新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の説明

2017-12-28 08:12:31 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

 最後におまけです。ふとATLLを書いていなかったことに気がついたので、最後にこれを書いてみようと思います。

ATLLはCD4陽性CD25陽性T細胞にHTLV-1が感染することによって稀に発生するT細胞腫瘍です。HTLV-1の分布が九州や沖縄に多いため、南西日本の発症頻度が多い腫瘍になります。

CD25陽性T細胞は制御性T細胞の特徴を有するためか、免疫不全による感染(発熱)で発症する患者もいる(細胞性免疫の低下)し、副甲状腺ホルモン関連タンパク(PTHrP)により高Ca血症が引き起こされ、それによる口渇・多飲・多尿・腎不全などが起きることもあります。皮膚浸潤や皮下結節、紅皮症などを起こす患者もいるし、リンパ節が腫れる患者もいます。

病型が4つに分かれますが、急性型とリンパ腫型は中央生存期間がかなり短いため、治療を急ぐ必要があります。それでは、少し説明文を書いてみたいと思います。

 


 Zさん(60代、男性)は口渇、多尿、皮疹を主訴に近医を受診し、血液検査で軽度の白血球増加、血小板減少、乳酸脱水素酵素上昇、腎機能低下を認め、血液疾患が疑われ当科に紹介となりました。

 

外来で腎不全の進行と高カルシウム血症があることから、すぐに入院とし、必要な検査をすすめました。外来で出身地の確認なども行いました。

 

(以下説明です)

 

Zさんは口渇、多尿と全身の皮疹を主訴に、近くのクリニックを受診されて、血液の数値の異常から当科に紹介となりました。

 

当科での血液検査でも白血球は16000/µl、ヘモグロビン 14.5 g/dl、血小板 9万/µlと白血球増加、血小板減少を認めています。さらに腎臓の老廃物である尿素窒素やクレアチニンという値がかなり上昇しており、その原因はカルシウムが高いことにあると思われました。この治療を緊急に行わないと命に関わると判断し、緊急入院していただきました。

 

現在、点滴で脱水の補正をしているほか、いくつかの薬剤を用いてカルシウムを下げる治療を行なっています。

 

その他、特徴的なものとして形の変わったリンパ球が10%程度血液中にでています。それは花びらのような「核」を持ったもので、「フラワー セル」と呼ばれたりするものです。

 

Zさんの出身地は九州と聞きましたが、どちらでしたでしょうか?

 

Zさん:鹿児島県です。

 

ご家族に血液の病気の方がいらっしゃいますか?

 

Zさん:少し離れた親戚が、血液の癌で亡くなったと聞きました。

 

今、いくつかの検査を提出中ですが、九州地方に多いウイルスであるHTLV-1というウイルスが感染していることが検査結果でわかりました。もちろん、偽陽性という可能性もあるのですが(HTLV-1キャリアの方(もしくは調べに来た方)への説明(アンフェタミン版)参照してください)、九州地方であること、ご家族にも同じような症状の方がいるのではないかと思われることから正しい検査結果ではないかと思います。

 

Zさんの病気は現時点では成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)だと思われます。これはHTLV-1というウイルスが感染したCD4リンパ球が「がん化」してしまい、血液の数値をおかしくしたり、腫瘍細胞から出る因子(PTHrP)で高カルシウム血症になったりします。また、CD4リンパ球が減っていることや、CD4の中でも免疫抑制性のT細胞(制御性T細胞)が癌化していることから、免疫力はかなり低下しています(普通は感染しないような菌・カビによる感染:日和見感染が増えます)。

 

この病気の診断確定には「サザンブロット」という方法で増えているリンパ球が腫瘍であることを確認する必要がありますが、この検査結果が判明するまで2〜3週間かかります。検査結果を待ってから治療を初めていると、後手に回ってしまう可能性が高いです。

 

臨床的にATLLと診断し、できるだけ早期に治療を開始したいのですが、Zさんはそれでよろしいでしょうか?

 (ATLLは調べればわかりますが、まだ予後が良いとは言えない疾患です。もちろん、これから先はわかりません。少しずつ武器も増えてきましたので。)

 

Zさん:はい。宜しく御願い致します。

 

Zさんは検査結果から急性型のATLLと診断できます。

(病型診断のためのフローチャートがありますが、リンパ腫型は末梢血中にフラワーセルが1%以下でなくてはいけないので、症状があればほとんど急性型になります)

 

この病気で同種骨髄移植が実施できる患者さんは、基本的に同種骨髄移植を行う方針で治療をします。それはATLLが「抗がん剤が効きにくくなりやすい腫瘍」であり、一方で免疫療法(同種移植)が有効であることもわかっている(GvATLL効果:移植片対ATLL)からです。

 

Zさんはご兄弟がいらっしゃいますでしょうか?

 

Zさん:兄と弟が2人います。

 

可能であれば、了承をいただいた後にご兄弟のHLAなどを確認して、血縁者間移植を行うか、合わなければ骨髄バンクに調整をして移植を行いたいと考えています。

 

治療に関してはmLSG15(VCAP-AMP-VECP療法)で治療を行います。これは多数の抗がん剤を使用する治療法で、だいたい4週サイクル(患者さんによっては5週間間隔くらいになる方も)で治療を行うものです。これで治療効果を得ている間に移植を調整して、同種移植を実施するのが長期的な治療計画になります。

 

Zさん:宜しく御願い致します。

 


 

こんな感じでしょうか。実際はかなり時間をかけて説明すると思います(mLSG15の説明や移植の説明が必要なので)が、大まかにこんな感じと・・・。

 

ATLLにもいくつか有望な薬が出てきています。まず、かなり昔からありますがモガムリズマブ(抗CCR4抗体)です。CCR4はATLLの90%以上に発現しているとされ、急性型のATLLには有効です。ただ、正常な制御性T細胞にも出ているため、この薬を使用した後に間を空けずに骨髄移植を行うと、GVHD(移植片対宿主病)が強くでる可能性があります

そのため移植を念頭に置いている場合は避けるかもしれません。移植をしないという選択肢であれば、他の合併症(自己免疫疾患があるなど)の状況を見て使うと思います。

 

あとは再発難治のATLLにレナリドミドが適応追加になりました。

 

PD-L1の過剰発現が30%くらいのATLLの患者さんで見つかったという報告もあり、免疫チェックポイント阻害剤も将来的には使われるようになるのかもしれません(今はな〜んにも決まっていません。一部の患者さんにPD-L1の過剰発現があるだけです)

 

個人的には再発後にソブゾキサン(ペラゾリン)とエトポシドの内服で引っ張った患者さんがいました。発症から3年くらい頑張られた(多分、内服期間が1年半くらい)ので(放射線治療の併用など色々やりましたが・・・)、こういう薬も捨てたものではないかなと思っています。

 

まだまだ治療が発展途上の病気だと思いますが、今年適応追加になりましたレナリドミドなどもありますし、医学の発展に期待したいと思っています。

 

2017年度版の患者さん向け説明文書の作成はこれで終了します。他にこのような病気について記載してほしいというご依頼がありましたら、コメントをいただければと存じます。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕の伝染性単核球症(IM)の説明と慢性活動性EBV感染症(CAEBV)の話

2017-12-27 06:50:02 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

さて、伝染性単核球症(IM)などに関してです。慢性活動性EBV感染症(CAEBV)も少し触れますが、主治医として診療したことはありませんので、少し触れるだけです。

 

