こんにちは
昨日は病棟バックアップでした。多分、カンファレンスに注意を100%注いでいるのであれば気付くような内容も、昨日バクアップしていて「これなんなの?」というようなところがあり、いくつか変更していました。
さて、100%カンファレンスに注意を注いでいないとはどういうことかというと、うちの診療科のカンファレンスはおおむね3時間半~4時間かけてやっております(7時から夜11時まで)。学生さんには何がなんやらわからないけど、4時間座っていなくてはいけない苦痛の時間・・・(笑)ということで、以前いらっしゃった助教の先生の仕事を引き継ぎ僕が学生に解釈・説明などをしております。
一応、うわさでは「血液なんかよくわからない、難しい診療科」と思っていたのが、かなり理解してもらえているということです。
あくまで学生さん向けの話なので簡単にわかりやすくするべく話をしているのですが(難しいところは聞かれたら答える)、毎週やっている会話の一部(もしくはいろいろな学生さんがいるので、ごちゃ混ぜになっていると思いますが・・概ねこんな内容の話をしています)を書いてみたいと思います。
学生さんが血液内科を理解する助けになればいいのですけど
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アン:「ねぇねえ、今の患者さんは急性骨髄性白血病なんだけど、急性白血病ってなに?」
学生A:「・・・・」
アン:「テストではないので、適当に」
学生B:「白血球が増える病気で・・・・」
アン:「白血球が増えるとって、感染でも増えるけどどんな白血球が増えるの?」
学生B:「骨髄球…(と言った学生がいましたw)」
アン:「骨髄球って、正常な分化段階の一つでしかないんだけど…骨髄球が増えるんだっけ?」
学生C:「芽球です。芽球が血液中や骨髄中で20%を超えると急性白血病と診断します」
アン:「あたり。WHO分類では20%、FAB分類では30%だけど、じゃあ国家試験的にはどういうのが増えると急性骨髄性白血病(AML)で、どういうのが増えると急性リンパ性白血病(ALL)なんだっけ?」
学生B:「骨髄系の芽球が増えると急性骨髄性白血病です」
アン:「・・・あたりなんだけど、それを判断する方法は国家試験的には何で判断するの?」
…沈黙
アン:「なんちゃら染色とか」
学生C:「あぁ、ミエロペルオキシダーゼ染色(MPO染色)です」
アン:「あたり。WHO分類だと遺伝子異常が重要になるんだけど、今回はそれはいったんおいておいて、FAB分類ではMいくつから~Mいくつまであるんだっけ?」
学生A:「M1からM6くらいまで」
学生C:「M0からM7です」
アン:「あたり。さっきのMPO染色は国家試験的にはAMLとALLを見分ける染色だけど、染まらなかったらすべてALLなんだっけ?」
学生D:「そういういいかたされているので、違うと思います」
アン:「するどい。その感覚は試験では大事なんで。じゃぁ、さっきのM0からM7までのどれが染まらないの?」
学生B;「M0は染まりません。M7とか・・・ 」
アン:「OK。それだけでいい。今の事がわかっていれば、ひっかけ問題にひっかけられないですむから。さて、ここから大事ですが国家試験に必ず出る急性骨髄性白血病があります。M3, 急性前骨髄急性白血病(APL)です。これってどんな病気?知ってることを上げてみて?」
学生ら:「faggot細胞、DIC・・・」
アン:「何番と何番の転座?」
学生:「15番と17番です」
アン:「OK。PML-RARAというやつね。RARA(レチノイン酸受容体α)と転座しているから、ある薬が特効薬になりました。それって何?」
学生C:「ATRAです。」
