こんばんは
本日は記事の依頼のコメントをいただきましたので、PD-1(programmed cell death-1)抗体のニボルマブ(オプジーボ)に関して少し書かせていただきます。
まず、最初に産経新聞とCBより引用します。
2016.11.11 23:51更新
http://www.sankei.com/life/news/161111/lif1611110036-n1.html
極めて高額なため薬価引き下げが検討されているがん治療薬「オプジーボ」について、厚生労働省の部会は11日、新たに血液のがんである悪性リンパ腫の一種に対する治療にも使うことを了承した。約1カ月後に正式承認され、保険適用が認められる。
オプジーボは一部の患者に優れた効果が期待されるが高額な新薬。まず皮膚がんの悪性黒色腫で認められ、患者数の多い非小細胞肺がん、腎細胞がんと適用が拡大してきた。
新たに認められるのは悪性リンパ腫のうち「古典的ホジキンリンパ腫」で、患者は1600~1800人程度と見込まれている。
オプジーボは免疫の働きを利用した新しい仕組みの薬で、小野薬品工業(大阪市)が販売。肺がん患者1人が1年間使うと3500万円かかるとされ、政府は薬価の引き下げを検討している。
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オプジーボ、悪性リンパ腫にも適応拡大へ- 薬食審・医薬品第二部会が了承
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/49980.html
厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は11日、抗がん剤のオプジーボ点滴静注20mg、同100mg(一般名ニボルマブ【遺伝子組み換え】)の効能・効果に、悪性リンパ腫の一種を追加することを了承した。早ければ来月中旬にも正式に承認される見通し。これにより、同剤が適応されるがんは4種類となる。【松村秀士】
オプジーボは、2014年7月に「根治切除不能な悪性黒色腫」の治療薬として日本国内で製造販売が承認された。15年12月には「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」、今年8月には「根治切除不能、または転移性の腎細胞がん」が効能・効果にそれぞれ追加された。
さらに11日の第二部会では、同剤の効能・効果に、「再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫」を追加することで合意した。
同剤は通常、成人に1回、体重1kg当たり3mgを2週間ごとに静脈注射する。同様の効能がある医薬品として、アドセトリス(一般名ブレンツキシマブ ベドチン【遺伝子組み換え】)やアドリアシン(同ドキソルビシン塩酸塩)などがある。
ホジキンリンパ腫は、悪性リンパ腫の一種で、リンパ球と呼ばれる白血球に発現するがん。厚労省によると、国内の患者数は推定約2000人で、そのうち8-9割ほどが、「古典的ホジキンリンパ腫」の患者とされる。
オプジーボについては、医療保険財政を圧迫すると懸念の声が上がっており、中央社会保険医療協議会の部会では、18年4月に迎える次の改定年度を待たない「期中改定」を含め、同剤の薬価の見直しが検討されている。
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一般的に私たちの体の中では毎日数千個の癌細胞が作られています。しかし、それらは免疫細胞によって排除されています。
(ちなみに自然免疫:こいつは私の旗印とは違うから敵だ・・・と攻撃する単球・マクロファージ系、NK細胞など、獲得免疫:こいつが敵だから覚えて見つけ出して排除しなさいと言われて動き出すB細胞や細胞障害性T細胞などがあります)
この癌が排除されていく働きを「がん免疫監視機構」といいます。
まず、がん細胞が免疫系に駆逐されていく「排除相」があります。しかし、ここで駆逐できなかった場合は「がん細胞」と「免疫細胞」が拮抗して平衡状態(がんが増えることができない状況)になります。これを「平衡相」といいます。この時点では「がん細胞」は悪さができません。
しかし、がん細胞が免疫から逃れる方法を見つけ出すと状況が変わります。ロールプレイングゲーム風に書きますと・・・
免疫細胞の攻撃・・・ミス、がん細胞にダメージを与えられない
こんな感じです。
そんな状況になりますと、ここからは一方的な状況になります。がん細胞はどんどん大きくなり、「臨床」的な「がん」という状況になります。
すなわち「がん」という診断がついた場合、基本的には「自分の免疫」から逃れることができるようになっているという話です。この状況を「逃避相」と呼んでいます。