IMは実は少し思い出がありまして、医学生時代に暇な時「バトルロワイアル」のネット小説(オリジナルバトルロワイアル)を見ておりました。いくつか巡回しているところがあったわけです。その1つの更新がなかなかされないことがありました。掲示板に作者の方が体調を崩されているような話がありました。IMみたいだったので、IMだと思う〜というような話を書いたところ、そうだった・・・という。

 

「お医者さんですか?」

「いえ、医大生です」

「ほにゃらら、ほにゃらら。ありがとうございました」

 

それ以降、現在も少しお付き合いがあります。

 7~8年くらい前に結婚式の二次会に呼んでいただきました。

 

さて、IMですね。IMは意外と白血病と勘違いされて紹介されてきたりします。他に白血病疑いで紹介されてきたのは、血管炎とかもありましたが・・・(白血球増加、軽度の貧血、血小板増加で・・・CMLとか骨髄増殖性疾患とかと間違われたりすることがあります)。

 

IMはEBVの初感染で生じる病気です。EBVは小児で感染することが多いのですが、思春期以降の感染では症状が強く出てきます。

 

IMでEBVが感染するのはB細胞です。異形成のあるリンパ球が増えることが知られていますが、これは反応したT細胞で正常なリンパ球です(形が変なだけ)。

 

 

この病気は感染症だよという説明をするだけですので、症状と診断基準を載せておきます。

 

 

IMは上記のように3週間くらいで治ります。白血球数が2万、3万/µlまで増えるケースもありますので、その時は腫瘍細胞なのかどうかきちんと鑑別すれば良いと思います。

 

 

その一方で面倒な病気はCAEBVです。

こちらはEBVが感染しているのがT細胞やNK細胞です。NK細胞に感染したものより、T細胞に感染した場合は予後が悪く、5年生存率が50%未満になります。

 

診断には持続するIMの症状に加えて、抗体価の動きやEBVのDNAが増加することなどが挙げられます。

 

とりあえず、IMの説明だけ簡単に記載します。


 

Yさん(21歳、男性)は発熱と頸部リンパ節腫脹を主訴に、近医を受診され、血液検査で白血球が20000/µlで異常な血液細胞が出ていたため、血液疾患疑いで当科に紹介となりました。

 

Yさんの症状の確認ですが、発熱とリンパ節の腫れ以外に調子の悪いところはありますか?

 

Yさん:元々風邪みたいな症状があって、喉が痛かったです。1週間経って、喉の痛みはよくなったのですが、熱や首のグリグリは治らなくて。あと体がだるいです。

 

なるほど、血液検査でも白血球はまだ17000/µlと増えていますが、貧血もなく、血小板減少もありません。肝臓の壊れ具合を反映するASTというものとALTというものは200IU/L台に上昇しています。LDHという値も400 IU/Lになっています。

 

血液像という白血球を顕微鏡で見る検査ですが、異形リンパ球というものが40%くらいになっています(異形リンパ球は診断基準にある5000/µlを超える)。

 

今までの検査結果と症状から伝染性単核球症(IM)という病気が考えられます。これはEBVというウイルスによる感染症で、子供の時にかかるとあまり症状が出ないのですが、大人になると発熱や咽頭痛、リンパ節腫脹などが出てきます。

 

Yさん:どのくらいで治りますか?

 

だいたい3週間くらいは熱が出続けます。それまでは解熱剤などで症状を抑える治療を行います。この病気であることの確認のために、いくつかの検査を行います(抗体など)。次回はその確認に来て頂ければと思います。それまでの間、症状を抑えるような薬はこちらから処方しますね。

 

Yさん:ありがとうございます。

 

基本的には3週間で治ると思うのですが、ごくごく稀に症状が3ヶ月とか持続する患者さんがいます。その場合は慢性活動性EBV感染症という病気の可能性もありますので、さらに検査をしますが、普通は3週間で治ると思います。

 


 

こんな感じでしょうか。

CAEBVを自分で診断したことはないので、それ以上は何とも言えませんが、EBVの症状が持続したりするのはおかしいですので、そういう場合は専門の先生に相談しましょう。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕の血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)についての説明(2017年度版)

2017-12-26 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は溶血性貧血と血小板減少を主徴とし、発熱や動揺性精神症状、腎不全などを生じる疾患です。

 

上の5つの症状を5徴候としていますが、すべてで揃うまで待っていたら厳しいことになります。TTPは無治療での死亡率は90%以上とされ、早期に治療を行う必要がある病気です。

 

この病気の原因がADAMTS13というvon willebrand因子という「血小板のノリ」のような物質のマルチマー(活性型だと思ってください)を切断する酵素に対する自己抗体によるものだとわかりました。

 

自己抗体のせいで通常時は活性型を不活性型に常に変えているのに、それができなくなったために身体中の血管で血小板がひっついて血栓ができてしまいます。それにより脳梗塞のような症状が起きたり、腎不全が起きたり、身体中で大変なことが起きてしまいます。

 

溶血性貧血は機械的溶血と言われるもので、赤血球が血栓に引っかかって破れて起きています。

 

この病気の治療は血漿交換を行うことで、不足しているADAMTS13を補充し、さらに少しでも自己抗体を減らすこと。そしてステロイド剤で自己抗体を産生するB細胞を潰すことです(新規に自己抗体ができないようにする)。ステロイドが効かなかったらリツキシマブを使います(まだ保険適応外のはずですが)。

 

 

ということで、慌ただしい病気ですが、簡単に説明を書いていきます。

 

 


 

Xさんは貧血と血小板減少を認めたため、血液疾患疑いで当科に紹介となりました。血液検査で白血球数は8000/µlとやや高めくらいでしたが、ヘモグロビンは10g/dl、血小板は0.5万/µlとかなり低下していましたので、すぐ入院していただきました。

 

血液像という検査で赤血球が破れたようなもの(破砕赤血球)が多数認められ、クームス試験という自己免疫性溶血性貧血で陽性になるものは異常になりませんでした(クームス試験陰性)。

 

まだ、確定ではありませんが血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の可能性が高いです。

 

この病気は血小板という物質の補助をするvon willebrand因子というものがあるのですが、それを抑えるADAMTS13という物質に対する抗体を作る病気です。

 

難しいのですが、ADAMTS13という物質は血小板を相互に活性化させるものを抑える働きがあります。体の中で血が固まらないようにする物質です。

体の中に血が固まらないようにしている物質がなくなると、身体中で血が固まります。そういうものを血栓症と言います。

 

身体中で血栓症が起き、血小板というものが消耗性に減少しています。もはや使う血小板もなくなったため、症状の進行は治っていますが、止血する物質が限界まで低下したため、出血しやすくなっています。

 

また、身体中にある血栓に赤血球が引っかかり、壊れてしまっています。それにより貧血が進んでいます(微小血管障害性溶血性貧血:MAHAと言います)。

 

この病気は5徴候を満たすか、ADAMTS13という物質の活性が低下していることと、インヒビター(自己抗体)の確認をする必要があるのですが、検査結果はすぐには出ません。しかし、治療はすぐに必要になります(遅れれば致死的です)。

 

検査を提出した上で、すぐに治療に入りたいのですが、よろしいでしょうか?

 

Xさん:よろしくお願いします。治療はどのようなものを行うのでしょうか?

 

治療は主に2つのことを行います。一つは血漿交換というものです。これは今のXさんの中にある血漿(血液の中の液体成分)を輸血用の血漿と入れ替えます。そうすることでADAMTS13の補充ができますし、自己抗体を減らすことができます(対症療法)。

 

それを行いながらステロイド剤の治療を行います。これは自己抗体を作っているB細胞を抑える治療です。ステロイド剤が効果を発揮して自己抗体が作られなくなれば、この病気は治ったと言えます(再発する可能性はあります)。

 

Xさん:出血していることに対して、減っている血小板を補ったりはしないのですか?

