2012年6月28日 東京新聞朝刊に掲載されたコラムです。
本音のコラム TPP秘密交渉 竹田茂夫
二週間ほど前、TPP(環太平洋連携協定)秘密交渉のISD条項(投資家•国家紛争条項)が
米国で暴露された。
予想されたものとはいえその内容は驚くべきものだ。国内法を飛び越えて外国企業に政府を
訴える権利を与える。しかも企業弁護士たちが交代で裁判官を務める。非公開の国際法廷が
一審だけで判決を下す。各国の司法制度から独立し、民主的制御の及ばない裁判制度を新たに
設けるに等しい。究極の投資家主権論だ。
豪州だけはISD条項を受け入れていないようだが、国民の生活と生命に直結する食糧安保•
薬価決定権を含む医療システム•保険制度•環境保護などに関する国家主権を、外国の投資家に
売り渡すものと考えざるをえない。圧倒的に米国の大企業に有利になることは目に見えている。
アナール派歴史学の泰斗ブローデルは、十五世紀から十八世紀の西欧資本主義に関してこう
言う。「(大商人たちは高利潤を求めて)自分が歓迎されない回路に力づくで入り込み•••特典
を擁護し、損失を補償し、競争者を追い払い•••王侯の恩寵と好意さえも獲得する」
二十一世紀の多国籍企業は国家主権と民主主義をも超えようとする。メキシコやカナダが
TPP参加交渉を表明した今、日本の乗り遅れは許されないなどという議論がいかに的外れで
あるか。(法政大教授)