閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「ねこのおひめさま」

2021-11-07 17:22:30 | お知らせ(新刊)

新刊のお知らせです。
グリム童話『ねこのおひめさま』(あかね書房 2021年11月刊)
絵は林なつこさんです。

え~、グリムにそんな話あったっけ? とお思いの方、ごもっとも。「ねこのおひめさま」というのは、わたしが勝手につけたタイトルです。
原題は「かわいそうな粉ひきの若いものと小猫」(金田鬼一訳 岩波文庫#KHM106)という、長い上にまことにぱっとしないもので、これは絶対タイトルで損をしている…ということを、2年くらい前のブログ(ここの後半)に書きました。
たまたまそれを目にした編集者KTさんが「面白いです!」と反応してくださったのが始まりで、こちらも凝り性だもんで、原典を読むためにドイツ語辞書まで買い、しばらくはグリムの沼にはまりっぱなし。
そこからあれやこれやありましたが、最終的に、1話読み切り80ページの幼年童話シリーズ、という形に落ち着きました。

粉ひきの親方に「いちばんいい馬をみつけてきた者に水車小屋をゆずる」と言われ、旅に出た三人の若者。
年下のハンスは、上のふたりに置いて行かれてしまい、森の中で出会った三毛猫にさそわれて、猫のお城で働くことに…。

簡単にまとめて言えば「猫だらけ」で「逆玉の輿」のお話。グリム童話の中で、猫がこれだけたくさん出てくる話は他にありません。
発端は、昔話によくある「三人旅」のパターン。三人いれば三番目が成功する、というのがお約束。森の中で助力者に出会うのも、これまたお約束。
編集のKTさんは、ご自身が三人きょうだいの長女ということもあり、どうしていつもいつも末っ子ばかり幸せになるのかと、つねづね不満に思っていたそうですが、これは決して上の子がダメという意味ではなく、長子相続制度の下では、立場の弱い末っ子が家を出てチャンスをつかむ話が喜ばれた、ということ。また、一度目、二度目は失敗しても、三度目で成功する、というたとえでもあります。

そうそう、「家を出る」も大切なポイント。成長した子どもが、親と家(この話では親方と水車小屋)から離れ、広い世界に出て、知らない人に会い、さまざまな経験をして、幸せをつかむ…という筋書きは、昔のドイツだけのことではなく、現代の日本の子どもたちにもきっと通じるものがあるはずです。

最初はいかにも頼りなげなハンス君が、お城で七年間働くうちに鍛えられて、いつのまにかしっかりした若者に成長していく。そんなハンスを「拾って」きた三毛猫って、先見の明があるのか、それとも人材育成能力にすぐれているのか、いずれにしてもただの(大事に守られているだけの)お姫様じゃないわけで、そのあたり、いろいろと深読みしていくのも面白い。


イラストの林なつこさんは、ハンスとお姫様、それにお城の召使い猫たちを、それぞれ魅力的に描きわけてくださっただけでなく、衣装から持ち道具までこまかく時代考証もしていただき、たいへん見ごたえのある絵になりました。
幼年童話はイラストの点数が多くて画家さんは大変なのですが、楽しんで描いていただくことができて嬉しいです。ありがとうございました。

グリムといえば、白雪姫とか、赤ずきんとか、ヘンゼルとグレーテルとか、オオカミと7匹の子ヤギとか…昔からよく知られている話が思い浮かぶでしょう。一方、それほどメジャーでないけれど面白い話もまだまだいっぱいあるのですが、それらはたいていぶあつい「グリム童話集」でしか読むことができず、字も小さいし挿絵も少なく、わたしみたいな超本好きの昭和の子どもならともかく、いまどきの小学生は手に取る機会も少ないと思います。
そこで、200篇以上あるグリム童話の中から、あえてマイナーな話を発掘し、原典をわかりやすい言葉や表現で語り直し、カラーのイラストも多めにいれて、低学年からひとりで読める本にしてみましょう…というのが、この <グリムの本だな>というシリーズのコンセプト。
いまのところ、あと2冊はすでに決まっているものの、全3巻では「本棚」というより「本立て」なので(笑)…もうちょっと続くといいなあ、と思っているところ。 

