以下ご本人の了解が得られましたので、転載します。
フィリピントヨタ労組を支援する本社行動の報告
TMPCWAを支援する名古屋連絡会共同代表/元三菱自動車 阪野智夫
◆出る釘は打たれる、ばかりではない
トヨタ自動車の2005年3月期決算は、「売り上げ21兆369億円、税引き後の純利益1兆3721億円」である。凄まじいばかりであるが、その貪欲な企業戦略は、2010年に、ゼネラルモーター(GM)を抜いて世界一の生産1030万台をめざすという。
ところがここへ来て「ちょっと待った!」がかかった。既に知られている①北米トヨタの元社長秘書が社長からセクハラを受けたとして、約215億円の損害賠償を求めてニューヨーク州地裁に提訴した事件②トヨタの最高級ブランド車「レクサス」に引き続いて、SUV(スポーツ多目的車)でトップシェアを誇る「ハイラックスサーフ」のリコール問題。ただし、このハイラックスサーフの場合は、欠陥車問題-リコール隠しの疑いが持たれ、対応が後手に回った事で「致命傷」になりかねない要素を孕んでいる。
そればかりではない。これはあくまで推測に過ぎないが、トヨタの“自動車産業世界一”は、アメリカとアメリカ国民の“誇り”をいたく傷つけていると思われる。彼らがこのまま指をくわえて見ているはずがないと思うがどうか。また、中国の自動車メーカーがアメリカで現地生産に乗り出した。これは政治における米中関係とは無縁のようであるが、私には二重写しに見える。「帝国・日本を潰せ!」と。
それでなくても、「補給線の延びすぎた戦線は脆い」といわれるが、反撃、挟撃、追い落としにトヨタはどう対処するのか。
ついでながら、鎌田慧さんの「自動車絶望工場」が世に出てから既に30年余り経つが、過酷な労働現場は今も変わりがないといわれている。その一つの例として、トヨタ自動車堤工場で働いていた内野健一さんの「過労死認定」訴訟が進行中である。
そしてもう一つ。フィリピントヨタ労組潰しと233名の解雇問題が、ILO(国際労働機関)の4次にわたる勧告、IMF(国際金属労連)の、解雇者の職場復帰を求める「国際キャンペーン」など、このトヨタの問題が、世界に波及している事実である。これについては、7月16日、17日の「トヨタ本社行動」関連で報告したい。
ともかく、トヨタの場合、古諺「出る釘は打たれる」ばかりではない。平家物語「・・・盛者必衰の理をあらわす。おごれる人(トヨタ)も久しからず、」というべきか。(この稿7月15日)
◆トヨタ本社行動-7・16豊田連帯集会に70余名
「トヨタの組合潰しを許さない!7・16豊田連帯集会」が、トヨタ本社のある豊田市の、豊田勤労福祉会館で開催された。関東地区からは観光バスと街宣車で40数名の参加があり、関西からも数名が参加し、全体で70数名の参加で会場は熱気に充ちた。
こうした昨年にも増した盛り上がりには、フィリピントヨタ労組(TMPCWA)の、闘争長期化に関わらず果敢な闘いに共感が広がっていると共に、ILOとIMFの「バックアップ」を受けた、世界的な広がりに、内外の関心が集まっている事、それに加え、トヨタの企業イメージ失墜につながる北米のセクハラ問題、相次ぐリコール・欠陥車問題に社会の耳目が集まっている事も見逃せない。
こうした空気というか、闘いの進展に「活動家」の目線、神経、感性も敏感である。“世界のトヨタ”を相手に、その不正、企業姿勢を指弾し、呻吟する、トヨタとその関連企業の全労働者と連帯していく事業(闘い)に、大きな意義、価値を見出しているのである。
それは集会のあいさつにも表れており、地元の小林元県議の実体験に基づく“頑ななトヨタであるが、もう一つの顔”が紹介され、地元としてしっかり支えていくという発言。また、「TMPCWAを支援する会」の山際共同代表のあいさつと決意にも表れていた。さらに、今年1月に結成された「全トヨタ労働組合(全トユニオン)」の若月委員長の、企業別組合、トヨタ労連支配を超えた新たな結集と国際連帯を重視する発言にも見られた。
