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ニューヨーク 親切なロシア料理店(2019年デンマーク・カナダ・スウェーデン・ドイツ・フランス合作)

2021年01月06日 | 映画の感想・批評
 幼い子供二人とそのお母さんが、ご主人に内緒で家出するシーンから始まる。田舎町のようである。「あれっ?ニューヨークが舞台ではない?」と思ったら、画面が変わって、ニューヨークのロシア料理店。客の男性二人が「まずい」との会話。「あれっ?こういうお店って大抵美味しいのでは?」と、冒頭より、裏切られて始まる。だが、すべては今後の物語の始まりであった。前述の男性二人の内の一人は、出所したばかりで、仕事をどうするか相談していたのである。その相談をしていたロシア料理店でひょんなことから雇われることになり、そのお店に逃げ込んできた女性と子供達(前述)を中心に繰り広げられる人間ドラマである。
 前半は、エピソード毎に「点と点」で物語が進むが、中盤から、その点が繋がり出し、最後には「線」になっていく過程が、紆余曲折がありながらも、収まるべき姿に収まるのが人生を象徴しているように感じた。どこにでも居る人間をごく普通に1本の映画に描く。簡単なようでとても難しいように思う。監督のロネ・シェルフィグは脚本も製作も兼ねていて、彼女の人柄が画面に表れているように感じた。観終わった後も、じんわりと暖かさを感じる。派手な浮き沈みは少ないが、多くの人々の多くの日々はそういったものではないか。「人」を描く時に、その部分を描かなくて何を描くのか。このコロナ禍の中で、映画や芸術に出来ることに幸せを感じ、観る人(=私)はそれを観て幸せを感じる。なんと素晴らしいことか。有難い。有難い。
 出演俳優も皆素晴らしく、冒頭の男性二人が通うカウンセリング教室の講師役のアンドレア・ライズボローと陽気なロシア料理店オーナーのビル・ナイは特に良かった。アンドレア・ライズボローの「特別な一人(あなたにとって私が1番!)になったことがない」と本当の自分を吐露し悩みを打ち明けるシーンは、この映画に相応しい心温まる深みのある場面だった。ビル・ナイも余裕たっぷりの演技で、見たことはなくても、「こんな人いるなあ」と思わせる場面ばかりだった。
 最後に、“ニューヨーク”という高級感溢れるイメージ(つい先日、「ティファニーで朝食を」をBSで観たので)に対して、ホームレスが多いというアメリカが抱える格差社会問題にもきっちりと触れている脚本の完成度の高さにも感服した。
(kenya)

原題:The kindness of strangers
監督・脚本:ロネ・シェルフィグ
撮影:セバスチャン・ブレンコー
出演:ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、タハール・ラヒム、ジェイ・バルチェル、ビル・ナイ他


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