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「BAD LANDS バッド・ランズ」(2023年 日本映画)

2023年10月11日 | 映画の感想・批評


 高齢者を対象として、親族などを装い、金銭をだまし取る特殊詐欺、いわゆる「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」といわれるものもこれに入るが、未だにその数は減少せず、新聞紙上を賑わせている。最近は分業化が進み海外に拠点を移したものもあり、手口は巧妙化しているそうだ。このオレオレ詐欺犯罪グループの内実がリアルに描かれている黒川博行氏の原作「勁草(けいそう)」に心動かされた原田眞人監督が、8年のときを経て映画化、大阪・西成区を舞台に息詰まるサスペンス劇を完成させた。
 冒頭、そのオレオレ詐欺の一部始終が展開される。受け子、掛け子、道具屋、名簿屋などと呼ばれる人物が、任された仕事をどのように実行していくか、実際に大阪の中之島や難波の街中を歩きながら、まるで観る者をその場に居合わせたかのような感覚にさせてしまうところが実に上手い。そこに特殊詐欺の捜査に携わる刑事達が絡んで、ますます緊張感が増していく。果たして大金の受け渡しは成功するか否か?!
 主人公のネリはこの詐欺グループの“三塁コーチ”という役を担当している。ターゲットに接触して金銭を受け取る“受け子”のリーダーのような存在で、今回も受け子に付き添い、指示を出す。成功するかしないかは、このコーチの采配にかかっているのだ。このネリには血の繋がらない弟ジョーがいた。自称「サイコパス」。衝動的で自制が効かない反面、子どものように純なところも。この弟が賭場で多額の借金をしてしまい、ネリが保証人になったばっかりに、大金を巡って思わぬ展開に。
 ネリを演じるのは安藤サクラ。その演技力は数々の作品で実証済みだが、今回も今までにない役柄を表情豊かに熱演。最初はこの“三塁コーチ”の役を飄々と軽妙なタッチで演じているのだが、物語が深みに入って行くにつれて目つきが鋭くなり、“凄み”がぐんぐん増して来る。この変化が凄い!!グループをまとめる名簿屋の高城が一目置き、跡を継がせようとしているのも納得。原作では男性の役だったが、それを脚本の段階で女性に変えたことで物語に“血と宿命”のテイストが加わり、面白さが増したようだ。
 弟のジョーは「燃えよ剣」以来の原田作品となる山田涼介が演じた。血の繋がらないネリに言い表すことのできない愛情を抱いており、ラストでその想いを昇華。自身の演技の幅を広げるいいきっかけの作品となったに違いない。また名簿屋役の生瀬勝久の渋い演技もさることながら、幼い頃からネリのことをよく知る元ヤクザ「曼荼羅」に扮する宇崎竜童の、一肌も二肌も脱いだ演技には、こちらの熱もヒートしまくった。
 特筆すべきことは、大阪の街並みが彦根に出現したこと。なんと西成の三角公園周辺のスラム街を彦根銀座商店街裏の駐車場に再現。街全体をオープンセットのように使ったロケが行われたのだ。資料によれば、農協の果実センターは高城の倉庫に、スナックなどの店舗が入ったアパートはネリ達が住む「ふれあい荘」に、滋賀銀行の旧彦根支店の地下は掛け子のアジトにと、それぞれが生活の場として活かされ、趣のある賭場は鳥居本地区にある時代劇のオープンセットが使われた。彦根フィルムコミッション室の全面協力があってこそ実現できた快挙で、彦根の名を知らせるよい機会となったことは確かだ。
 そして元洋品店の倉庫のような建物は、題名にもなっているビリヤード場「BAD LANDS」に。ポール・ニューマンの出世作「ハスラー」に出てくるホールをイメージした造りになっていて、至る所にその遊び心が発見できる。「勁草」とは強い草のこと。苦しく厳しい試練に耐え、強い意志を持って力強く生きていく、新しい門出のネリにピッタリの言葉だ。
 (HIRO)

監督:原田眞人
脚本:原田眞人
撮影:北信康
出演:安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久、宇崎竜童、吉原光夫、江口のりこ、大場泰正、サリngROCK、淵上泰史、天童よしみ


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