そして、フィリピン現地などでの闘いを伝える映像のあと、TMPCWAのエド委員長が登壇し、闘争の勝利を確信していること、日本における支援連帯に感謝し、共にあることを述べ、あわせて、フィリピン現地では、アロヨ政権の下、組合活動家多数が殺され、誘拐されて行方不明になっている厳しい状況を伝えた。思わず「エド委員長こそ大丈夫か?」と思ったくらいである。
続いて、現役の現場労働者ウェニー副委員長が、たとえ御用組合が作られようと現場ではTMPCWAに支持が寄せられている事、それゆえ、支持する契約労働者が解雇されたりする例もあるという。だが、苦しい闘いの中ではあるが、その闘争心、勝利への確信に揺るぎがないことが、言葉の端々から良く伝わった内容であった。
◆思考停止か、焦慮の反映か?トヨタの不可思議な対応
2日目のメインは「本社申し入れ」であるが、早朝7時半からは、トヨタ本社近くの愛知環状鉄道「三河豊田」駅及び本社工場など3か所でビラ入れ、街宣を行った。午前9時過ぎから小雨の降る中、本社前に70名近くが総結集し、社前集会を開くと共に、代表団と通訳の7名が申し入れのために本社内に入った。
本社ビルは昨年春に新築された。広いエントランスであるが、全体としてはシンプルで、来客はあまり目につかない。用件は部門ごとの対応で、ここを通らないのかもしれない。
さて、向かい合ったのは総務部の2名であったが、一人は昨年も同席したKであった。山際代表が、申し入れ文書の内容を簡潔に述べ、回答を迫ったところ、「これまでと変わりはない、現地の事は現地で解決」という、型通りの回答とはいえない答をしただけであった。そこで全造船の早川氏がILOの勧告、IMFの「グローバルキャンペーン」をどう思っているのか、と追及したが「・・・」と沈黙したままだった。
続いてエド委員長は、「自分たちの主張は正しい。組合あげて早く解決したいが、TMPC(フィリピントヨタ社)からオファーされた内容は受け入れられない。組合員の職場復帰は譲れない。闘争勝利まで闘いはやめない」と強く述べた。
続いてウェニー副委員長は「組合承認選挙でLOが勝利した?あの選挙は会社側にマインドコントロールされたものだ。それでも勝てなかったのだ」と述べ、さらに「職場では依然してWAは支持され、活動を続けている。改めてWAは、解雇を撤回せよ、刑事告訴を取り下げよ、など4つの要求をする」と、これまた強く述べた。
そして全ト・若月委員長や愛知の代表からも「早い解決こそ、誠意ある対応こそ、トヨタ自身のためではないか、私たちも、多くの労働者もそれを望んでいる」「問題解決のプロジェクトチームができているのではないか。なければつくって、解決の端緒として示せ」などと発言し、回答を迫ったが相手は、「関係部署に伝える」というのみで、これにはあきれて「あなたたちはいったい、何のためにこの席についているのか」と、エド委員長が鋭く追及する場面もあった。
50分ほどの申し入れを終えた代表団は本社前に戻り、山際代表が「一言でいえば、ふざけるな!」という中身のない会社対応であったと報告。一方エド委員長は「今日の申し入れは決して無駄ではない。日本全国から支援する労働者が集まり、トヨタに労働者の国際連帯の力を示せた」と語った。
こうして本社行動は終えたが、私の感想は、リコール問題で関係部署の連携不足や対応の拙速が問題になっているが、このTMPCWA問題に関しても同じ轍を踏んでいるように感じられた。
これは巨体をもてあましているのか、金儲けだけに思考とエネルギーが回っていて、その他の事は思考停止しているのか、あるいはそれゆえにか、上意下達が徹底していて、トップがものを言わない限り、何も答えないという硬直した体質になっていると思わざるを得ない。
一方、小林元県議のエピソードから類推すれば、解決する心積もりがあっても、その結果がどのように波及するのか図りかねている焦慮の反映、もしくは、もう一押し、二押しすれば、いよいよ“蟻の一穴”の水漏れの拡大に気がついて、動かざるを得ない芽があるのではないか・・・。
一歩も譲らない、相手にすらならない、そんなトヨタの対応は、「世界的な企業としては」私には不可思議な対応に映るのだが、どちらにしろ、この秋の闘いに突破口を見いだす戦略、戦術をみんなで考えよう!ということである。(この稿7月21日)
