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「さらば愛しきアウトロー」(2018年 アメリカ)

2019年07月31日 | 映画の感想、批評
 

 原題の「老人と銃」はヘミングウェイの名作をもじったのだろう。
 実話に基づくらしいが、主人公の70歳を越えた銀行強盗を往年の美男スター、ロバート・レッドフォードがさっそうと演じる。さすがに寄る年波には勝てずアップになると顔面は皺だらけ。しかし、整った顔だちはそのままで、やっぱりかっこいい。これを最後に引退するという。
 主人公は銃を携行して銀行に入るものの、2年間で93回に及ぶ強盗を実行していながら、一度も発砲したことが無い。銀行に入ると窓口係の前に立って銃を見せ、微笑みながら「あなたを傷つけたくないから、黙ってカバンにお金を詰め込みなさい」と静かに語りかけるのが常套の手口。あとで警察が支店長や行員に事情聴取すると、「紳士的で礼儀正しかった。ハッピーそうだった」と口をそろえて証言するのだ。何という人たらし!
 そのかれがひとり身の資産家の老女と知り合う。「キャリー」の個性派女優シシー・スペイシクがきれいに年をとってシャーリー・マクレーンを思わせる。かの女に対しても紳士的で騎士のように振る舞うのがレッドフォードならでは。そうして、かれを追うダラス警察の刑事との対決。その刑事もまたほだされてしまう。人たらしの面目躍如だ。
 クリント・イーストウッドの「運び屋」と対比するのも一興だろう。イーストウッドが、麻薬の運び屋のアルバイトに手を染めてしまった非力な老人の哀愁を好演したのと対照的に、レッドフォードは「金と力はなかりけり」の色男を演じて見せた。マッチョ志向の共和党右派であるイーストウッドが力なく怯える老人を演じる意外性が「運び屋」の魅力だが、片や民主党リベラルのレッドフォードは男らしさより自分らしさを強調して人生を楽しむ役を嬉々として演じる。因みにレッドフォードが6つ年下だ。
 少年時代から盗みに手を出し、更正施設や刑務所を脱走することを繰り返した主人公を評して、ある人物がいうには、「まっとうに仕事をしていればもっと楽に成功していただろうが、かれは楽に生きるより楽しく生きる道を選んだ」と。
 他人をいっさい傷つけない犯罪美学を貫いて、強盗を楽しむ。それもまた、自由人の真骨頂だと大いに共感し、納得した次第である。(健)

原題:The Old Man & the Gun
監督:デヴィッド・ロウリー
脚本:デヴィッド・ロウリー
原作:デヴィッド・グラン
撮影:ジョー・アンダーソン
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、シシー・スペイシク、トム・ウェイツ、ダニー・グローヴァー

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