 

血小板輸血はこの病気に関しては原則禁忌と言われています。やってはいけないという意味です。理由は血小板を入れれば、入れたところから血栓ができてしまいます。そうすると病状が進行してしまいます。今できることは早期に血漿交換を行い、消費する血小板を減らすことです。

 

Xさん:よくわかりました。検査結果が出る前に治療が必要なこともわかりました。宜しく御願い致します。

 


 

 

こんな感じでしょうか。

実際にTTPを見たらかなり慌ただしくなると思います。医師主導治験でリツキシマブの有効性は示されていますので、ステロイドが無効の場合はリツキシマブを入れて抗体産生を抑えることになります。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕のPTCLの説明(2017年度版:ALK陰性未分化大細胞型リンパ腫を題材に)

2017-12-26 08:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

依頼がありましたALK陰性未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)について少し書いてみたいと思います。

 

しかし、これだけについて書くというのはなかなか難しいので、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)全体を書いていきたいと思います。

末梢性T細胞リンパ腫は非ホジキンリンパ腫のうち中等度悪性度(月単位で進行)のリンパ腫にあたります。基本はCHOP療法ですが、成績がそれほど良くないので、治療法に絶対これが良いというものではないです。

 

 

しかし、新規薬剤が多数出て来ました(ブレンツキシマブ ベドチン、モガムリズマブ、ロミデプシン、ボリノスタット、フォロデシン、プララトレキサートなど)。それゆえ、再発などの際は選択肢がたくさんあります。初発時はDLBCLと同じような説明をします。IPIではなくてPITやATPIなどを使うくらいです。DLBCLの説明を少し読み替えていただけると嬉しく思います。

 

 

ということで、少し書いてみたいと思います。


×△さん(60歳、男性)はリンパ節腫脹と発熱のために近医を受診され、リンパ腫が疑われて当科に紹介となりました。

 

リンパ節生検の結果、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)という悪性リンパ腫であることがわかりました。

 

悪性リンパ腫は細かく分けると70以上に分かれてしまいます。そこでまず、悪性リンパ腫をホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けます。これは治療法が異なり、ホジキンリンパ腫ではABVD療法、非ホジキンリンパ腫ではCHOP療法を行います。

 

非ホジキンリンパ腫も大きく分けるとB細胞性リンパ腫とT細胞性リンパ腫に分かれます。B細胞リンパ腫が90%近く、T細胞リンパ腫は10%前後とT細胞リンパ腫の方が稀です。

 

治療法はだいたい同じような治療を行いますが、B細胞性リンパ腫ではR-CHOPというものが標準治療とされています。それに対して、T細胞リンパ腫はCHOP療法やCHOEP療法というような似た治療を行うことが基本ですが、症例数が少ないこともあり、「これが標準治療」というほど決まった治療法がない状況です。ですので、患者さんの年齢や合併症などをみて、対処を決めていくことが多いです。

 

今回のALCLという悪性リンパ腫はT細胞リンパ腫の中でも末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)というグループに入ります。その中では予後が良い方になるのですが、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)というものが陽性のグループ、陰性のグループ、皮膚型のグループがあります。皮膚型は特殊系になるため、積極的な治療をするかは検討材料になります(NCCNのガイドラインでは、原発性皮膚ALCLは皮膚ですぐに再発するが、経過はゆっくりであり、5年全生存率は90%とされています)。

 

ALK陽性ALCLとALK陰性ALCLはALK陽性群が生存率が良いとされていますが、それはCHOP療法が効きやすいことと若い患者が多いことが挙げられています。ALK陰性ALCLでは先ほども申し上げた通り、患者さんの状況に合わせてCHOP療法でいくのか、エトポシドという抗がん剤を加えてCHOEPという治療でいくのか(それでも成績は満足いくものではないです)、自家移植併用大量化学療法を「初回寛解」からだめ押しで使用する(臨床試験)のかなどを決める必要があります。

 

×△さん:確認ですが、標準治療はないのでしょうか?

 

繰り返しになりますが、基本はCHOP療法になります。診療指針でもCHOP類似療法と書かれていますし、CHOP療法を選択する施設が多いと思います。

 

ただし、CHOP療法で満足できる成果が出ているかというと、再発する患者さんも多いという状況です。標準治療と書いてしまうと、現時点ではこれが推奨・・・という位置付けになりますが、患者さんによってはCHOEPというものにしたり、初回から自家移植を入れたりなど、まだ固まった位置付けではないという状況です。

 

×△さん:再発したら、どうなるのでしょうか?

 

×△さんは60歳と自家末梢血幹細胞移植が実施できるので、再発時にはそれを行うことを考えます。ただ、自家移植というものは「抗がん剤の効果」に依存しています。それゆえ、再発時に抗がん剤が効きやすいか、どこまで腫瘍細胞を減らせているかも重要です。

 

ただ、ALCLという疾患はCD30というアンテナを持つことが特徴になります。初回からは使用できませんが、再発時には「アドセトリス(ブレンツキシマブ ベドチン)」を使用する可能性があります。この薬は抗CD30抗体というものに、抗がん剤を結びつけた新しい抗がん剤です。CD30というアンテナに結びつき、腫瘍細胞の中に抗がん剤を入れ込み、腫瘍細胞を殺していきます。

 

こういった薬も出てきているため、必ず自家移植に行くかどうかもわからないと思います。

 

×△さん:私はどうしたら良いのでしょうか?

 

基本的な方針として「多剤併用化学療法」を行った方が良いとは言えますが、強度に関しては患者さんによりけりです。×△さんの年齢を考慮すると自家移植もできますので、初回から自家移植を行うかが問題になります。

 

ですので、CHOP療法をまず行い、それで寛解にはいれば再発するまでは経過観察という案が1つ。CHOP療法で寛解に入れて、初回から自家移植を併用し、だめ押しをする方針にするか(上のフローチャートの示す「臨床試験」になります)・・・がもう1つでしょうか。

 

前者はCHOP療法で完治していれば、余計な治療をしなくて済みます。再発しても救援化学療法(ESHAPやEPOCHなど)が効いて、自家移植に持ち込める可能性があります。ただし、再発時に腫瘍の悪性度が高くて、なかなか再寛解状態に入らないこともあり得ます。その場合は自家移植は難しいかもしれません(アドセトリスはできます)。

 

後者では初回から自家移植を行いますので、再発する可能性は下がると思います。しかし、実はいらない治療をしていた可能性も否定はできません。再発時はアドセトリスなどを考えるか、同種移植を検討するかになりますが、これは再発する時期がいつかなど検討事項がありますし、やるのであれば治しに行きますので、再発することは考えないようにしたいところです。

 

余計な治療をしたくない。CHOPで治る可能性にかけるのであれば、前者。自家移植ができるうちに確実に潰すのが後者の考え方になります。×△さんがどちらに重きをおくかです。

 

なお、なかなか寛解に入らない場合は、治療方針を変えて(救援化学療法)、自家移植を目標にします。それでもダメならば新規薬剤を投入します(アドセトリス含む)。

 

×△さん:わかりました。私はまずCHOP療法を選択して、寛解に入ったら少し様子を見たいと思います。


こんな感じでしょうか。

 

基本的に初回から自家移植というのは「臨床試験」のレベルであって、絶対推奨ではないです。ただし、患者さんがどう考えるかで考え方には含まれるかもしれません(絶対にしてはいけないならば、最初から書いていません)。

 

このようにPTCLの領域はまだ決まっていないことも多いです。

 

