薬事法
規制措置が憲法二二条一項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、
これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。
この場合、・・・・・裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。
森林法
財産権に対して加えられる規制が憲法二九条二項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、
規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものであるが、
裁判所としては、・・・・立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであつて、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法二九条二項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解するのが相当・・・
小売市場
個人の経済活動に対する法的規制措置については、
立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。
【コメント】
薬事法と森林法はかなり似ているが,違う部分もある。森林法事件は,「明らか」という修飾語を,「公共の福祉に合致しないこと」と「規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが」という双方に付加している。つまり財産権規制の違憲審査はやや緩やかなものになるということである。これは,財産権(特に不動産)が「規制されるのがむしろ基本」であるという権利の性質によるのではないだろうか。立法府の裁量を広く認める趣旨であろう。薬事法が,職業は,「個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものであり・・・」と言い切った点との違いもあるだろう。
森林法と小売市場は「明白」と「明らか」という点で修飾語が共通しているが,被修飾語が異なるので注意すること。森林法事件は,「必要性」と「合理性」の欠如が「明らか」かどうかと述べ,小売市場で事件では,個人の経済活動に対する法的規制措置が「著しく不合理」であることについて付加されているのである。すなわち,論文では当てはめの際に,「明らかである」と断定する部分が変ってくるので,事実の評価の際に気をつけて欲しい。