チエちゃん家で台所と居間の改築を行う以前、農家の土間造りであったそこには、囲炉裏がありました。天井には煙出し窓がありましたし、自在鉤も付いていました。
しかし、この自在鉤を使うことは稀で、お母さんが手作りこんにゃくを練る時に鉄なべをかけるくらいのものでした。
あとは、炭火の上に五徳(鉄製の丸いスタンド)が据えてあり、そこには鉄瓶がいつも湯気をたてていたものです。湯が沸く時のチリチリという音が何とも心地よい響きでした。
魔法瓶がまだ、発明されていなかった頃のお話です。
風邪をひいた時などに、この囲炉裏の中ににんにくを皮付きのままくべて焼き、その焼き上がったにんにくは、甘く、ねっとりとして何とも美味でありました。
あまりの美味しさに何個も食べようとすると、鼻血が出るからとたしなめられたものです。
また、火箸を使って灰に落書きをしては消し、消しては描き、時折、チエちゃんの遊び場にもなっていたのです。チエちゃんは、この囲炉裏端で
おばあちゃんからマッチの擦り方を教わりました。何度もマッチを擦っては失敗し、漸くできるようになった時には、灰の中にたくさんのマッチ棒が散らばっていました・・・
豆炭行火の豆炭を炭火にくべて、真っ赤に熾るのを待ち、それぞれの行火の中に入れたものこの囲炉裏でした。
昭和のあの頃は、何をするにも手間隙がかかったものの、なんとゆったりと時が流れていたのでしょう・・・