グリム童話は「本当は怖い」とか「残酷」とか…ことさらダークな面が注目されることもありますけれど、日本でいえば江戸時代後期に出版された本ですから、現代の人の感覚と多少ずれがあるのはしかたがない。本質はポジティブで、善悪のはっきりした健全なもの。いつの時代も、聴き手である子どもたちを応援し、勇気づけ、背中を押してやるのが、昔話本来の役割であり、力であると、わたしは思っています。

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「ブラキオサウルスのラキ」

2021-05-02 15:22:03 | お知らせ(新刊)

紙芝居です。
『ブラキオサウルスのラキ』(教育画劇)。絵は竹与井かこさん。

年少さん向き恐竜セット7本の中のひとつ。
8場面で、主人公はブラキオサウルスの子どもで、テーマは「食べもの」で…というご依頼でしたので、「ブラキオサウルスのラキちゃんですね」と言ったら、そのまんまタイトルに(笑)。

恐竜といっても、年少さん向きなので、かわいいやつです。ぜんぜんこわくないです。
(だいたい「恐竜」という名称そのものが、必要以上に「恐い」イメージをつくってしまっているのは困ったものだ)

 

そしてこちらが、実物大ラキちゃんのおとうさん!

わたしは何を書くときでも、現場に取材に行くということはあまりしませんが、さすがにブラキオサウルスというものは見たことがなく…近場で見られるとも思っていなかったので、たまたま遭遇したのは、もうほとんど出来上がったあとでした。
これは見てから書くんだったなあ。
(タイムマシンは絶対酔いそうだから乗りたくなかったのよ)
最近の図鑑には動画がついていたりしますが、大きさの感覚や立体の迫力は、自分でそばに行って見上げてみないと、なかなか実感できないものです。

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「にげろ!どろねこちゃん」

2021-04-17 17:29:35 | お知らせ(新刊)

春にぴったりの絵本ができました。
『にげろ!どろねこちゃん』(教育画劇 2021年4月刊)。絵は、おくはらゆめさんです。

水たまりで遊んでどろんこになっちゃった、しろねこちゃんとみけねこちゃん。
「おふろにはいりなさーい」「やだやだ」「やだよー」。
はしってにげるどろねこきょうだい。どろんこあしあと、ぺたぺたぺた。

2018年の紙芝居『どろねこちゃんになっちゃった』のリメイクです。
リメイクといっても、8場面から15場面になり、表紙も扉もついたので、内容は倍以上になりました。

紙芝居というもの、それはそれで極めれば面白いだろうと思うのですが、おおぜいの前で演じるものですから、絵は「遠目がきくこと」が第一、おはなしはテーマ先行でストーリー重視、対象年齢によって文字量も決まっていたりと、制約のあるおしごとです。それに、保育現場で使われることがほとんどで、一般の方に見ていただく機会がないのが、わたしとしてはちょっと物足りないところでした。
今回、紙芝居版の「元気」はそのままに、もっといろいろなシーンを描いていただいたことで奥行きが生まれ、近距離で繰り返し見る絵本の良さが加わり、ほのぼの可愛い1冊に生まれ変わりました。

さて、表紙がこのとおり、全身どろんこの子猫たち…「ンまあ」と眉をひそめるお母さまもいらっしゃるかと思うので(笑)とびらの絵もぜひごらんください。

ほらね、おはなしは、ここから始まっているのです。
おかあさんのはさみと針さしに注目!


ほんと、子どもって、夢中になって遊ぶのよねえ。

 

どろねこ2匹でぺたぺたとあちこち逃げ回るのが見どころです。

そして、文章ではひとこともふれていない「おかあさんのきもち」を、おくはらさんがラストでさりげなく、あたたかく表現してくださっていて、そこも素晴らしい!と思うのでした。

 

