玄関の階段の前に、大量の桜の花びらが吹き溜まっている。
散って日がたつので、ほんのり赤みをおびた褐色になっている。
独特の柔らかい色合いだ。
桜で染物をすればこういう色になるのかもしれないと思う。
花が散ったあとに、つづいて赤い萼と花柄の部分が落ちた。
大きめのピンクの八重桜の花びらも飛んできて混ざっている。
それに、青い小さい葉っぱが、ほんの少し。
青紫のパンジーの枯れ花がひとつふたつ。
それらの色の配合が絶妙で、なんとも美しいものに見える。
小堀杏奴さんの随筆集『静かな日々』の中に
「洗濯」という短い一文がある。
大きなたらいに井戸水を汲んで洗濯をしている。
白い下着類の中に1枚ピンクのブラウスが混じっている。
その上に石鹸水の薄い灰色がかかり、一筋射しこむ陽の光が美しい。
筆者はそれを見てルーヴルで見た絵を思い出す。
ヴェラスケスの描いた金髪の幼い王女。
その灰色の衣装と、淡いピンクのレース飾り…。
この本を初めて読んだのはおそらく小学高学年のときだが、
このくだりで「はたと膝を打つ」ような共感をおぼえた。
何かを見て、何かを感じる。
そのアンテナの向きや受信機の感度が
たまたま自分とよく似ている人がいるのだ。
自分の親よりずっと年長の人であることなど当時は知らず、
(ヴェラスケスの絵だって絵葉書でしか見たことがないのに)
「ああ、そうそう!」とうなずき、わたしは嬉しかった。
本の奥付は昭和29年となっている。父が自分の本棚から
女の子にも読めそうなものを抜き出してくれたのだろう。
今でも折にふれ思い出すことがある。
たとえば玄関前の桜の花をほうきで掃きながら。
散って日がたつので、ほんのり赤みをおびた褐色になっている。
独特の柔らかい色合いだ。
桜で染物をすればこういう色になるのかもしれないと思う。
花が散ったあとに、つづいて赤い萼と花柄の部分が落ちた。
大きめのピンクの八重桜の花びらも飛んできて混ざっている。
それに、青い小さい葉っぱが、ほんの少し。
青紫のパンジーの枯れ花がひとつふたつ。
それらの色の配合が絶妙で、なんとも美しいものに見える。
小堀杏奴さんの随筆集『静かな日々』の中に
「洗濯」という短い一文がある。
大きなたらいに井戸水を汲んで洗濯をしている。
白い下着類の中に1枚ピンクのブラウスが混じっている。
その上に石鹸水の薄い灰色がかかり、一筋射しこむ陽の光が美しい。
筆者はそれを見てルーヴルで見た絵を思い出す。
ヴェラスケスの描いた金髪の幼い王女。
その灰色の衣装と、淡いピンクのレース飾り…。
この本を初めて読んだのはおそらく小学高学年のときだが、
このくだりで「はたと膝を打つ」ような共感をおぼえた。
何かを見て、何かを感じる。
そのアンテナの向きや受信機の感度が
たまたま自分とよく似ている人がいるのだ。
自分の親よりずっと年長の人であることなど当時は知らず、
(ヴェラスケスの絵だって絵葉書でしか見たことがないのに)
「ああ、そうそう!」とうなずき、わたしは嬉しかった。
本の奥付は昭和29年となっている。父が自分の本棚から
女の子にも読めそうなものを抜き出してくれたのだろう。
今でも折にふれ思い出すことがある。
たとえば玄関前の桜の花をほうきで掃きながら。