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「こんにちは、母さん」(2023年、日本映画)

2023年10月04日 | 映画の感想・批評


大手企業の人事部長として出世したはずの息子(大泉洋)は大学時代からの友人をリストラしなければならない、苦しい立場に追い込まれている。私生活では妻と別居して一人でアパート暮らし。娘も母親と価値観が合わずに家を飛び出し、おばあちゃん家に居候。
同期の友人(宮藤官九郎)に探りを入れられるも、リストラを伝えることもできないし、邪険にもできず。何処も居心地が悪い。このくたびれ加減の演技が大泉洋は上手い!
息子にとってはいつまでも母は母である。久しぶりに下町の実家を訪ねて、あれこれ打ち明けて甘えたいとおもったのに・・・。
その母(吉永小百合)が髪も染め、オシャレもし、ホームレス生活者支援の地域ボランティア活動で張り切っている。しかも、メンバーの牧師さん(寺尾聡)に思いを寄せている様子。孫娘(永野芽郁)は「恋するおばあちゃんは可愛い!」と一緒になってウキウキしている。
そして、初のデートに出かける母の和服姿の美しいこと。地元ゆえになかなか乗ることのなかった墨田川の船や、音楽会。打ち明けることもないまま、はかなく恋の終わりを迎え、母は一人寂しく酔っ払い、老いへの不安を語る。
そんな母を見て息子は狼狽するが、やがて職場で正義感を貫き通す。そこはカッコいい。
さあ、でもどうするんだろう・・・・。今日、離婚届にハンコを捺した。実家に転がり込むしかないか!
「さあ、母さんの出番だわ!」
花火を見上げながら、息子の生まれた日の事を楽しそうに語る母。いくつになっても親子は変わらない。息子の誕生日は母親記念日なのよね。

山田洋次監督による吉永小百合主演作、「母べえ」「母と暮らせば」に続く「母」シリーズの集大成。もはや母というよりは十分に「おばあちゃん」なのだが。
幼いころからのサユリストの私、日活青春映画などは懐かしく、また親に頼んで見に連れて行ってもらった思い出もいくつかある。しかし、どうも最近の作品は馴染めない。どれを見てもしっくりこない。特に前作の『いのちの停車場』はがっかりした。どの監督さんも小百合さんに忖度し過ぎなのよ。
が、今作品、本当に小百合さんが可愛くて、いとおしくて、何より生き生きしている。
この表情を引き出す事ができたのは監督の手腕なのだろうか。もう一度劇場で観たいと思っていたところへ、今作品の撮影に密着したNHKの「プロフェッショナル」があった。
吉永小百合は日頃から水泳等で鍛えていて、体幹がしっかりしすぎてお年寄りに見えない。それが、冒頭から監督と並んで歩く後姿が妙に年齢相応に感じられて、なおのこと親しみを覚えてしまう。美しすぎる78歳、ちょっと良いのやら悪いのやら。素晴らしいことなのだが。
「もう引退しようかと」と、二人とも口にはするけれど、いやいやまだまだ撮る気満々な様子に、次作を期待しようと。
社会風刺と家族の暖かさを同時に描ける、やはり山田洋次監督は凄い。本作もちょっとしつこい感もあったが、ホームレスの田中泯に東京大空襲を語らせるなど、そこは外せない視点なのだろう。

30になる息子と観た。他にお客さんがない、ゆえに遠慮なく声に出して笑ってね。同じところで吹き出してる、やっぱり親子だわ。でも、母の恋話にはちょっと落ち着かない気分になる。
「ねえ、私がもう少し歳をとって、このお母さんみたいに恋したらどうする?」
息子と娘で反応は違うかもね。「今はわからん」と申しております。意地悪な質問をしたと、深く反省はしている。
サユリストの夫にも見せてあげたかったな。お留守番してくれてました。NHKの番組を見ても、「からだが思うように動かんし、DVDを待って家で見るわ」と、寂しい答え。
全国のサユリストさん、必見ですよ!
(アロママ)

原作:永井愛
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝原雄三
撮影:近森眞史
出演:吉永小百合、大泉洋、寺尾聡、永野芽郁、寺尾聡、田中泯






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