お手に取ってごらんいただけると嬉しいです。

都会のマンション住まいで、どろんこ遊びをしたことのない子どもたちが増えているそうです。もしかしたら、親ごさんの世代がすでにそうなのかもしれません。
幼いときにできるだけたくさんの自然物(土、石、水、動植物)にさわるのは、成長の過程においてすごく大切なことだと、わたしは思います。生まれて数年のうちに、サルからヒトへ、原始人から現代人へと進化するための「基礎」として不可欠なのではないかと。
うちの子が1歳くらいのとき、妙におとなしいなーと思ったら、台所で大きなタッパのお漬物をひっくり返してびちゃびちゃにして遊んでいたことがあり、後始末が大変だったけど、いま思えばあれも水と植物(と塩!)。「びちゃびちゃ」「ぐちゃぐちゃ」の感触の抗いがたい魅力ってなんとなくわかるし、たとえわからなくても、それだけ熱心にやっていたということは、そのとき、その子にとって必要だったということなのですから、おこってはいけません。
(いや、でも、おこったかなあ。おこったよね。昔のことで、もう忘れましたが…笑)

 

*最近ア〇ゾンさんでは、その本が品切れになるとマーケットプレイスの商品が自動的に繰り上がってトップに表示され、うっかりポチッとすると、知らずに定価より高い中古を買わされるという変なしくみになっているようです。逆に、定価より安くしておいて、送料をうんと高くとる業者もいます。この絵本は本体1200円、税込1320円ですので、ご注意くださいね。

<4月25日追記>↑この件はとりあえず改善されたようです。
書籍の再販制度(定価販売)については賛否あり、版元の認めた自由価格本(いわゆるバーゲンブック)というものも存在しますが、まぎらわしい売り方は良くないと思う。

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きょうりゅう絵本2冊

2020-06-20 15:23:51 | お知らせ(新刊)

恐竜の絵本が2冊できました。
『ティラノサウルスのはらぺこないちにち』
『トリケラトプスのなんでもないいちにち』
竹下文子・文/鈴木まもる・絵/偕成社 2020年7月刊

テキストができたのは2年半ほど前で、そのころのブログにもちらっと書いていたので(その1その2)ご記憶の方もいらっしゃるかと。
その後、絵を描く人が忙しくなったため、すこし間があきましたが、このほどめでたく2冊同時発売となりました。

肉食恐竜のティラノサウルスは、朝からはらぺこ。

 

えものをみつけて追いかけても、逃げられたり…

 

大きすぎたりして、なかなか食べられず。

一方、草食動物のトリケラトプスは、

ひたすらむしゃむしゃ草を食べ…

 

たまにちょっと「どきどき」もあるけど…

 

なにごともなく、夕暮れまでひたすら草を食べる。


というわけで、同じ時代、同じ地域に暮らす2頭の恐竜の「ある一日」を描いた絵本です。
2冊に分けたのは、草食動物と肉食動物を1冊に入れると、どうしても被害者と加害者、善と悪の図式になってしまうからで…。
ティラノ君だって、いつも悪役では面白くないだろうし、そもそも動物が(動物ですよ。怪獣ではない)生きるためにゴハンを食べるのはあたりまえのこと。肉食だというだけで凶暴だとか獰猛だとか決めつけるのは間違っている。トリケラはトリケラで、じぶんのゴハンを食べて暮らしている。それだけのこと。良いも悪いもありません。
それなら、変な擬人化も擬竜化もせず、「対戦」もさせず、肉食、草食、それぞれの立場から、行動の違いや周囲との関係を書けば…と考えました。いわば1枚のレコードの「サイドA」と「サイドB」のような…(たとえが古すぎるよ!)。
主役の2頭が直接顔を合わせるシーンはないのですが、気をつけて見ていただくと、あ、あれが、あれか…とわかったりする仕掛け。なので、単独でももちろん読める絵本ですが、2冊合わせると4倍楽しんでいただけるんじゃないかと思います。

裏表紙は、骨格標本です(笑)

 

黒にゴールドの文字という渋カッコイイ系の帯がつきました。

じつは、というか、当然ですが、わたしは生きている本物の恐竜を見たことがありません。
手がかりは、発掘された骨の化石だけ。そこから復元された骨格標本と、生きていたときはこうだった(かもしれない)という想像図だけ。
それではどうもぴんとこないので、肉食のティラノサウルスは、うちの池の亀(と猫も少々)を参考にして、草食のトリケラトプスは、そこらの鹿のようなものだと思って、それぞれの行動や気持ちを想像して書きました。
恐竜本体だけでなく、その時代の風景というのも、さっぱりわからない。なんとなく、遠景に火山が火を噴いていて、沼みたいなものがあって、巨大なシダかソテツっぽいものが生えている、というぼんやりしたイメージはあるけれど、ほんとはどうなんだろう。タイムマシンに乗れたら、ぜひ見てみたいです。(確実に酔いそうだけど…)
福井県立恐竜博物館の寺田和雄先生(数少ない古植物学者のおひとり)にはたいへんお世話になりました。ありがとうございました。

