たしかに
あの松の枝を揺らしたのは
あの日の春の風
かすかに
あの梔子に残っていたのは
かつて青かった頃の春の匂い
とうに過ぎ去った春は
視界の向こう側で霞み
咲き誇る麗しき花々は
神々しい暑熱を被り笑む
軽やかに陽光に踊るのは
僕の幼さを匿う他愛ない心
捨て切れない昔日の後悔と
特徴なき有り触れた感情が
この胸の奥を今でも占める
風に揺れる
. . . 本文を読む
氷が燃えている
貴女の目のなかの
湖の上一面で
どうしても避けられない
一抹の誤解を消し去るように
僕の
意識は
零度以下に冷めた
鮫の思考を
丁寧に模倣した
一寸も先の見えない夜のなかで
草臥れた白Tシャツと対峙して
徐ろに相槌を打った
一瞬
時が止まったような気がして
軽く顔を上げたが
何のことはない
僕は僕のままだった
変わりもしない睡眠と . . . 本文を読む