ようこそ里山へ 茨城笠間・青葉って永遠

茨城県笠間市。観光と陶芸の町の知られざる宝。穏やかな里山と田園は心の原風景。庭と山川草木、体感する旬の言の葉たち。

クズの花、色も香りも生命力も

2011-08-19 05:48:45 | 野の花の笠間茨城
 今頃になると、里山の縁では、クズの花が咲き始めます。
マメ科の多年草で、秋の七草の一つです。
里山の野の花としては、何か異形かつ堂々とした面持ちです。

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 クズの花には存在感がありますね。
したたかな強さが宿っているようです。
風に揺れる萩とは、同じマメの仲間でも、かなり趣がちがいます。

初めは淡く、それからこの写真のように色を増し、やがて青みを帯びるように。
香りは甘く、葡萄にたとえられることも。
夕闇が迫ると、その甘さが、一層なまめかしく匂いたつとか。

 色気よりも食い気の話としましては、葛湯など、薬用としても、昔から重要な植物でした。
でも、既に私の子供の時分には、食用に掘ったというような記憶はありません。
川辺の竹やぶの縁など、普通に見かける身近な仲間として、子供なりに認知はしていましたが。

昔の子供は、土用が明けてウマオイが鳴くころになっても、毎日、川の取水堰で水泳と魚とり。
宿題もやらずに、河童の学校ですが、堰の縁の土手に、この花がありました。
この時節には、血を吸いたがる虻が増えますから、肌を露出する水泳部員は要注意です。
アブナイなんていいながら甲羅干ししていると、このなまめかしい色合いが目に入り、ドキリとしたものです。
葉っぱは有用で、手で揉んで汁をにじませて、水中眼鏡の曇りどめにしました。

 クズは生命力旺盛ですが、昨今はいろいろと被害が出ているようです。
一昔前は、海を渡ったアメリカでの過剰な繁茂に手を焼いている様子が報道されました。
日本でも、ただ今山は人手が入らなくなっていますから、クズの猛威が始まっています。

強力な蔓がまきついて、数年で高木を枯らすこともしばしばです。
根っこが河川の護岸ブロックの隙間に侵入、肥大して崩壊させます。
栄養満点の根っこはイノシシの冬の食料で、蔓の藪は隠れ家にもなります。
下の画像は、田んぼの向こうがすべてクズに覆われています。
さしずめこちらは、イノシシ夫人の田園調布ともいうべき一等地、高級住宅街です。

 見上げれば、頂上の樹木も、既にクズの支配下にあります。
こういう有様を見ますと、緑とは申しましてもクズ一色。
本来多様であった生き物のバランスが崩れている様子が伝わります。

クズの大斜面の下をのぞき込むと、一面のアズマネザサでした。
アズマネザサの茎が太いところから推察すると、以前は耕作地だった可能性があります。
しばらくは、いわゆるシノヤブだったのが、こうしてクズにとって替わられようとしています。

 アメリカでは、栄養豊富なクズを飼料にして利用するケースもあるようです。
マメ科植物ですから、土をせっせと肥やしていると思います。
この馬力、災い転じて、なんとか福としたいものです。
生活を変えれば、災いが災いでなくなると感じます。

「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」と、釈迢空さんは詠まれました。
ご覧の通り、踏みようもないようなこのクズ原ではありますが、記憶はよみがえります。
水中眼鏡を磨くときの、あのもうもうと立ちのぼるような、クズの汁の匂い。
時の経つのも忘れて、無心に友達と遊ぶ幸せ。

現代は、「良い子は川で遊ばない」なんて言われる文明国です。
そして今、可愛い福島の子供たちは、外で遊ぶこともままならない夏休みです。
大人の一人として、この現実の重さを、責任をもって受け止めなければならないと思います。



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