 

 

 

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「せんろはつづく まだつづく」大型絵本

2020-02-08 11:41:15 | お知らせ(新刊)

『せんろはつづく まだつづく』(金の星社 2009年)の「大きいの」ができました。

これは、ほんとに大きいの。一辺が50センチ、重さも3キロ近くあります。(右下が通常サイズ)
絵も文字もそのまま拡大されていて、別に一色刷りのテキストがついています。
このサイズだと、読み聞かせもひとりでは無理。ふたりで左右を持って、ひとりが読む、という感じかな。台に置いたほうが安定するでしょう。

前作の『せんろはつづく』も2010年に大型化(→これです)されており、今回が2冊目。
一般のご家庭では要らないものですが、お話し会などのイベントや保育現場で需要があるそうです。
中央にとじ目のない厚紙で丈夫にできています。

(猫はついていません)

わざわざこんな大きなものを作らなくても、プロジェクターで拡大して映せば簡単じゃん…と思われるかもしれませんが、本の画面と、投影された画像とでは、同じものでもやはり違うと思います。
人が手でページをめくってお話が進むということ。めくるときのほんの1秒か2秒の「間」に、次はどうなるのかな、何が出てくるのかな、と聴き手は想像をめぐらせる。もう何度も見て覚えている絵本でも、浮いたページの、その下にちらっとのぞいた次の色を見て、あ、あれだな、とわくわくしたりする。
めくったら夜が朝になっていたり、百年もの月日が過ぎ去ったりしていても、時間の経過は「めくる」動作と共に(ふわっと起こるかすかな風と共に)ページとページの隙間にきれいにたたみこまれ、違和感が残らない。絵本をつくる人は、そういうことを考えて場面割りをしています。
ぱっ、ぱっ、と瞬時に切り替わる画像には、その「間」がない。些細なことのようですが、これはとても大きな違いです。
大人を対象とした講演会などで、説明のために使用するのはいいとしても、小さい子ども相手にプロジェクタで「絵本の読み聞かせ」をするのを、わたしは良いと思いません。それは「絵本」ではなく、「画像の連続」にすぎないからです。
何よりも、本には実体がある。スクリーンの映像は終わるとあとかたもなく消えてしまうけれど、本は「おしまい」と閉じたあともちゃんとそこにある。始まりから終わりまで、きちんとつながっている。手をのばしてめくれば、誰でもその世界の進行役になれる。
おひざのぬくもりがテレビで代用できないのと同じように、せめて人生の初めの数年間は、なるべく実体のあるものにたくさん触れて育ってほしいと思っています。

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「まじょのむすめワンナ・ビー」

2019-11-14 14:49:33 | お知らせ(新刊)

新刊です。
『まじょのむすめワンナ・ビー』(偕成社 2019年11月)
絵は種村有希子さんです。
48ページ横組みでオールカラーという、絵の多い幼年童話、あるいは文章多めの絵本。
そして、なぜハロウィンも過ぎたこのタイミングで「まじょ」なのかというと、これは魔女の話に見えて、じつはそうではないからです。

とうさんは、まほうつかい。かあさんは、まじょ。
ふたりのあいだでそだったむすめのワンナ・ビーは、6さいになると、まじょの学校にはいりました。大きくなったら、りっぱなまじょになるために。
ところが、ワンナ・ビーは、学校のべんきょうが、とってもにがてだったのです。
先生は、とうさんとかあさんをよんで、いいました。
「ざんねんですが、おたくのおじょうさんは、まじょにはむいていないようです」
でも、ワンナ・ビーは、そんなことぜんぜん気にしていませんでした。