ですが、新規薬剤が色々出てきましたので、色々期待したいとは思っています。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕の特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(ITP)の説明(2017年版)

2017-12-25 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(ITP)は血小板に対する自己抗体のため、脾臓で血小板が処理されて、血小板が低下する疾患です。この自己抗体がちぎれる前の血小板(巨核球からちぎれた断片が血小板なので、巨核球にもペタペタ張り付きます)にも影響するとも言われています。

 

基本的に血小板産生は正常から亢進しているので、自己抗体の産生を抑えれば血小板は増えてきます。しかし、それでもダメな時は血小板を食べる脾臓を摘出したり、巨核球に刺激を与えて血小板産生を増やしたりします(巨核球にひっついている自己抗体が血小板産生を邪魔しているとも言われてます)。

 

自己抗体が関連するものは治療に基本的にステロイド剤を使用します。難治になるとリツキシマブなども使用されたりします。

 

血小板数は10万/µl以上あれば正常で、5万/µl以上あれば出血が起きやすい手術でない限りは安全に実施できるといいます(整形外科の骨切り術とかは警戒しますが)。3万/µl以上あれば(研究によっては2万/µlでも大丈夫)出血死のリスクは健常人と変わらないと言われます。

 

そのため、副作用の多いステロイド剤による治療は「出血傾向がない」状況であれば2万/µl未満、もしくは3万/µl未満になるまで様子をみます。

 

それまでに唯一できる治療がヘリコバクター・ピロリ菌の除菌です。イタリアと日本からの報告ですが、ピロリ菌陽性のITPの場合、除菌が成功すると40%の患者さんで血小板数が上昇します。そのため、ステロイド治療の前に行うことができる唯一の治療法になります。

 

・・・この疾患も、過去に説明記事を書いていないのか・・・。意外だ〜。

この疾患は特定疾患ですので、国の補助が受けられます。

 

では、簡単に書いていきます。


 

Wさんは先日健康診断で、血小板という数値が5万/µlと減少していたため、当院に紹介となりました。

 

血液検査では白血球 6000/µl、ヘモグロビン 15g/dlと正常範囲ですが、血小板数のみ5万/µlと減少していました。

 

末梢血液像では通常血液中にいない細胞、例えば白血病細胞や不良品の血液(異形成)などはなく、割合も正常でした。

 

凝固系も正常で(PTやAPTT、FDP)した。これは播種性血管内凝固(DIC)という病気やAPTTが延長して血小板が下がる病気(抗リン脂質抗体症候群)ではないことを示しています。

 

抗核抗体など膠原病の因子も異常はなさそうです。PAIgGという血小板にひっついている抗体の数を示すものですが、120と少し上昇していました。しかし、これは血小板数が下がれば普通上昇するので、参考程度と考えています。

 

Wさん:先日行った骨髄の方はいかがでしたか?

 

骨髄の検査ですが、血液細胞の数は正常で(正形成骨髄)、巨核球という血小板を作る細胞の数も正常でした。白血病細胞などはなく、異形成(骨髄異形成症候群を示唆する)もありません。巨核球は少し表面がつるんとした感じの印象を受けますが、異形成はありません。

 

Wさん:病気の原因がはっきりしないということですか?

 

いえ、今までの検査の結果からITPと診断しました。この病気は他の病気の所見がないことを示す必要があります(除外診断)。

 

血小板を造る能力が落ちる病気(急性白血病、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血など)ではなく、他に血小板の消費が亢進する病気(DICなど)でもない。肝不全などで血小板が低下しているわけでもないなど、いくつかの病気を除外して診断します。

 

ITPは血小板を壊す抗体を作ってしまい、それがひっついた血小板は脾臓で壊されてしまいます。そういう病気です。

 

治療の基本は、この自己抗体を作らせなくすることにあります。その治療薬はステロイド剤というものを使います。この薬は色々な副作用がある薬です。そのため使用開始は副作用を超えるメリットがあるときに初めて使うことになります。

 

Wさんの血小板の数は5万/µlと低下していますが、実は血小板数は2万/µlくらいまで低下しないと出血などによる悪影響(大出血、出血に伴う死亡など)は増えないとされています。そのため、出血傾向がなければ2万/µl未満、出血症状が出ている患者さんでは3万/µl未満まで様子をみます(明らかに出血しているのであれば、3万/µl以上でも治療すると思いますが、普通はないです)。

 

Wさん:そうすると、しばらくは採血しながら様子見ですか?

 

その前に一つやっておくべき検査があります。実はこの病気はピロリ菌が原因で起きることがあります。ピロリ菌が陽性の患者さんで除菌を行うと、4割くらいの患者さんの血小板数が回復するといいます。まずはピロリ菌の検査と除菌を行いましょう。

 

Wさん:宜しく御願い致します。

 


 

こんな感じでしょうか。患者さんによっては即日入院してステロイドを入れることもあります(出血傾向があり、血小板数0.1万/µlとか)し、外来で導入することもあります(血小板数1万台くらい)。

 

ITPはピロリ菌の除菌、ステロイドで治療が終了しなかった場合は、脾臓摘出術やTPO-R(トロンボポエチン受容体)作動薬などを使用します。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

 血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕の多発性骨髄腫の患者さんへの説明(2017年度版)

2017-12-24 20:01:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

 多発性骨髄腫の記事を書き始める前にびっくりしたこと。

 

急性白血病と同じですが、多発性骨髄腫も過去に記事にしていなかった(汗

 

骨髄腫の患者さんやご家族の相談はかなりコメントでやりとりした記憶があるのですが、どこの記事で受けていたのだろう・・・(?)

 

多発性骨髄腫も現在、どんどん治療が新しくなっている分野です。

もともと2006年にボルテゾミブが発売されるまでは自家末梢血幹細胞移植以外の方法では「延命」すらできないとされていました。治療の目的はQOLの維持・・・。

 

そんな多発性骨髄腫の治療が一変したのはボルテゾミブが発売され、サリドマイドが2008年か2009年くらいに国内で使えるようになり(個人輸入はしていましたが)、レナリドミドが2010年くらいから使えるようになり・・・です。

 それから10年ちょっと・・・

 

今ではボルテゾミブもレナリドミドも初発の患者さんから治療に使えるようになり、多発性骨髄腫の治療の両輪のような位置付けにあります。

 

この2つの薬をさらに発展させた薬剤としてプロテアソーム阻害剤のカルフィルゾミブ、イキサゾミブ、IMidsとしてポマリドミドが使えるようになりました。

 

加えてボルテゾミブにもレナリドミドにも合わせられる抗CD38抗体(ダラツムマブ)、レナリドミドと合わせる抗SLAMF7抗体(エロツズマブ)、ボルテゾミブと併用して使うHDAC阻害剤であるパノビノスタットなどがあります(何も忘れてないよね・・・存在を忘れている薬はないはず)。

 

ということで、骨髄腫の治療はどんどん発展していっています。ここではまだ完治できない病気として説明していきますが、将来は治せる病気になっているかもしれません。

 

それでは少し説明文を書いていきます。

 


 

Vさんは貧血と骨痛を主訴に近医を受診され、総蛋白が多かったことなど、いくつかの要素から血液の病気を疑われて、当科に紹介となりました。

初診時の血液検査では白血球が5000/µl、ヘモグロビンが9.0g/dl、血小板は20万/µlと貧血の状態でした。他にアルブミンという物質が3.6 g/dlと少し減り気味で、IgGという数値が550 mg/dl、IgAという数値は2500 mg/dl、IgMは20 mg/dlとIgAの上昇と他の2つの数値の低下が認められました。

