ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (中)

2015-12-25 17:53:44 | 病状

 アルコール依存症には、“酒乱型” と “寝型”  といった酔ったときの行動による分類、“連続飲酒” や間歇的な “山型飲酒” といった飲酒パターンによる分類などの分類の仕方があります。

 前回に続き、体質で分ける “脳組” と “肝組” の分類のうち、今回は “脳組” に特化した話です。百薬の長といわれるお酒が現わす毒性の話でもあります。

 アルコール依存症専門クリニック初診時、私の肝機能検査値は AST(GOT) 57 U/L↑、ALT(GPT) 60 U/L↑、γ-GTP 310 U/L↑、総ビリルビン1.3 mg/dL↑でした。γ-GTPは患者の仲間内で1000超の数値がよく話題に上る検査項目ですが、私の検査結果はそれに比べたらはるかに低い数値です。まぁ、中等症ぐらいに位置付けられる重症度でしょうか。本格的な大酒飲みになってからだけでも20数年は下らない飲酒歴ですが、この程度の軽さで済んでいました。このことからみても私は “脳組” に分類されると思っています。

 アルコールを大量摂取していると、ビタミンB1が体内へ吸収されることなく、消費されるばかりになります。だから、ビタミンB1欠乏症になることは “脳組” の宿命なのです。専門クリニック初診前に経験していた症状をビタミンB1欠乏という観点から改めて振り返ってみると、当時の症状でビタミンB1欠乏が原因だったのだろうと思われるものが少なくとも3つ浮かび上がってきます。
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抹消神経障害
 足裏に薄物の靴下を履いているような感覚や、手や足の指先がしびれている感覚(知覚異常)が左右対称性にありました。それも、初診の5年以上前から続いていた記憶があります。糖尿病では必発の症状(糖尿病性抹消神経障害)と知っていましたから、てっきり糖尿病が進行していたせいとばかり考えていました。その内に足裏の知覚が麻痺し、釘を踏んでも気づかずにいたり、指先の壊疽が始まったりするのではと怯えていました。

運動失調
 朝起きたときに、布団から上手く立ち上がれなくなったのには恐怖心さえ覚えました。胡坐の姿勢から片膝を立て、上体を前後に何回か揺すって勢いを付けなければ起ち上れませんでした。どうにか起ち上がったものの、勢い余って向かいの襖に頭を突っ込みそうな塩梅の毎日でした。たとえぶつかっても安全そうだったのが襖だったので、その方角を向いてやっていただけの話です。足元がふらつき、踏ん張りが効かないことには心底怖さを感じたものです。

 手の指先が覚束ないため胸元のボタンがなかなか嵌められなくなりました。鏡なしでは出来なくなり、鏡の前で四苦八苦していたものです。ボタン嵌めだけで10分ぐらいは懸ったでしょうか。階段や傾斜のある道を手摺なしでは下れないというのもありました。

 これらの運動失調による不便がどれだけ切実だったか、ぼんやりした頭でもさすがに「これはイカン! ヤバイ! 助けてくれぇ~」と内心呟いたほどでした。「この先、介助なしで普通に生きていけるのだろうか?」と不安を覚えたものです。健常者の生活からは程遠い、要介護者の生活に近かったのだと、今頃になって痛感しています。

 顕著な運動失調が始まったのは専門クリニック初診の2~3ヵ月ぐらい前からで、日を追ってだんだん酷くなったように思います。専門クリニック初診の1週前には、初めて歩行中に失神・転倒してしまいましたが、もはや自力で起き上がることが出来ませんでした。これらの運動失調がアルコール性小脳失調と呼ばれていることは後になって知りました。ウェルニッケ脳症になりかかっていたのでしょうね。

 歩く速さが極端に遅くなっていたことと、階段を上る際に踵が段から完全にはみ出るようになっていたことも挙げておきます。上記の二つの症状ほど辛くはなかったのですが、明らかに普通ではないと感じていました。専門クリニック初診の4~5年前から始まっていたと思います。