以前、日本児童文学者協会編のアンソロジー『バースデーには、すてきな魔法を!』(偕成社 2012年)に収録された「ちっこい魔女ワンナ・ビー」のリメイクです。
(初出時の話は→こちら
アンソロジーというのはいろんな人の作品の詰め合せですので、自分の思うようにならない部分もあり、おそらくわたしが編集意図をちゃんと理解していなかったため、なんとなくしっくりしない気持ちがずーっと残っていました。
今回、単独で本にできることになり、対象年齢を下げて全面的に書き直してみたら、ようやく納得のいく作品になりました。編集KMさんに感謝です。

種村さんの描いてくださった絵が、ほんとうにきれい、ほんとうに可愛い。
主人公をはじめ、登場する子どもたちのふっくらほっぺ、のびやかな手足、ふんわり柔らかな笑顔、ちょっとしたしぐさなど、どこ見ても可愛くてたまりません。
主人公の両親も、子どもの本にありがちな「お父さん・お母さん像」ではなく、現代風の若い魔法使いと魔女のカップルに描かれていて、このふたりが、なんというか、と~ってもラブラブ!で、素敵なんです。
詳しくは、偕成社のwebマガジンのインタビューでも「喋って」おりますので、ぜひそちらをごらんくださいませ。

その子らしさをうけとめる物語『まじょのむすめ ワンナ・ビー』著者インタビュー

 

以下、蛇足。

ワンナ・ビーという子は、魔法の勉強が苦手で、カエルを出す魔法でもオタマジャクシしか出てこなかったりするんだけど、本人はそのことをあんまり気にしてなくて、マイペース。
この「気にしてない」というところがイイ! といろんな方に言われました。
勉強に限らず、何か困難にぶつかったときに、「逃げずに向き合う」とか、「努力して克服する」とか、いわゆる「前向きな姿勢」というものが一般には求められるのでしょうが、わたしは「こっそり隠れてやり過ごす」も、「ぜんぜん気にしない」も、選択肢としてじゅうぶんありだと思います。
以前からちょいちょい書いていることですが、向き不向き、得手不得手というのは、その人の本質、根っこの問題なので、枝葉が無理やりがんばってもどうにかなるものではない。
だからやっても無駄…というわけではなく、いろいろ一通りやってみるうちに、何が好きで何が嫌いか、何が得意で何が苦手かが、自分でわかってくる、それが大事なのです。
その上で、すべての子どもは、「何ができないか」ではなく、「何ができるか」で評価されるべきだし、「できる(=楽しい、うれしい)」方向に進みたい子どもの手助けをする(もしくは、せめて邪魔しないようにする!)のが、すべてのおとなの役目ではないかしら。

…というようなことは、この本にはひとことも書いてありませんが(笑)
まあ、日頃そんなことを考えているヒトが書いたおはなしだということで、読んでいただければ幸いです。

 

まじょのむすめワンナ・ビー
竹下文子・作
種村有希子・絵
偕成社 2019年11月

(Amazonさんの「大型本」の基準はよくわかりません。天地22cm、絵本としては小さいサイズです) 

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「なんでもモッテルさん」

2019-10-25 10:31:07 | お知らせ(新刊)

新しい絵本ができました。
『なんでもモッテルさん』(あかね書房 2019年10月刊)
絵はアヤ井アキコさんです。

カッテル・モッテルさんは大金持ち。
立派なお屋敷には、世界中から買い集めたお宝がいっぱい。
車庫には高級車がずらーり。金庫の中にはお金がぎっしり。
奥さんのマーダさんも、子どものテルルちゃんとモットくんも、欲しいものは何でも、いくらでも手に入るのです。
うらやましい、でしょ?
だけど、表紙に並んだこの家族、むすーっとして、ぜんぜん幸せそうじゃないんだなあ。

わたしとしては珍しいタイプのお話かもしれません。
2年ほど前、編集のKTさんと、とりとめのない雑談をしていて(ということ自体かなり珍しい)、いろんなモノがい~っぱい描きこんである絵本って楽しいですよね、という話から、家族全員がそれぞれ何かのコレクターで、集めたモノで家がいっぱいになってしまう…という設定が浮上し、「それ面白いですよ!」ってKTさんがおっしゃるもんだから、帰りの電車でメモ帳に書きとめたのが、この話のもとになっています。