(IgAが上昇しただけならまだわかりませんが、正常免疫グロブリンが低下していれば、骨髄腫の可能性が高いです。過去に成人で診断した原発性免疫不全の方がいましたが)

 

この段階でいくつかの病気の可能性が高くなり、それを調べるための血液検査と骨髄の検査を行いました。

 

血液検査では1種類の免疫グロブリンが体の中で大量に作られていること、すなわちMタンパクがあることを示す検査結果が出ました。

また、骨髄の検査では形質細胞の数が25%と増えていました。その形質細胞には異形なもの、多核のものなど異常な細胞を多く認めました。それらを特殊な検査(フローサイトメトリー)で確認しますと、CD19というアンテナは陰性、CD56陽性で、免疫グロブリンのκ鎖に偏りのある腫瘍細胞集団を認めました。

 

腫瘍であるということはこのκとλという部分は通常1:1から1:2程度ですが、今は99:1になっています。これはκというアンテナを持つ形質細胞が腫瘍性に増殖したため、このような偏りができています。

 

 

上記の結果から「多発性骨髄腫」という病気と診断しました。

 

多発性骨髄腫は形質細胞の悪性腫瘍で、骨髄という骨の中にある造血工場で「腫瘤」を作りながら増えてきます。この腫瘍は骨を溶かしながら増えるため、骨が痛くなったり、弱くなった骨が骨折したりします。溶けた骨が多くなると、骨のカルシウムが血液中に流れ込み、吐き気や意識障害、高度の脱水から腎臓を悪くしたりします(高カルシウム血症)。また、貧血が起きたり、腎臓が悪く(腎不全)なったりします(CRABと言ったりします)。

 

他にもこの腫瘍細胞がつくるタンパク質が心臓や皮膚、腸などについて悪さをする「アミロイドーシス」というものが起きたり、正常な免疫グロブリンが作れなくなることで肺炎などが増えたりします(液性免疫不全ではウイルスなどのほか肺炎球菌などの細菌感染が増えます。基本的に液性免疫不全では呼吸器感染症:肺炎などが増えると言われます)。

 

 

この病気の評価は先ほどの「貧血などの有無」、「ベータ2ミクログロブリン(B2MG)」やアルブミンというタンパク質の量、染色体異常と言われるものなどで評価をします。

 

現在は貧血と低線量CTで骨の数カ所に病変を認めます。腎機能障害はなく、高カルシウム血症もないことはわかっています。アミロイドーシスを疑わせる所見もありません。

B2MGは3.7 mg/Lでアルブミンは3.6g/dlでした。LDHは正常より少し高く、染色体異常は高リスクの染色体異常はありませんでした。

 

これらからISSという分類でも、R-ISSという分類でもII期と診断できます。

 

Vさん:それはどういうことでしょうか?

 

II期というのは中間リスクという話です。どちらのリスク分類にしても調べれば生存期間や5年生存率などが書かれています。しかし、Vさんは今から治療を受ける方ですので、話が随分変わってきています。

 

Vさん:それはどういうことでしょうか?

 

細かい説明は行いませんが、多発性骨髄腫の治療は今どんどん進んできている状況です。先ほどのリスク分類は「骨髄腫のタイプ」として参考にはしていますが、ISSは今の標準治療薬であるボルテゾミブやレナリドミドがない時代の分類です。R-ISSはボルテゾミブなどが出てからのものですが、今出てきている新規薬剤のことを考えれば、参考として考えていただきたいと思っています。

ISSもR-ISSも腫瘍の性質を反映するものとして参考にしますが、治療がどんどん良くなってきているので、生存期間などはあてにしないという意味です) 

Vさん:医療が進歩しているので、私がそれを調べてショックを受ける必要はないと言いたいのですね?

はい。あくまでVさんはVさんの治療経過がありますので、インターネットなどの情報に惑わされすぎず、一緒に治療をしていきましょう。

 

 

その治療についてですが、多発性骨髄腫は完治を目指す疾患ではなく良い状態を作り出し、それをできるだけ長く維持する「共存」を目的とした治療を行います。

 

そのため症状がない患者さんには治療をすぐに開始せずに、様子を見るのが一般的です。

Vさんは現在貧血や骨痛などの症状がありますので、治療の適応があります。

 

治療に関してですが、今ではボルテゾミブとレナリドミドという2つの薬剤を使用して治療を行います。

 

ボルテゾミブは注射薬で通院の頻度が少し多くなります。

副作用として血小板という数値が下がったり、痺れなどが出たりする(神経障害)ことがあります(というか、多い)。それ以外にも心臓や肺の障害(稀ですが)が起きたり、抵抗力が低下してウイルスなどに感染しやすくなったりします(帯状疱疹など)。B型肝炎に感染した既往がある人は、それが再燃することもあります。

 

レナリドミドは飲み薬で通院の回数は少なくて済みます。ただ、血液の数値が全般的に低下しやすいこと、それによる感染症が起きることがあります。他に血栓症が起きることや、アレルギーで皮疹や発熱が起きることがあります(免疫調整薬だからかもしれませんが)。

 

 

Vさん:どちらの薬がいいですか?

 

どちらも良い薬ですので、絶対にこっちとは言いません。ただ、腎臓にダメージがある場合はレナリドミドではなく、ボルテゾミブを使用します(レナリドミドは腎排泄、ボルテゾミブは腎不全の影響を受けない)。通院が大変なお年寄りであれば、レナリドミドを使用するかもしれません(少なくともQOLが上昇するまでは)。他は患者さんと話をしてになりますが、初回をボルテゾミブで治療を行い、その後の維持療法をレナリドミドという患者さんもいます。

 

Vさん:わかりました。ありがとうございます。

 


 

 

こんな感じでしょうか。多分、どんどん進歩している分野なので、説明が古くなってしまうかもしれません。

 

ただ、ベースは変わらないと思いますので、患者さんやご家族の役に立てば嬉しく思います。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕のバーキットリンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-23 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

バーキットリンパ腫はバーキットリンパ腫/白血病という位置付けからもわかるように高悪性度リンパ腫にあたります。

 

IgH-c-Mycという転座(たまにIgH:重鎖ではなく軽鎖と転座していることもある)によりがん遺伝子であるMycが活性化します。それにより全ての腫瘍細胞が増殖状態に入ります

増殖している細胞を認識するKi-67 (MIB-1)は100%陽性を示します。

 

腫瘍ができる場所として回盲部(小腸から大腸に行くところ、虫垂のあるところ)、中枢神経浸潤、後腹膜、某脊椎などが有名で、回盲部腫瘤では腹痛などの症状、脳の腫瘤ではそれに応じた症状、某脊椎では対麻痺などが知られます。

 

しかし、この腫瘍は強い治療を行うと長期生存率が80~90%あります。全ての腫瘍細胞が増殖しているので、抗癌剤の感受性が高いわけです。高齢者では強い治療が難しいのですが、DA-R-EPOCHの成績が良さそうということで、この治療が行われたりしています。

 

R-CHOPでは再発の可能性がかなり高くなります。

 

それでは、書いてみたいと思います。

 


 Uさん(45歳、女性)は右下腹部痛のため、ご自宅の近くの外科に搬送され、造影CTで腹部腫瘤を認めました。それによる腸閉塞と診断され、緊急手術で病変部の腫瘍を摘出しました。

 

腫瘍の病理検査で悪性リンパ腫の1つ、バーキットリンパ腫と診断されて、当院に紹介となりました。

バーキットリンパ腫は高悪性度リンパ腫の1つで、怖い話ですが週単位で増殖してくる「白血病なみ」の増殖力を持ったリンパ腫です。

今回は腹部に腫瘍ができ、全身に広がる前に腫瘍による症状が出現し、周辺のリンパ節も含め大きな病変を摘出することができました。

 