 ビタミンB1の欠乏が原因で目を動かす神経の動眼神経や滑車神経に麻痺が生じ、物が二重に見えることがあるといいます。テレビの画面や駅のホームの列車案内板の文字が二重に見えて読みにくかったこともありました。元々乱視を伴う近視だったので、乱視が酷くなったのか(?)としか思いませんでしたが・・・。断酒を始めた後になって視力を測ってもらったところ、メガネの度が合ってないことが判かりました。視力が少し回復していたのです。ビタミンB1欠乏との関係は分かりません。

意欲の低下
 専門クリニックを受診する前は、意欲が欠けた状態でした。何もやる気が興らず、もうどうなっても構わないという気分に支配されていました。散歩に出ることもなくなって、外出と言えば近くのスーパーへ発泡酒を買いに出るぐらいが関の山で、家の中に引き籠っていました。発泡酒を片手にテレビを点けたまま音を聞くだけ、あとはパソコンの画面をただ追うだけの毎日でした。食べる方も、スーパーでの買い物ついでにフードコートでザル蕎麦を食べるぐらいが精々だったと思います。

 専門クリニック初診時、主治医からアルコール依存症ではビタミンB1欠乏症の合併が付き物で、ビタミンB1を点滴で補充すれば必ず意欲が戻ると言われました。頭はぼんやりとしていましたが、このことだけははっきり聞こえたものです。が・・・、意欲が回復(?)と半信半疑でした。
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 上述した3つの症状がビタミンB1の欠乏によるものとはっきり知ったのは、専門クリニックで教育プログラムを受講してからのことです。アルコール性小脳失調という症状名についても、大分後になってから知りました。両手を上げて掌をヒラヒラ反復捻りするキラキラ星、これが出来ないことで小脳失調を診断するそうです(ご参考までに)。

 私が持ち合わせている知識では、普通の身体的不調は、たとえ神経障害(炎)でも、薬で回復できるものと理解できてはいました。抹消神経障害や運動失調の原因がビタミンB1の欠乏ならば、ビタミンB1を補充しさえすれば回復する。この程度のことならば私でも十分理解可能な範囲内です。私は、意欲というのは極めて “精神的なもの” であり、抹消神経障害や運動失調などとは別物と考えていました。

 ビタミンB1はチアミンという一般名を持つ化学物質です。その謂わばありきたりの化学物質が意欲という極めて “精神的なもの” に深く係わっていて、その化学物質を補充するだけで意欲を回復させられるとは信じられなかったのです。点滴を始めて3ヵ月目ぐらいからでしょうか、見事に意欲が戻って来ました。抹消神経障害と運動失調も同時期に回復できたのはもちろんです。

 抗精神病薬を独自に開発した会社の元社員でありながら、私は今まで一体何を学んできたのでしょう? ヒトの身体はすべてが化学物質で出来ており、精神活動でさえ(化学物質の)分子間の化学反応に左右されていることを初めて実感し、心の底からそれが納得できたのです。統合失調症を適応症とする抗精神病薬は、神経細胞(ニューロン)間の情報伝達物質、主にドパミンとその受容体間の情報伝達に介入して作用するものです。代表的精神疾患の統合失調症でさえ化学物質間のバランスの崩れで説明されています。こんなことも意識の外でした。

 ビタミンB1欠乏症というと、その昔 帝国陸・海軍を危機に陥れた脚気が有名ですが、心臓脚気やウェルニッケ脳症のように死に直結する病気もあるということを忘れないでいたいものです。

 “肝組” のアルコール依存症者の末期が肝硬変とすれば、 “脳組” にとっての末期はアルコール性認知症でしょうか。その認知症の初期症状は記憶障害といいますから、記憶障害について是非とも触れなければいけません。次回は本当のアルコールの怖さ、記憶障害について考えてみようと思います。


私の底着き体験・断酒の原点」もご参照ください。
 

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コメント (4)
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