わたし自身、ビー玉とか貝殻みたいなこまごましたものを集めてためこんでしまうパックラット体質なので(パックラットという動物については、以前こちらに書きました)、コレクター心理はよくわかるのですが、問題は、集めたあと、どうするかです。
大事にしまいこんで、それっきり…では、どうにもならない。おはなしには「転」と「結」がなくちゃ。
集めたものでお店やさんを始めるとか、どこかに寄付するとか…そういう現実にありそうな話だったら、わざわざ書く必要もないし。
だいたい、モノに対する執着の強い人が、どうしたらあっさり手放す気になるかっていうと、たぶんそれは無理。絶対無理。
そうすると、やっぱりこれしかないだろう、ということで、こうなったのが、このお話。

いつものことですが、
「とけいが100こ、ぼうしが100こ、ネクタイは なんと365ほん!」
などと、文章担当はさらさらと書くだけですみますが、大変なのはそれを絵に描く人です。
アヤ井さん、原稿を読んで「うえぇぇ~っ!」と思われたに違いない。しかも、それを実際に描いていただいたのは、あの記録的猛暑の最中。本当に申し訳ありません。。。

子ども部屋の散らかりっぷりを、ちらっと。

とにかくお屋敷じゅうモノがいっぱいで息苦しいという状況が前半ずっと続くのですが、アヤ井さんはそれを非常にていねいに、美しく描いてくださっています。
それぞれのモノが、いかにもふさわしい姿かたちで、あるべきところにあり、ひとつひとつ、まるで手に取るようにして眺める楽しみがたっぷり味わえる。
「目に嬉しい絵本」になりました。



まったく、この子どもたちのかわいくないことったら(笑)

今回、アヤ井さんには、特にお願いしたことがありました。
上の絵に出ている、この家の飼い犬の「ワンダ」。この子も、じつはひそかに何かを集めてためこんでいて、それが何かということは最後のほうになってわかるんだけど、それについて文章では一切書かず、絵だけで見せるようにしたい…と。
何をどんなふうに集めるか、アヤ井さんが考えてくださって、とても楽しいことになっていますので、ぜひごらんくださいね。ワンダ、かわいい。

もうひとつ。
これは実際に手にしていただかないとわかりにくいのですが、「みしみし めりめり ばきばきばきっ!」と大きく書かれたページが右側にありまして、そのページをめくろうとすると、まさに「ばきばき」と音を立ててはがれてくるような感じが…するんですよ、ほんとに。
次の場面は、見開きいっぱい大混乱になっているのですが、それをまためくると、紙のシュッというかすかな音とともに、すべてがはるかかなたに飛び去って、あとに清浄な空気と明るい光に満ちた世界があらわれる…
そう、これこそ「絵本にしかできないこと」!
わたしが絵本をつくりたいのは、アニメーションにも電子本にもない、この「紙をめくるシュッというかすかな音」があるからなんだと思います。

なんでもモッテルさん
竹下文子・文
アヤ井アキコ・絵
あかね書房 2019年
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「たいふうがやってきた」

2019-05-12 18:31:19 | お知らせ(新刊)

紙芝居です。
『たいふうがやってきた』(教育画劇 2019年5月)
絵は相野谷由起さん。

雨で川が増水したので、川岸の家のねずみさん夫婦は、赤ちゃんを連れてうさぎさんの家に避難しました。
ところが、うさぎさんちは雨もりで大さわぎの真っ最中…

<異常気象からいのちをまもる>というセットの中のひとつです。
なんかすごいテーマだなあ。
台風のほかに、熱中症(屋外・屋内)、虫刺され、竜巻、土砂災害、というラインナップ。
しかし、「身近な危険にそなえる」と言ったって、熱中症と虫以外は、大人だって防ぎようがないじゃない。
台風は毎年やってくるものだし、必ずどこかで大きな被害が出ます。でも、それを紙芝居で見せて、どうするのか。
「台風怖い、台風が来たらどうしよう」と不安をあおったって良いことはひとつもありません。災害対策は大人たちでしっかりやって、子どもは何も心配せず遊んでいればいいのです。
(子どもを守る人のことを「大人」と言うのよ。そうじゃない人は、人間ではないね)
だから、この紙芝居は、ほんとは大人が(あるいは、親子一緒に)見るのがいいんじゃないかなあ。