Uさん:はい。早く診断できてよかったと思います。

 

ただ、他に病変がないと言い切れないのが悪性リンパ腫の怖いところで、広がる速度が他の腫瘍よりも早く、見えない病変が存在している可能性があります。それも含め、いずれにせよ抗がん剤治療が必要になります(腫瘍が取りきれたとは言えない。仮にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫でStage Iでも放射線治療だけでなく、R-CHOPを3コース行います)。

 

Uさん:はい。わかりました。

 

治療を行う前に、摘出した場所以外に病変部があるのか評価をする必要があります。治療開始前に病変部が他にあるのであれば、治療後はそこが消失していなくてはいけないからです。今回は時間が少しありますので(手術で大きな病変が除去されているという意味です。わかっている残存病変部があれば、速やかに治療を開始します)、PET-CTと骨髄の検査を行い、評価をしてから入院、治療と行きたいです。PET-CTは塊を形成している腫瘍を、骨髄の検査は骨の中の骨髄に腫瘍がいるかいないかを確認するために行います。

 

Uさん:わかりました。

 

治療法ですが、この病気は強い治療を一定の回数行えば、完治する可能性が高い病気です。当院ではR-HyperCVAD/MA療法という治療を行います。

 

Uさん:副作用は一般的にどのようなものがありますか?

 

この治療は急性リンパ性白血病の再発時にも行うことがある治療で、抗がん剤の量としてはかなり多くなります。そのため血液が作れなくなる程度がかなり高いです。特に白血球という抵抗力の数値が100/µl未満(感度未満)まで下がることが予想されます。その期間は発熱する(感染症)可能性が高いです。貧血や血小板減少が進むことも予想されますが、白血病のように作る能力が低下していなければ、輸血をしなくて済むかもしれません。しかし、必要に応じて輸血などで対応することになります。

 

他にも嘔気・嘔吐などの副作用もあるかもしれませんが、これは制吐剤で抑えます。脱毛は永久脱毛ではありませんが、抗がん剤開始2週間後くらいから抜け始めます。他にも神経障害(痺れ)や口内炎、下痢、便秘なども起きる可能性があります。

様々な副作用が予想されますが、それを乗り越えて完治していただきたいです。

 

Uさん:わかりました。宜しく御願い致します。

 


 

 

こんな感じでしょうか。バーキットリンパ腫は増殖も早く、初期の症状によっては本当に急いで治療を行う必要があります。しかし、完治する可能性も十分にある腫瘍ですので、説明としては「治しに行きましょう!」という感じになります。

 

僕の場合は・・・ですが。

 

(もちろん、絶対に治せるわけではないですし、時折抗がん剤が効きにくい要素が加わっている患者さんもいます。それでも最初は「治しに行きましょう」と言いたいです)

 

なお、悪性リンパ腫一般という感じでは、こちらの記事を参考になさってください

悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方) 、僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕のマントル細胞リンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-22 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

マントル細胞リンパ腫はサイクリン D1陽性、t(11;14)という転座が特徴の悪性リンパ腫です。このサイクリンD1というものは細胞増殖のスタートボタンです。スタートボタンが入りっぱなしの悪性リンパ腫になります。

 

昔は高容量の抗がん剤治療(入院治療が必要なもの、R-HyperCVAD/MAなど)ができるのであれば実施、それが難しい患者さんではR-CHOPが標準治療でした。

 

(R-CHOPや悪性リンパ腫一般についてはこちら:僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方)

 

 

ところがベンダムスチンが登場し、VR-CAP(ボルテゾミブ+リツキシマブ、ドキソルビシン、シクロホスファミド、プレドニゾロン)など治療法の進歩があり、説明が難しくなりました。

 

僕は高齢者だとR-CHOPの反応を見て、リツキシマブ+ベンダムスチンに行くことが多かったのですが、VR-CAPは・・・?
VR-CAPの効果は論文で知っているのですが、大学から離れて医務室などで働いているのでやったことがない(VR-CAPを患者さんに使用したことがない)のでなんとも・・・(汗

 

ちなみにVR-CAPはビンクリスチン(微小管阻害剤:神経毒性が強いが骨髄抑制はほとんどない)をボルテゾミブ(神経毒性が強く、血小板産生抑制作用がある)に変更した治療で、完全寛解率が53% vs 42%と高く、無再発生存率も24.7ヶ月vs 14.4ヶ月ですので、効果は良いのです。ボルテゾミブを加えることで血小板減少が多く(72% vs 19%)、輸血が必要な患者さんも23%と多いのです。

 

ただ、有効性は高いので、70歳前後ならばこっちの方が良いかな。けど、80歳くらいだとベンダムスチンを選択するかしら・・・など、色々思っています。

 

ということで、説明が難しくない若年者のマントル細胞リンパ腫(MCL)の説明を記載します。

 


 

Tさん(62歳、男性)は巨大な脾腫の原因精査のために当院に紹介となりました。診察時に行くつかのリンパ節も触れましたので、リンパ節生検をおこなったところマントル細胞リンパ腫(MCL)と診断されました。

 

MCLは中等度悪性度に位置する非ホジキンリンパ腫で、月単位で進行します。60歳以上に多く、進行期で見つかる患者さんが多いのも特徴です。肝臓や脾臓が腫れたり、骨髄の中に入り込んだり、血液中に出てきたり、消化管ポリポーシス(ポリープ状になったリンパ腫が腸にいっぱいできる)なども起こすことがあります。

 

Tさんは今回、へそまで大きくなった巨大な脾腫がきっかけで受診されました。そういったこともよくあります。

 

Tさん:すでに脾臓とリンパ節に病変があるので、進行期なんでしょうか?

 

進行期と考えて良いと思います。ただ、最初の評価として広がり具合を確認します。そのためにPET-CTと骨髄の検査を行います。PET-CTは固まっている腫瘍を、骨髄の検査はバラバラに入ってきている腫瘍を確認するのに行います。

 

今回は進行期とわかっているかもしれませんが、治療する前にあった病変が全て消えるかどうかを確認するのは非常に重要なので、まずは検査を行います。

 

Tさん:消えることはあるのですか?

 

MCLの完全寛解率は低くないです。むしろ治療は普通に効くことが多いのですが、再発率も高いという特徴があります。

 

MCLの治療方針は65歳未満で、強い化学療法が行える患者さんは入院しての治療を行うことが一般的です。

 

当院ではHyperCVAD/MA療法(高容量シタラビンを併用する)という治療を行います。これはバーキットリンパ腫や急性リンパ性白血病の再発時に行うような強い治療になります。これにリツキシマブという薬を加えて治療を行います。

 

その後の治療効果次第ですが、自家末梢血幹細胞移植を行うこともあります。

 

それらの治療で長期に寛解状態を維持できることもありますが、再発する患者さんもいます。その場合は、状況に合わせて治療を行います。

 

Tさん:再発時の治療もあるのですか?