アン:「あたり。いいねぇ。このAPLというやつはATRAが出るまではDICがすごくてね。一番治療が難しい白血病だったんだ。抗癌剤で壊すとDICを起こす物質が白血病細胞から出てくる。実際、うちでこの5年間で15~20人くらいAPLきている(今年もすでに3名治療しています)みたいだけど、亡くなった患者さんはここに搬送されてくる途中で脳出血起こした患者さんとか、前医で2週間くらい入院していてうちについた(夕方過ぎ)その夜に脳出血とかね。ただ、治療を始めることができればATRAが出てきてからは70%の患者さんが抗癌剤だけで治るようになってきた。ATRAは前骨髄急で分化がストップしているのを乗り越えさせ、成長した異常な白血病細胞は老化して(正しい表現ではないです。apoptosisが正しい)、DICを起こさないまま死んでいきます。ただ、このATRAの副作用で有名なものは何?」
学生B:「分化症候群、レチノイン酸症候群です」
アン:「そう。白血球が増えていくとレチノイン酸症候群のリスクが上がる。論文によるけど、重症のやつを発症すると死亡率は5%にもなる。だからAPLの初回治療(寛解導入療法)はDICと分化症候群のリスクの分散をしながら行うわけ。あと、もう発売されて6年になるから試験にも出ると思うけど、別の薬があるよね?何かわかる?」
学生:「・・・」
アン:「亜ヒ酸です。ヒ素ですね。これはATRA以上に有効なようだとわかってきて、再発難治にしか適応がなかったのが、JALSGの治験では地固め療法から使用を始めている。教科書にも書いてあるでしょう?」
学生:「ありません。少なくとも僕の教科書にはないです」
学生の教科書を探す・・・・(先週の話です)
アン:「ないね(汗」
しばらくして・・・
アン:「あそこにbcr-ablというのが出てきたけど、あれって一般には何の病気の遺伝子異常ですっけ?」
学生C「慢性骨髄性白血病(CML)です」
アン:「どんな病気?」
学生:「白血病細胞が増えて、急性転化する病気です」
アン;「間違いではないけど、白血球は増えて、赤血球や血小板はどうなると思う?」
学生B:「減ります」
学生C:「血小板は増えるか変わらない、貧血は起きない」
アン:「すごいね。じゃぁ、bcr-ablは何しているの?」
学生:「・・・・・」
アン:「じゃぁ、さっきの急性白血病に関して書いたところを出してみて。こいつらは芽球が増えます。APLだと前骨髄球までがふえます。さっきも白血球が増える、つまり芽球が増えるから増殖が亢進しているのは間違いないよね?」
学生:「はい」
アン:「白血球は芽球(赤ちゃん)→前骨髄球(幼稚園)→骨髄球(小学校)→後骨髄球(中学)→・・・・(略)と分化(成長)しているわけだけど、急性白血病では赤ちゃんである芽球ばかり増えるわけ。APLだと幼稚園児までが増える。そのため、白血病裂孔と言われるものができるわけ。CMLでは?」
学生:「慢性骨髄性白血病の場合は白血病裂孔はありません」
アン:「そう。それはすなわちどういうこと?」
学生:「・・・」
アン:「質問を変えるか。bcr-ablは増殖促進に働いているのか、分化を阻害する方向に働いているのか?」
学生:「分化を阻害する・・・」
アン:「そこでそう来るか、お前(汗。増殖促進です。だから、白血球も赤血球も血小板も増えるわけです。白血球の分化に影響は出ていないので、いろいろな奴が増えます。普通はあまり出てこない好塩基球や好酸球とかが増えていたら、疑いますね。ただ、放っておくと増殖シグナルは出っ放しでしょう?他の遺伝子異常が入りやすいじゃない。だって、本来は増殖をストップして異常な遺伝子を修復しなくてはいけないのだから」
学生:「なるほど・・・」
アン:「そうすると、分化を阻害するような異常が加わって急性転化、急性白血病になってしまうわけ。わかった?」
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だいたい、こんな話を毎週しています。珍しい患者さんが入院すると話もまた別の方向で盛り上がりますが、基本的には国家試験を見据えた10人いたら8人が解けるようになるはずの知識をカンファレンスの合間に教えています。
他の疾患領域も説明していますが。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。