 

わたしの好きな場面。
くまのおばさんがろうそくをつけてくれて「おたんじょうびみたい」になるところ。

年明けからのスタートで、あまり時間がなかったのですが、しっかり安心感のあるあたたかい絵を描いてくださった相野谷さん、ありがとうございました。

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「なまえのないねこ」

2019-04-24 22:52:50 | お知らせ(新刊)

新しい絵本ができました。
『なまえのないねこ』(小峰書店)
絵は町田尚子さんです。

ぼくは ねこ。なまえのない ねこ。
だれにも なまえを つけてもらったことがない。
まちの ねこたちは みんな なまえを もっている。
いいな。ぼくも なまえ ほしいな。

…と、まあ、そういう(どういう?)お話。

この表紙のキジトラさん(男の子)が、とにかくかわいいです。
本屋さんでばったり出会って、こんなふうにじっと見つめられてしまったら、これはもう、おうちに連れて帰るしかない、でしょ?
置いていけないですよね?(笑)

舞台は、とある町の商店街。
主人公のほかに、8匹の個性あふれる猫たち(+2わんこ)が登場します。この子たち、じつはみんな実在の猫さん犬さんが絵のモデルになっているのです。
町田さんちの猫さんや、デザイナーさんちの猫さんや、お友達の猫さんたち。
それぞれ町のあちこちで、じつに居心地よさそうに暮らしていて、ほかにも本文に入りきれない子たちが見返しいっぱいに描かれていて、もうそれだけでなんだかうれしくて、いつまで見ていても飽きないような…。

そして、

靴屋さんの「レオ」は…

 

ありし日のこだまじいちゃん! 特別出演させていただきました。
どの子をどの店の子にするか、町田さんとご相談しつつ考えて、楽しかったです。
「ウチのに似てる~!」とか、「いるいる、こんな猫」とか、それぞれに楽しんでいただければ嬉しいな。

そもそものはじまりは、4年前の春。
編集の美香子さんから「町田尚子さんの絵で絵本を…」というお誘いをいただきました。
わたしの場合、ひとりで文章を書き、それから画家さんを探して…というパターンがほとんどなので、具体的に画家さんを想定して書くという機会はめったにありません。
これはね、ちょっと緊張します。
この方の絵だったら、どんなおはなしが合うかを考える。
いや、そうじゃない。わたしはどんな絵が見たいか、を考えよう。
そのためには、どんな言葉を用意したらいいか。

じつをいうと、猫だけはやめようと、思っていました。
というのは、わたしが書かなくたって、町田さんはいくらでも猫の絵をお描きになる方だからです。それに、町田さんの猫の絵は、1点1点がきれいに「閉じた」世界で、他人の入る隙がないような、そんな気がしました。
で、猫以外で、たぶんこれならご本人は絶対思いつかないでしょう、というような妙案(ビミョーな案、ね)をいくつか出してみたものの、どれもこれも予選敗退。つまり、美香子さんが首を縦に振らない。
町田さんの絵で、ということは、大人むきの絵本でもいいということなんだ、と思ったら、そうではなくて、絵本であるからには幼児も読めるもの、怖いのはダメ、とのことで。あらまあ。

町田さんの絵の魅力は、質感の表現が素晴らしいところ。木は木の、草は草の、水は水の匂い。動物なら、てのひらをあてたときの毛の感触と、その下にあるしっかりした温かいボディ。木材、石材、たたみ、ガラス。とくに建物を描かれるときの映像的なアングル、光線、奥行き感に、わたしはとても心ひかれます。
そうだ、建物。商店街のいろんなお店を描いてもらえれば、子どもだって楽しめるんじゃないか、と思いました。
では、その「絵」を「絵本」にするには、どうしたらいいか。それぞれの店をつなぐ共通項として「お店の猫」が出てきて、それぞれの猫を結ぶものとして「主役の猫」が出てきて、主役が移動するための動機と必然性ができて、最後にテーマができて…

結局、猫になってしまった。
すべての道は猫に通じる、という…(笑)