 

本命の治療を行う前に再発時のことを考えるのはあまりオススメしませんが、再発時にはベンダムスチンという薬やボルテゾミブという薬を使用した治療を行うと思います。また、イブルチニブという薬も承認されましたし、外国では他の薬(mTOR阻害薬など)もあります。将来は色々な薬が出てくるかもしれません。今は若いからこそできる治療でできるだけ良い状態を長期に維持させることを目標にしましょう。

Tさん:治るとはおっしゃらないのですね。

 

治るといって良いかがわからない状況です。先ほどの治療は自家移植を行わなくても、比較的良い成績が出ていますし、自家移植を併用すればさらに良い効果があるかもしれません。しかし、長期の経過で再発する患者さんもいますので、治るとは言いにくい病気です。

 

もちろん、将来は治るといってよくなる日も来ると思います。今は最良の治療を行い、それで完治していれば良いと思いますし、そうでなくても良い状態を作り出すことに大きな意義がありますので、頑張って一緒に治療をしていきましょう。

 


 

 

こんな感じになると思います。

WHO2016改訂でindolentな経過のMCLの患者さんはSOX11という因子が陰性であるということが言われるようになりました。

高齢者などでこのSOX11が陰性の場合は「経過観察」というのも選択肢になるかもしれません。

 

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕の濾胞性リンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-21 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

濾胞性リンパ腫は低悪性度のリンパ腫の代表格ですが、少し難しい病気です。何が難しいのかと言いますと、他の低悪性度リンパ腫もそうですが、今のところ完治できると言えないからです。

 

完治できる病気であれば、病気がわかった時点で治療をして、完治を目指せば良いのですが、そうではないところが難しいところです。

 

そして治療選択肢として、リツキシマブが登場するまでは「経過観察して、悪化してきたら治療開始(watchful waiting)」が基本でした。積極的な治療のメリットが少ないからです。

 

しかし、リツキシマブの登場で積極的治療もOKになりました。

NCCNガイドラインではStage IやStage IIであっても抗体医療±化学療法という記載になっています。もしくは経過観察です。

 

進行期は基本的に治療をするのですが、低腫瘍量進行期という考え方があり、このグループに経過観察とリツキシマブ単剤の治療を行うのとどちらが良いかという臨床試験も行われました。

 

そんな感じで、濾胞性リンパ腫の患者さんが最もバラエティに富んだ説明、治療方針になってしまうわけです。だから大変なんです。

 

正直、唯一の説明はそういうことでないのですが(患者さんに合わせて実施します)、一つの案として低腫瘍量進行期の患者さんを例に説明をしてみます。

 

 


 

Sさん(65歳、男性)は半年くらい前に足の付け根の腫瘤に気がつかれていましたが、しばらく様子を見られていて、先日近くのクリニックにかかられました。そこから当科に紹介していただき、先日リンパ節生検という検査を受けていただきました。

 

検査の結果ですが、濾胞性リンパ腫という病気になります。

 

濾胞性リンパ腫は悪性リンパ腫のうち、非ホジキンリンパ腫というグループに入ります。これには低悪性度から高悪性度までありますが、濾胞性リンパ腫は低悪性度リンパ腫の代表格になります。

(他の低悪性度リンパ腫も治療は濾胞性リンパ腫に準じて行うなどと記載されているものも多く、これが基本になります)

 

濾胞性リンパ腫は年単位でゆっくり増大してくる悪性リンパ腫で、昔は治療を悪化傾向になるまで行わずに、タイミングを計るような腫瘍でした。

 

今は積極的に治療をすることもありますし、様子を見ることもあります。それは病気によって症状があったり、腫瘍が全身に広がっていたりした場合は積極的に治療を行います。それ以外の場合は積極的に治療をするか、様子を見てから治療を行うかは患者さんの考え方次第になります(という意味で、バラエティに富んでいます)。

 

積極的に治療を行うかどうか検討するというのは、早期に治療を開始しても、悪化してから治療を開始しても全生存率は差が出ないと言われているからです(積極的な治療が生存には影響しない)。

 

Sさん:なるほど。腫瘍があることがわかっているが、その人の生活や仕事の状況なども考慮して対応できるということでよろしいでしょうか?

 

そうですね。症状があるかないか、全身への広がり具合、検査異常などの状況、それらを総合して治療を積極的に行うか検討することになります。

 

まず、それらを判断するためにPET-CTという検査と骨髄の検査を受けていただきます。PET-CTは全身の腫瘤状になっているリンパ腫を見つけ出すのに、現在最も良い検査です(濾胞性リンパ腫でも推奨はPET-CT)。骨髄の検査はPET-CTではわからない、骨髄にバラバラと入っている腫瘍を見つけ出すのに実施します。

それらの検査を行なっている間に、必要な血液検査も行います。

 

Sさん:わかりました。宜しく御願い致します。

 

(10日後に全ての検査結果が出そろいます)

 

今日は今まで行ってきた検査の結果を説明するために、きていただきました。まず、広がり具合ですが、PET-CTでは鼠径リンパ節(足の付け根)、腹腔内(お腹の中)、胸腔内(胸の中。縦隔周囲など)などに病変は存在します。ただ、大きな病変はなさそうです。骨髄の検査では異常は認めませんでした。これらの検査結果からStage IIIとなります。

 

Sさん:進行期ですか・・・。

 

濾胞性リンパ腫は症状が出るのが遅く、診断された時点で75%の人が進行期と言われています。進行期だからと言って、ショックを受けすぎる必要はありません。ここから治療をしていくわけですから。

 

そのほかの検査結果ですが、貧血(Hbとなっています。

 

FLIPI(リツキシマブ登場以前の基準)では2点で中間リスク、FLIPI2(リツキシマブ登場後の基準)では1点で中間リスクになります。

(個人的には高リスクでなければ、あまり気にしていません)

 

先ほども申し上げましたが、SさんはStage IIIAという状態です。濾胞性リンパ腫は進行期だから治療という考え方もありますが、高腫瘍量でなければ様子を見るという考え方があります。

 

それはいくつかの基準(GELFの基準が有名)がありますが、それで亭主要領であれば経過観察というのも方法になります。

 

Sさん:低腫瘍量でも進行期ですよね。経過を見るのは怖いです。

 

そのお気持ちはよくわかります。そこでいくつかの考え方があるのですが、低腫瘍量・進行期の患者さんを対象に、経過観察をしたグループとリツキシマブという濾胞性リンパ腫治療のキードラッグのみで治療を行なったグループ、リツキシマブで治療を行なった後にリツキシマブの維持療法を行ったグループで比較をしたものがあります。

 

その結果は生存期間に差はありませんでしたが、抗癌剤を併用した治療を行う必要性が出た患者さんがリツキシマブで治療をしたグループで少なかったという結果でした。

 

(黒が経過観察、薄いピンクがリツキシマブを治療したあと経過観察、濃いピンクがリツキシマブを治療した後に維持療法をおこなったグループです)

 

ですので、全く治療を行わないのが不安であれば、そういう選択肢もあります。治療開始はいつでもできますので、Sさんとご家族で相談していただいて、来週その結果を伺えればと思います。

 

Sさん:わかりました。ありがとうございます。

 


 

 

こんな感じでしょうか。

 

症状がある患者さんやGELFの基準を満たす患者さんは積極的に治療を行うのが普通ですので、説明は「治療を行なった方が良いグループです」という内容になります。

 

限局期の場合は年齢によっては放射線治療も検討します。抗がん剤治療よりも放射線治療の方が良い場所もありますので(照射範囲内に重要臓器が少ない、鼠径部のリンパ節のみなど)、高齢者であればそれもありかと思います。

 

放射線治療も嫌だな・・・と言われれば、限局期はリツキシマブ単剤でも大丈夫です。

 

今のところ進行期の患者さんではR-CHOPを行うのが普通だと思います(こちらの記事を参照してください僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方))が、再発時の手段は色々増えてきました。ベンダムスチンなどですね。

 

再発時にリツキシマブ+内服治療という選択肢をとった患者さんもいます(再発までの期間が空いていたのと、本人が「もう点滴は嫌」とおっしゃられたので。僕の担当では2人いますね)。

