが、何も言わず削除に同意しました。

 “不義密通” とは掟破り(違法行為)のことです。覚書が文書である以上、文言の削除はそれを認めないという意思表示です。妻としては、心底本気だったと言いたかったのか、責任と原因はむしろ私にあると言いたかったのか、そのどちらかだったのでしょう。“不義密通” という文言を入れたのは、口惜しがる私の心の卑しさだったのです。

 K が自殺したと Y から連絡があったのはそれから間もなくだったと思います。このことを妻には伝えませんでした。正式な離婚届の提出はさらに1年半後のことでした。妻の捺印済離婚届用紙と物々交換で K の手紙の残り全部を妻に返却しました。


 別居後の私が清廉潔白であったわけでは決してありません。私も性愛相手を捜していました。別居したからこそ猛烈な性的欠乏感を覚えたのだと思います。アルコールで増幅された性的妄想が再び手引きをしていました。

 金銭だけを介する風俗は無機質で味気ないと思い、夕食を毎日とっていた食堂でアルバイトしていた中国人の女医とか、会社の受付の女子社員や、仕事で使っていたスナックのママなどが手短な物色先でした。そのうちスナックのママが相手をしてくれましたが、結局高くつきました。

 ママのスナックでアルバイトをしていた中国人ホステスが客の上着からお金を抜いていたことが発覚し、ママがその分を補填して客に返金したという事件がありました。返金してもらった客が店に戻って来なかったので、困ったママは私に会社の同僚分を要求してきたのです。女は結局、万事がお金だと思い知らされました。そう口惜しがる男も何のことはない、同じ穴の狢(ムジナ)なのです。

 “現代人の神はお金である” と見事に喝破した人がいました。ナンダカンダ御託を並べてみせても、キレイ事で済まないのがこの世の中です。全能の神、お金。私は全面的に同意せざるを得ません。


 今振り返ってみると、自宅マンションの購入や、仕事での成功(社長賞受賞)、昇給実現、息子たちの私学への入学など、ささやかながら目に見えて幸運が続いていました。結婚以来、抱き続けてきた理想が形になったのです。

 これらの目に見える小さな幸せに妻共々無邪気に舞上がってしまい、心に隙が出来ていたのでしょう。慢心からの落とし穴にまんまと嵌ってしまいました。平常心を失っていたので頭を冷やせと天からバチが当たったのだと思います。自宅マンションの購入が象徴的なので、悔恨を込めて “マイホーム舞上がり症候群” と名付けてみました。

 どんなときでも平常心でいられるには経験の積み重ねが必要なのです。良いことにも、困ったことにも、経験の引き出しからしか対応策は見出せません

 そういえば別居当時よく空を飛んでいる夢を見ました。私が体外離脱した幽体となって空を飛んでいたのです。スーパーマンのように水平に飛ぶのではなく、立ったままの姿勢で垂直ジャンプするような飛び方でした。なかなか思い通りにならない現実から飛躍したいという願望の表れだったのでしょうか? 幽体が体外離脱するというのは臨死体験でよく出て来る話で、その体験記が一時雑誌に連載されていました。


アルコール依存症へ辿った道筋(その21)につづく



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コメント (1)
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