「最後にテーマができる」というのが、一般常識と逆ですが、わたしには普通です。というより、そうでなければだめなので。いかにもなテーマを先に立ててしまったら、ろくなものはできない。(あくまでも個人的な話ですよ)
なんとなく手元に寄ってきたものたちを、そうっと集めて、あたためて育て、その中から浮かび上がってくる「いちばんたいせつなもの」を見分けて、すくい取る。それがほんとうのテーマと呼ぶべきもので、そこまで行きついたものだけが作品になる。(ええ、個人的に、です)

町田さんが、原稿を読んですぐ「描きたい」と言ってくださって、そこから待つこと約3年。
じっくり待ったかいあり、素晴らしい絵をいただいて、この絵本ができあがりました。
文章担当としては、無上のよろこびであります。
あとは…もう言うことはありません。ぜひ手にとってごらんくださいませ。

小峰書店さんのサイトで、扉+3画面が試し読みできます。


 

 

なまえのないねこ
竹下文子・文
町田尚子・絵
小峰書店 2019年4月


いくつかの書店さんでサイン本を置いてくださるそうです。
もちろん来月の町田さんの個展でも。
6月には(たぶん)絵本ナビさんでもサイン本販売があるようなので、チェックしてみてくださいね。 

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「木苺通信」文庫版

2018-12-01 10:04:46 | お知らせ(新刊)

できました!
『木苺通信』(ポプラ文庫ピュアフル 2018年12月5日発売)

『風町通信』に引き続き、初見寧さんがイラストを描いてくださいました。
とっても美味しそうな木苺と、凛々しい狼のトプと、谷間の可愛いおうち。
 

口絵にもトプいるよ。(ちらっと…お見せしない…笑)
本文中にも、銅版画を思わせるような小さくて美しいモノクロームの絵がたくさんちりばめられています。

ここまで、とても長い道のりでした。
そもそも、わたしが12年前にこのブログを始めたときの一番の目的というのが、『木苺通信』(偕成社 1989年)の復刊!だったのです。
でもそれは簡単なことではなくて、あちこち遠回りして、いろいろ、いろいろありまして…
まとめて詳しく書くつもりでいましたが、出来上がった本を眺めていたら、ここまでの経緯とか裏話とかは、もういいや、という気がしてきました。
この物語が、新しい身軽な装いで書店に並び、ふたたび手に取っていただけるということ…それをここでお知らせできることが、何よりも嬉しいです。
「復刊ドットコム」でリクエスト投票して下さった皆さま、長いあいだ待っていてくださった皆さま、ほんとうにありがとうございました。

今回、大きな書き直しはありません。ミスをいくつかと表記を直したくらいかな。
せっかくの機会なので、新作とか、入れようかなあ…という気持ちもあったのですが、誰でも行ける風町に比べて、木苺はもう少し個人的な閉じた世界で、しかも暦2まわりぶんの24話がきっちり隙間なく並んでいるので、足すことも動かすことも難しく、そのままにしました。
単行本未収録の「船のゆくえ」(これは厳密にいえば木苺谷の話ではないけれど)を、あとがきのかわりに入れてあります。



帯にコメントを寄せてくださったのは、歌手の手嶌葵さんです。
わあぁ…なんというぜいたくな!
こちらの動画で葵さんのお声も聴けますよ。
先に出た『風町通信』にも、あらたに色違いの帯がついて、並べて置いていただく予定。
2冊あわせて、クリスマスプレゼントに、いかがでしょう?

葵さんと、イラストの初見さんはお知り合いで、葵さんのアルバム『青い図書館』のジャケットを描かれたのが初見さん。
一方、ポプラ社編集のAKさんは、以前から葵さんの歌が大好きで、そのアルバムジャケットを見て『風町通信』のイラストを依頼しようと思った…という、なんだか不思議なご縁なのでした。

これ、とっても素敵なCDなので、ぜひ聴いてみてくださいね。

青い図書室
手嶌葵
ビクターエンタテインメント

 

(P[た]1-2)木苺通信 (ポプラ文庫ピュアフル た)
竹下 文子
ポプラ社 2018年


<関連記事>

「木苺通信」について 2010.12.16

暦について 2014.4.4

「風町通信」文庫版 2017.9.1

「木苺通信」文庫版(予告編)2018.11.9 

 

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コメント (16)
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