獄中から無実を訴え続ける死刑囚、奥西勝。1961年(昭和36年)、三重県名張市の小さな村の懇親会で、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」で、犯人として逮捕された。自白のみで物的証拠がなく1審では無罪になるが、2審で逆転死刑判決、1972年最高裁で死刑が確定した。戦後唯一の逆転死刑判決である。
映画は東海テレビの長期取材をベースに、「死刑弁護人」の齊藤潤一監督が、報道フィルムと再現ドラマで綴る。警察の取り調べに心ならずも自白し、裁判で無罪を主張するというパターンは、小説やドラマではよくあるが、奥西の場合も自白を強要され犯行を認めてしまった。その時点から、奥西の犯行となるように村の住人たちの証言が変わっていき、辻褄合わせが始まり、冤罪が作られたのだ。TVドラマなら、正義感の塊のような弁護士、あるいは刑事、裁判官、新聞記者などが登場し、無実の被告を救い出してくれるのだが、現実はそんなにうまくはいかない。だからどんなに苦しくても、やっていないことは決して自白してはいけないのだ。
弁護団の努力で突き止めた新証拠を提出して何度も再審請求を繰り返すが、司法の厚い壁に阻まれ棄却され続ける。「徳島ラジオ商殺し」事件で再審の道を開いた元裁判官は「裁判官は序列に縛られ、先輩や上級裁判が一旦出した判決を覆すことは非常に困難だ」と語る。
現在奥西は、名古屋拘置所から八王子医療刑務所に移され収監されている。事件からすでに50年以上経って、奥西の両親と息子、特別面会人(死刑囚には、普通は家族、弁護士しか面会できないそうだ)、弁護士、村の住人、裁判官など、少なからぬ関係者が亡くなっている。司法は奥西の獄中死を待っているのだろうか。(久)
監督:齊藤潤一
脚本:齊藤潤一
撮影:坂井洋紀
出演:仲代達矢、樹木希林、天野鎮雄、山本太郎、(ナレーション)寺島しのぶ
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