フィリピントヨタ労組を支援する本社行動の報告
TMPCWAを支援する名古屋連絡会共同代表/元三菱自動車 阪野智夫
◆出る釘は打たれる、ばかりではない
トヨタ自動車の2005年3月期決算は、「売り上げ21兆369億円、税引き後の純利益1兆3721億円」である。凄まじいばかりであるが、その貪欲な企業戦略は、2010年に、ゼネラルモーター(GM)を抜いて世界一の生産1030万台をめざすという。
ところがここへ来て「ちょっと待った!」がかかった。既に知られている①北米トヨタの元社長秘書が社長からセクハラを受けたとして、約215億円の損害賠償を求めてニューヨーク州地裁に提訴した事件②トヨタの最高級ブランド車「レクサス」に引き続いて、SUV(スポーツ多目的車)でトップシェアを誇る「ハイラックスサーフ」のリコール問題。ただし、このハイラックスサーフの場合は、欠陥車問題-リコール隠しの疑いが持たれ、対応が後手に回った事で「致命傷」になりかねない要素を孕んでいる。
そればかりではない。これはあくまで推測に過ぎないが、トヨタの“自動車産業世界一”は、アメリカとアメリカ国民の“誇り”をいたく傷つけていると思われる。彼らがこのまま指をくわえて見ているはずがないと思うがどうか。また、中国の自動車メーカーがアメリカで現地生産に乗り出した。これは政治における米中関係とは無縁のようであるが、私には二重写しに見える。「帝国・日本を潰せ!」と。
それでなくても、「補給線の延びすぎた戦線は脆い」といわれるが、反撃、挟撃、追い落としにトヨタはどう対処するのか。
ついでながら、鎌田慧さんの「自動車絶望工場」が世に出てから既に30年余り経つが、過酷な労働現場は今も変わりがないといわれている。その一つの例として、トヨタ自動車堤工場で働いていた内野健一さんの「過労死認定」訴訟が進行中である。
そしてもう一つ。フィリピントヨタ労組潰しと233名の解雇問題が、ILO(国際労働機関)の4次にわたる勧告、IMF(国際金属労連)の、解雇者の職場復帰を求める「国際キャンペーン」など、このトヨタの問題が、世界に波及している事実である。これについては、7月16日、17日の「トヨタ本社行動」関連で報告したい。
ともかく、トヨタの場合、古諺「出る釘は打たれる」ばかりではない。平家物語「・・・盛者必衰の理をあらわす。おごれる人(トヨタ)も久しからず、」というべきか。(この稿7月15日)
◆トヨタ本社行動-7・16豊田連帯集会に70余名
「トヨタの組合潰しを許さない!7・16豊田連帯集会」が、トヨタ本社のある豊田市の、豊田勤労福祉会館で開催された。関東地区からは観光バスと街宣車で40数名の参加があり、関西からも数名が参加し、全体で70数名の参加で会場は熱気に充ちた。
こうした昨年にも増した盛り上がりには、フィリピントヨタ労組(TMPCWA)の、闘争長期化に関わらず果敢な闘いに共感が広がっていると共に、ILOとIMFの「バックアップ」を受けた、世界的な広がりに、内外の関心が集まっている事、それに加え、トヨタの企業イメージ失墜につながる北米のセクハラ問題、相次ぐリコール・欠陥車問題に社会の耳目が集まっている事も見逃せない。
こうした空気というか、闘いの進展に「活動家」の目線、神経、感性も敏感である。“世界のトヨタ”を相手に、その不正、企業姿勢を指弾し、呻吟する、トヨタとその関連企業の全労働者と連帯していく事業(闘い)に、大きな意義、価値を見出しているのである。
それは集会のあいさつにも表れており、地元の小林元県議の実体験に基づく“頑ななトヨタであるが、もう一つの顔”が紹介され、地元としてしっかり支えていくという発言。また、「TMPCWAを支援する会」の山際共同代表のあいさつと決意にも表れていた。さらに、今年1月に結成された「全トヨタ労働組合(全トユニオン)」の若月委員長の、企業別組合、トヨタ労連支配を超えた新たな結集と国際連帯を重視する発言にも見られた。