 

治療方針は主治医の先生とよく相談して頂ければと思いますが、濾胞性リンパ腫はそういう意味で難しいですし、医師も患者さんもよく相談して治療方針を決めなくてはいけないなぁと思っています。

 

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社

コメント (35)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕のMALTリンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-20 19:15:07 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

MALTリンパ腫は低悪性度の中でも低悪性度のリンパ腫です。正常なリンパ球より増殖が遅い、固形腫瘍並みの増殖力です(早いか遅いかは考え方次第)。

 

かなりゆっくりで、複数の病変に広がることが少ないため、Stage IやStage IIが多いです。しかし、時々進行期で見つかる患者さんもいます。

 

進行期でも15年生存率は80%くらいで限局期とあまり差はないと言われています。完治と言いにくいのだけが問題ですが、一回治療が効けば長期生存が期待できます。

 

 

有名なものは胃のMALTリンパ腫(WHO 2016改訂ではヘリコバクターピロリ関連リンパ増殖性疾患のような位置付けになっています)ですが、これ以外にも腸(腸粘膜下)、気管(気管粘膜下)など菌などにさらされている場所やシェーグレン症候群・慢性甲状腺炎などの慢性炎症にさらされる場所(甲状腺、唾液腺、涙腺など)は発生することがあります。

 

それでは、まず胃のMALTリンパ腫を説明したいと思います

 


 

Rさんは先日胃カメラを受けられて、その際に異常を指摘されて当院の消化器内科に紹介になりました。消化器内科の先生がそれを生検したところ、MALTリンパ腫という病気であることがわかり、当科に紹介となりました(ちなみに話していてわかりましたが、血液内科と消化器内科で治療とその後の経過観察の仕方が少し違うかもしれません)。

 

MALTリンパ腫は悪性リンパ腫の中では非ホジキンリンパ腫と言われるグループにあたります。この中には低悪性度から中等度、高悪性度と進行速度によって別れていきますが、MALTリンパ腫は低悪性度になります。

 

その中でも低悪性度の中で最も低悪性度のリンパ腫がこれ(MALTリンパ腫)になります。

 

MALTリンパ腫は細菌や自己免疫疾患などの慢性的な刺激によって発生する悪性リンパ腫で、粘膜の下にある最近から身を守るためのリンパ組織(粘膜関連リンパ組織:MALT)から発生する腫瘍です。

 

基本的にはゆっくり進行し、手術などで摘出していた場合で他に病変部がなければ経過観察となります。また、病変部が限定されたものであった場合は「放射線治療」を行うことが一般的です。

 

ただ、胃のMALTリンパ腫はピロリ菌との関連が言われています。そのため、他の場所に病変がなく、ピロリ菌が胃の中にいる場合は除菌が最初の治療になります。ただし、ピロリ菌がいてもMALTリンパ腫にt(11;18)という染色体異常があった場合は、除菌療法は効きません(染色体転座が原因で、ピロリ菌による胃MALTリンパ腫ではないから。除菌療法の治療効果は5%未満とされている)ので放射線治療が適応になります。

 

Rさん:私はピロリ菌が関連したものでしたか?他の部位にあるかどうかというのはどのような検査を行うのですか?

 

まず、Rさんの胃の生検検体からピロリ菌が確認されていますので、ピロリ菌関連と考えています。他の部位にあるかどうかは造影CT(頚部〜骨盤)と骨髄の検査を行います。

(濾胞性リンパ腫まで・・・MALTリンパ腫以外のリンパ腫では概ねPET-CTが良いとされていますが、MALTリンパ腫は増殖が遅すぎるため、造影CTで検査を行うことが推奨されています)

 

それらの検査と並行して、先ほど言いました「染色体異常の確認」などを追加で行いたいと思います。

 

Rさん:検査ばかりで大丈夫でしょうか?

 

基本的にMALTリンパ腫はかなり増殖が遅いので、心配はいりません。このあと治療のところで説明をしますが、ピロリ菌が陽性であった場合は除菌を行います。その間、かなりゆっくり治療効果を待ちます。待つことができるほど、ゆっくりしか増えてきません。

 

このまま治療の説明を行います。

今のところ他の部位にはいない可能性が高いので、ピロリ菌を除菌する治療法の説明をします。

 

まず、I期などのリンパ腫であった場合はピロリ菌の除菌を行います。除菌から3ヶ月後に内視鏡検査と生検を行なって、ピロリ菌がいるかどうか、悪性リンパ腫がどうなっているかを確認します。

 

ピロリ菌もMALTリンパ腫もいなくなっていたら、その時点から経過観察です。

 

ピロリ菌が消えているが、MALTリンパ腫がいる場合。特に増大傾向でなければ、もう3ヶ月経過を見ます。3ヶ月後に再度評価をしますが、改善傾向がなければ放射線治療を行います。

 

ピロリ菌が消えていなくて、リンパ腫も残っていた場合は、症状がなく、大きくなっていなければもう一度違う抗菌薬を使用して除菌します。再評価は同じように3ヶ月後です。

 

症状がある場合などは放射線治療を行います。

 

Rさん:わかりました。では、一通りの検査を行って、他に病変部がなく、染色体検査で異常がなければ除菌を行うということですね。

 

基本的にはその通りです。評価については消化器内科さんと共同して行います。腫瘍細胞が確認されなくなれば(完全寛解)、最初は3〜6ヶ月(5年間はこのペースと言いますが、僕はゆっくりしか増えて来ないので、5年もやりません。患者さんも大変なので。最初に残存した腫瘍が急速に大きくなってくるのを警戒して初期にはこのくらいで行きますが、1〜2年くらいからは半年から1年にしてしまっています)のペースで内視鏡検査を行います。あとはRさんと相談してペースを決めたいです。

 

2つだけ言っておかなくてはいけないことがあります。

MALTリンパ腫は低悪性度のリンパ腫なので、忘れた頃に再発してくることがあります。一般的にいう5年間再発がなければ大丈夫という腫瘍ではないです。そのため、5年経過した後も年に1回は内視鏡検査を受けるようにしていただきます。

 

Rさん:わかりました。もう1つは?

 

胃でもどこでもそうなのですが、MALTリンパ腫からびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に性質が変わることがあります。それは増大傾向になったり、異常に大きいものはそういう傾向があると思います。何れにせよ、DLBCLの要素が捕まった場合は、治療方針はDLBCLのものに準じて行いますので、それだけはご理解頂ければと思います。

 

 僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)

 

Rさん:わかりました。その場合は宜しく御願い致します。


 

 

こんな感じでしょうか。

一般に進行期のMALTリンパ腫はあまり多くありません。ただ、時々いらっしゃいます。僕はCP(シクロホスファミドとプレドニゾロンの内服)からリツキシマブの維持療法をおこなった患者さんと素直にCHOP+Rで治療をした患者さんがいます。どちらの患者さんも完全寛解になり、無病生存中のはずですが、時折そういうことはあります。

 

(クロラムブシルがないのでCP+Rで行きました)

また、胃のMALTリンパ腫からDLBCLになった患者さんも数名いらっしゃいますが、そういうこともピロリ菌除菌の効果に期待して長期に待っていたりすると生じるのかもしれません(ある患者さんが紹介されてきた時「MALTというにはデカすぎるだろ」と思わず心の中でツッコミを入れました)

 

なお、限局期の若い患者さんで放射線治療の二次発癌を避けるためにリツキシマブ単剤で治療を行うこともあります。

 

少しでも患者さんの役に立てば幸いです。

 

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

 

血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする