6月30日
元いた病室に、「ただいま~!」と、元気よく帰った私を、
さん、さん、さん、一足先に戻っていたさんが、
おかえり!と出迎えてくれる。
昨日わざわざ様子を見に来てくれたさんは、退院されたんだとか・・・
さんは、昨日の午前中から、抗ガン剤の投与開始だったんだけど、主治医である先生が、私の手術に入るため、投与の時間に立ち会えなかった。
私が決めたことではないとはいえ、申し訳ない気持ちがする。
そのうえ、来てもらったお礼もまだ言えてないのに・・・
この場を借りて、
さん、わざわざ様子を見に来てくれてありがとうございました。
さて、部屋に戻ったのはいいが、ベッドやテレビなどの移動があるので、椅子に座って待つことになる。
看護師さんと看護助手さんで、移動させてくれる。
ヤレヤレ・・・と、ベッドに横になった。
あっ! テレビの接続がまだだ!
変にさわって壊してもいけないしなぁ。
看護師さんが、来たときに頼むことにしよう。
(お昼からの検温の時間にお願いして、接続してもらった。)
昼食の時間になる。
せいぜい重湯かな?と思っていたんだけど、
いきなり三分粥(さんぶがゆ)からスタートをするとは・・・
でも、三分粥って食べた経験がない。
な~んだ~ ほとんどお湯じゃん・・・
お塩がついていたので、とりあえず振りかける。
ペースト状とはいえ、おかずも付いているのよねぇ。
でも、ペーストになっているので、色から本体が想像できない。オレンジ色をしているので、ニンジン?と思うと、ナンキンだったり、白いので、ポテトサラダ? と思うと、白身魚のほぐし身だったり・・・
お塩を入れたけど、まだ薄味・・・
逆に白身魚は、少々辛い。
ひらめいた!
おかゆの中へ、白身魚をほりこんで、一緒に食べた。
美味だわ~ん。
やっぱり、赤ちゃんになった気分。
これって俗に言う離乳食みたいやん。
また高齢になって、同じようなメニューになるかもしれないなぁ。やっぱり人間って、年を経て赤ちゃんに戻るんだろうか?
ともあれ、完食!
時間は忘れてしまったけど、この日も抗生物質の点滴を受けた。
食後、ベッドでくつろいでいたら、なんか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あっ! ここやわ~」カーテンの影から、従姉の顔。
あら~、お見舞いに来てくれたの。
伯母、従兄も一緒に来てくれた。
でも、従兄は「女の人ばかりだから、外で待っている。」と言って出て行った。
気をつかっているのか、居心地が悪いのかは不明。
実は、この伯母一家に私の病気のことを、連絡するつもりは全くなかった。
この伯母は、私の母の姉である。
母と同じように、物事をあっさり、いいように考えられればいいんだけど、あれこれごちゃごちゃ考えてしまうタイプである。
もし、私の病気のことを言ったら、落ち込んでしまうだろう。
いや、伯母に限らず従姉もだが・・・
自分のことで精一杯なのに、伯母たちのフォローまで回れるか!
これが、私の本音であったし、母も同じように考えていた。
ただ、従兄に黙っておくのも変だから、連絡を入れるというので、「お任せしますわ。」と言っておいた。
それが、神の仕業?
間違えて伯母の家の電話番号をプッシュしてしまったようだ。 仕方なく、私の病気の事を伝えたらしい。
その電話を切るなり、速攻で我が家へ連絡をしてきた。
あっけらか~んとした私の声を聞いて、従姉は安心したようだが、伯母は、「かわいそう」と言いながら。、メソメソ泣いていたらしい。
だから、言わなかったのに・・・
でも、かわいそうねぇ。
本人が、「自分はかわいそうな人間だ」と、一度も思ったことがないのになぁ。
ともかく伯母達は、私の顔を見ないと安心できないらしい。
心配してもらうのは、ありがたいんだけど・・・
伯母の声はでかいので、他の人に迷惑だ。
ディルームへ移動する。
「もう歩いてもいいの?」と驚かれる。
どんどん歩けって、言われているよ!
すこしだけおしゃべりした後、疲れるといけないから・・・と言って、帰って行った。
エレベーターまで見送りしたついでに、病棟内をゆっくり1周して帰った。まだゆっくりしか、歩けないんだけど・・・
ベッドに戻り、横になると、眠いと思っていないのに寝てしまう。睡眠時間が元々5時間程度の私。
昨日から、起きている時間と寝ている時間は、日常生活と反転しているようだ。 どうしてこんなに寝られるんだろう?
夕方、母が顔を出してくれる。
運動がてらに、再びディルームへ移動する。
今日はエアコンが、あまり聞いていないようだ。
世間様では、エコといって、エアコンの温度を27~8度に設定しているが、この病院では、25.5度が標準らしい。
ところが、この温度、エアコンが苦手な私にとっては寒すぎるのだ。
窓から入ってくる自然の風の方がいいよ~~
朝お掃除をしてくれる人によると、掃除をしている間は、窓を開けてもいいけど、掃除が済めば、窓を閉めるよう、師長さんから言われているらしい。
ふ~ん、でも看護師さんが窓を開けてくれるけどなぁ???