そして、フィリピン現地などでの闘いを伝える映像のあと、TMPCWAのエド委員長が登壇し、闘争の勝利を確信していること、日本における支援連帯に感謝し、共にあることを述べ、あわせて、フィリピン現地では、アロヨ政権の下、組合活動家多数が殺され、誘拐されて行方不明になっている厳しい状況を伝えた。思わず「エド委員長こそ大丈夫か?」と思ったくらいである。
続いて、現役の現場労働者ウェニー副委員長が、たとえ御用組合が作られようと現場ではTMPCWAに支持が寄せられている事、それゆえ、支持する契約労働者が解雇されたりする例もあるという。だが、苦しい闘いの中ではあるが、その闘争心、勝利への確信に揺るぎがないことが、言葉の端々から良く伝わった内容であった。
◆思考停止か、焦慮の反映か?トヨタの不可思議な対応
2日目のメインは「本社申し入れ」であるが、早朝7時半からは、トヨタ本社近くの愛知環状鉄道「三河豊田」駅及び本社工場など3か所でビラ入れ、街宣を行った。午前9時過ぎから小雨の降る中、本社前に70名近くが総結集し、社前集会を開くと共に、代表団と通訳の7名が申し入れのために本社内に入った。
本社ビルは昨年春に新築された。広いエントランスであるが、全体としてはシンプルで、来客はあまり目につかない。用件は部門ごとの対応で、ここを通らないのかもしれない。
さて、向かい合ったのは総務部の2名であったが、一人は昨年も同席したKであった。山際代表が、申し入れ文書の内容を簡潔に述べ、回答を迫ったところ、「これまでと変わりはない、現地の事は現地で解決」という、型通りの回答とはいえない答をしただけであった。そこで全造船の早川氏がILOの勧告、IMFの「グローバルキャンペーン」をどう思っているのか、と追及したが「・・・」と沈黙したままだった。
続いてエド委員長は、「自分たちの主張は正しい。組合あげて早く解決したいが、TMPC(フィリピントヨタ社)からオファーされた内容は受け入れられない。組合員の職場復帰は譲れない。闘争勝利まで闘いはやめない」と強く述べた。
続いてウェニー副委員長は「組合承認選挙でLOが勝利した?あの選挙は会社側にマインドコントロールされたものだ。それでも勝てなかったのだ」と述べ、さらに「職場では依然してWAは支持され、活動を続けている。改めてWAは、解雇を撤回せよ、刑事告訴を取り下げよ、など4つの要求をする」と、これまた強く述べた。
そして全ト・若月委員長や愛知の代表からも「早い解決こそ、誠意ある対応こそ、トヨタ自身のためではないか、私たちも、多くの労働者もそれを望んでいる」「問題解決のプロジェクトチームができているのではないか。なければつくって、解決の端緒として示せ」などと発言し、回答を迫ったが相手は、「関係部署に伝える」というのみで、これにはあきれて「あなたたちはいったい、何のためにこの席についているのか」と、エド委員長が鋭く追及する場面もあった。
50分ほどの申し入れを終えた代表団は本社前に戻り、山際代表が「一言でいえば、ふざけるな!」という中身のない会社対応であったと報告。一方エド委員長は「今日の申し入れは決して無駄ではない。日本全国から支援する労働者が集まり、トヨタに労働者の国際連帯の力を示せた」と語った。
こうして本社行動は終えたが、私の感想は、リコール問題で関係部署の連携不足や対応の拙速が問題になっているが、このTMPCWA問題に関しても同じ轍を踏んでいるように感じられた。
これは巨体をもてあましているのか、金儲けだけに思考とエネルギーが回っていて、その他の事は思考停止しているのか、あるいはそれゆえにか、上意下達が徹底していて、トップがものを言わない限り、何も答えないという硬直した体質になっていると思わざるを得ない。
一方、小林元県議のエピソードから類推すれば、解決する心積もりがあっても、その結果がどのように波及するのか図りかねている焦慮の反映、もしくは、もう一押し、二押しすれば、いよいよ“蟻の一穴”の水漏れの拡大に気がついて、動かざるを得ない芽があるのではないか・・・。
一歩も譲らない、相手にすらならない、そんなトヨタの対応は、「世界的な企業としては」私には不可思議な対応に映るのだが、どちらにしろ、この秋の闘いに突破口を見いだす戦略、戦術をみんなで考えよう!ということである。(この稿7月21日)