というわけで、がん細胞が増えることができるようになったのは何らかの形で「免疫系の攻撃を防ぐ手段を持った」ということになります。
免疫系の攻撃を防ぐ手段として言われているものは
1、腫瘍抗原などそれまで攻撃対象となっていたものをなくしてしまう
2、HLAを出さなくすることで免疫から逃げる
3、免疫細胞を弱らせる物質を出すようになる
4、免疫抑制性細胞(制御性T細胞や免疫抑制性単球、免疫抑制系マクロファージなど)を呼び集める
などがわかっています。
で、その中の一つにこの「PD-1」があります。
PD-1は腫瘍にある物質ではありません。免疫細胞が持っているものです。
免疫細胞が・・・
「とつげき~」
と、細胞に向かっていきます。
これが腫瘍細胞ではなくて正常な細胞に向かっていくと大変です。膠原病など(俗にいうリウマチの仲間の総称)の自己免疫疾患となってしまいます。
PD-1を失ったネズミが自己免疫疾患を発症することから「PD-1」は免疫を抑える物質らしいということが最初にわかりました。
PD-1は活性化して攻撃態勢に入った免疫細胞が出してくるものです。すなわち「パワーアップした証」です。
それが間違って自分を攻撃するようになったときに正常な細胞が「PD-1リガンド(PD-L1, PD-L2)」を出してPD-1と結合すると免疫細胞は死んでいきます。
これが正常に働けばいいのですが、がん細胞ももともと正常な細胞ですから「PD-L1」を作る能力を持っています。そしてPD-L1を持ってしまうと、免疫細胞からの攻撃をブロックしてしまいます。そして免疫から逃げて(逃避相)、増えていくようになってしまうのです。
で、オプシーボは何をしているかというと「免疫細胞」のPD-1と「腫瘍細胞」のPD-L1が結合しないように、免疫細胞のPD-1と結合してしまいます。そうするとPD-L1による正常な「免疫細胞を死なせてしまう刺激」が入らなくなりますので、免疫細胞は腫瘍細胞を攻撃できます。
抑え込めるかどうか(排除相)、それ以上増えなくなる(平衡相)になればしめたもの・・・という考え方でよいかと思います。
悪性リンパ腫でどうですか…と言われますと、基本的には上にも書いてあります「ホジキンリンパ腫」のみが適応です。過去、このBlogのコメントでもオプシーボに関しての話をいただいたことがございますが、他の悪性リンパ腫では有効性は低いということは「欧米の臨床試験」でわかっています。
ホジキンリンパ腫はPD-L1やPD-L2の遺伝子発現が上昇していることもわかっていますし、欧米の試験では87%に効果があり、86%は2年間悪化しなかったとされています。一方で他のB細胞リンパ腫は20~40%くらいしか効きませんでした。
おそらく「がん免疫監視機構(免疫チェックポイント)」はPD-1だけでなく、いくつもあるのだろうと思います。PD-1とPD-L1の関係で腫瘍を抑えることが多い癌腫(オプジーボがよく効くとされている「悪性黒色腫」など)がある一方で、オプジーボがあまり効かない腫瘍(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫など、他の悪性リンパ腫。また、本来効果があるとされている腫瘍でも効かない方もいますので)では他のメカニズムが働いているのだと思います。
ご質問の答えになっているかはわかりませんが、オプジーボがホジキンリンパ腫に効くのは少なくともPD-1リガンドを多く発現しているからということでよいのではないかと思います。他の腫瘍でもPD-1リガンドの発現と効果は「正の相関(発現量と効果は関係がありそう)」という報告が多いのですが、否定的な意見も出ておりますので、まだまだこれからというところではないかと思います。
難しいことを書きますとPD-1リガンドを腫瘍がもつようになった原因が「腫瘍細胞が独自に持つようになった」場合と「免疫細胞が接近した時にだすインターフェロン」などが原因で出てくる場合があります。
前者はどうしようもないのですが、免疫細胞が接近してきて「攻撃するぞ~~」と来た時に反応してPD-L1が出てきている腫瘍は「免疫」は「腫瘍細胞」を認識していますので、PD-1/PD-L1反応を抑えてあげれば、免疫は一気に駆逐する可能性があります。そういったことも最近ではわかってきています。
まぁ、自分で書いていて思いましたが、ホジキンリンパ腫は「腫瘍細胞」の周りに「正常なリンパ球」が集まってできている腫瘍ですから、免疫チェックポイントが外れたら一気に駆逐されそうだなと思いました(笑
この記事がお役にたったのであればうれしく存じます。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。