ま、エアコンが入っていると言っても、夜間には切れるんだろう。
そう思っていたんだけど、これは私が間違っていた。
この病院は、24時間エアコンが付いていた。
父の入院とか、私の出産ともに、夏だったけど、
公立病院だと、寝る時間帯にエアコンは切られていたんだけどなぁ。
とにかく、病院に対する私の考えも、柔軟にしなくっちゃいけないかもね。
ディルームでおしゃべりをしていたら、夕食の時間になった。
ベッドに戻る。
やはり、三分粥である。
おかずは、元の形が全く想像が出来ない代物。
口に入れては、なんだ?これ?
クイズをしている場合ではない。
でも、食事は目でするものだと思った。
とにかくおかずの形がわからないから、
食べていてもおいしくない。
おかゆは完食だったが、おかずは少々残した。
なんでも食べる私がだ。
後にも先にも、入院中食事を残したのは、この時だけ。
術後食事が開始されると、気になるのは、いつガスが出るか?って事。
看護師さんからも質問されるし・・・
お腹は張ってくるんだけどなぁ。
触診や聴診器では、とってもよく腸も動いてますよ、ってことなので、安心しているんだけど。
とにかく、この日は寝ようと思わなくても、横になったらいつの間にか寝てしまっていた。
6月30日
2時間ごとに起きてしまったが、意外にすっきり目覚める。
この回復室は、食事とは縁がないので、お茶配りや、配膳の動きはないのが、ちょっと寂しい。
まず朝6時、採血から一日が始まった。
取る量が少なくて良いのか、すぐに終わってしまった。
することもないし、また寝るか~と思っていたら、
バイタルチェックの時間になった。
看護師さんがやってきて、体温計を差し出す。
昨夜、微熱があったけど、今朝は平熱に戻っている。
その分、汗をかいたような気がする。
血圧は、昨夜降圧剤を飲んでいないので、若干高め。
上が132~143あたりなので、降圧剤を飲まないと、これくらいの数値かなと思って数字を聞いていた。
創のチェック、お腹の音も聞いていった。
腸も動いているらしい。
その後、本日病棟担当?見たことがない先生の診察。
お腹の創をチェック、お腹に聴診器を当てる・・・だけかと思ったら、ベッドの上で内診。
切り取った跡のチェックなのかなぁ。
でも、心の準備をしていなかったので、ちょっとドキドキ。
前もって教えてよ!
そう言えば、昨日半分寝ている状態の時に、執刀してくれた先生の診察を受けたような気がする。
創のチェック、尿の管がきちんと入っているか・・・などなど。
「問題がない」って言われて、「ありがとうございます。」って、言ったような言わなかったような・・・
事前の説明のように、気管挿入した結果、ノドが痛かったし、声が出にくかったので、大きな声が出せなかった。
相手に言っているつもりでも、独り言のようになっていたかも知れないし・・・
先生の診察の結果、問題がなかったのか、ベッドの上半身部を起こし、ベッドの上に座る姿勢になる。
nurse: 息苦しくないですか?
胸ドキドキするとか、気分が悪くなるとか、
頭が痛くなるとかないですか?
術後、何度も質問されていることを、ここでも繰り返し聞かれる。
ふいに、息子を出産したときのことを思い出した。
出産後数時間後、初めて歩くよう言われ、体を起こしたときフラ~となったっけ。
たしか自分でトイレまで歩いていくのが目的だったのだけど、
歩くなんて、無理な状況だった。
あとで母子手帳を見たら、700ml以上の出血があったらしい。
でも輸血などしないで、(授乳するから?)鉄剤だけ処方された。
だから、かなりの貧血状態だったのだ。
そのフラ~とした経験があるので、ちょっとだけ恐怖心があった。
いや、今回は絶対に大丈夫だ!と、自分に言い聞かせる。
別に気分も悪くならないし、息苦しくもない。快調である。
な~んだ。
出血した分くらい、自己血輸血したしね。
でも、これ以上血を戻して、血液が多くなりすぎてもいけないので、残りの400mlは廃棄処分すると言われた。
うぇ~ん
その残りの400mlは、青あざまで作って取った分ですぜ~ それが、ゴミとなってしまうとは・・・
ちょっとこの姿勢が、しんどいが・・・ 背中からでている硬膜外麻酔の薬が入った容器が、袋に入れられているので、首からぶら下げる。
牛が首に鈴をぶら下げている光景が目に浮かび、
わたしゃ牛か!
と、自分につっこむ。
同じく、ベッドを起こしていた、すぐ前の人と目が合ったような気がした。
この人が昨夜、騒いでいた人か、と思って眺めていた。
「さあ、歯磨きしましょう!」と、言いながら、看護師さんが、歯ブラシに歯磨き粉(別に粉状じゃないけど)をつけ、手渡してくれる。
歯磨きをさせるのが、好きだな~、と思うが、わざわざつけてくれたのに、しないのも悪いと思って、素直に歯磨きをした。
すぐ前にベッドテーブルを置いてくれ、吸い飲みとはき出してもいい入れ物(名前ど忘れ)を、置いてくれる。
口をゆすぐ。カラカラの口の中に潤い・・・
気持ちが良い。
飲み込んではいけない!と呪文のように繰り返しながら、口をすすいだ。
ベッドテーブルの上に、歯ブラシや吸い飲みをそのまま置いていたら、後始末も看護師さんがやってくれた。
まだ、動くのは駄目なんだね。
「もうしばらくしたら、清拭しましょうね。」と言われる。
清拭かぁ~~
体を拭いてもらうんだよねぇ。
しばらくして、大きな容器をワゴンに載せて、やってきた。
どうするのかなぁ?と思ってみていたら、ベッドサイドの床へ、その容器をおく。
何に使うんだろう?
パジャマのズボンを手伝ってもらいながら脱ぐ。
何に使うのかと思っていた容器に、「足をつけて下さい。」と言われる。
ゆっくり足をつける。
ぬるま湯だけど、思わず、う~~~と言いそうになるくらい気持ちがいい。
足をつけている間、蒸しタオルをもらい、顔を拭く。
これまた、極楽じゃ~~~!
まず、足を石けんで洗ってもらう。
その後、ぬるま湯をかけ石けん分を落としていく。
なんか、赤ちゃんの沐浴(もくよく)みたいだなぁ。
お湯の温度、ガーゼを使って洗うところ、などなど。
自分が、赤ちゃんに戻ったような気がした。
ま、手術をして生まれ変わった気分だから、
これも、ありかなぁ。
点滴がつながった腕なので、どうやって上を脱ぐんだろう?
こう思うことが、頭が固くなっている証拠なのよねぇ。
だって、点滴パックと点滴台は、くっついているように思っていたけど、これは全く錯覚。
冷静に考えたら、点滴交換しているところを、見ているんだから、パックは点滴台につり下げているだけって、わかるはず。
そしてパックだけなら、袖を通すことができるんだもの。
手品を見ているような気分で、看護師さんの手の動きを見ていた私だった。
背中を絞ったタオルでまず、暖める。
う~~~ん、肩の力が抜けていく~~~
そのあと、背中を拭いてもらう。
一度タオルを絞ったあと、「前はご自身で拭いて下さい。」と言ってタオルを渡される。
ふ~ん、前は自分で拭くんだ~、と思いながら、胸から腕を拭く。
そのあと、新しいパジャマに着替えさせてもらう。
「おしも、拭かれますか?」と言って、ガーゼを渡される。
拭いた方がいいんだよねぇ~?
この時まで、T字帯をつけていたのを、はずしてもらう。
おしもを拭いていると、尿の管が目に入る。
この管があるけど、どうやってパンツをはくんだろう?
これまた固い頭で、考える。 「ゴワゴワするかもしれませんが、普通にパンツをはいてもらっていいんですよ。」
なるほど・・・ なんとかなるモンですね。 元の状態にもどっていたベッドの上に横になり、腹帯をきちんと締めてもらう。
腰を上げ、自分でズボンをパンツを引き上げる。(すこしは手伝ってもらったが)
意外と、腰あがるじゃない!と、感心した。
nurse: 疲れませんでしたか?
akubi: はい!
すっきり、さっぱりしました~
ありがとうございま~す。
さっぱりしたのはいいけど、これですることが無くなってしまった。
仕方がないんで、ベッドの上でゴロゴロしてすごす。
ゴロゴロしていたら、眠ってしまいそうになる。
それを打ち破ったのは、やはり看護師さん。
nurse: 立ってみましょうか?
へっ! もう立つんですかい?
うながされて、まずベッドの端に腰掛ける。
看護師さんに支えてもらいながら、立ち上がる。
しばらく支えてもらっていたが、手を離される。
お~~! 立っているじゃん。
nurse: 胸ドキドキするとか、息苦しいとか、
気分が悪いとかないですか?
やはり、この質問を繰り返される。
まあ、なんかあったら、問題だものねぇ。
特に何もないですよ~と言うと、しばらくこの状態でいるよう言い残し、看護師さんはどこかへ行った。
(元の部屋の様子を見に行ったのかも。)
本当にしばらくして戻ってきたと思ったら、
「すこし歩いてみましょう。」と言うので、ベッドの周りを、点滴台を押しながら歩く。
やはり、いつもの質問。
大丈夫だって!!
「じゃあ、このまま元の部屋へ戻りましょう!」
この時点滴台は、杖の代わりとして、体を支えるのに役に立った。 点滴台を押しながら、そろりそろりと、隣の部屋へ戻る。
窓ぎわのベッドから、窓ぎわのベッドへ・・・
いくら隣とはいえ、初歩きの移動距離は長いなぁと思いながらも、 ただいま~!と、元気よく元のベッドの所まで戻った。