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「サンセット・サンライズ」(2025年 日本映画)

2025年02月05日 | 映画の感想・批評
 2025年は昭和100年にあたる。昭和の時代に思い入れのある人にとっては感慨深いものがあるだろう。相変わらず日本列島はあちこちで揺れ続けウィルスも蔓延り、足元はおぼつかない。それでも希望を持って生きていきたい。「泣き笑い移住エンターテインメント」と銘打った本作は、良質なヒューマン・コメディ。新しい年の始まりに思い切り笑える作品である。
 宮城県の南三陸地方の架空の町、宇田濱が舞台である。地方の人口流出や過疎化の問題に、震災後は空き家問題も深刻化している。町役場で空き家問題を担当する百香(井上真央)は、手始めに自宅のはなれを貸し出すことに。4LDK・家賃6万円・家具家電完備の一軒家という神物件に一目惚れした晋作(菅田将暉)が、リモートワークは絶好のチャンスと早速お試し移住を始める。憧れの釣り三昧だと「釣りバカ日誌」的な動機だが、東京の企業に勤める晋作は仕事は出来る様子で、このフラットさが作品全体の大きな魅力になっている。
 コロナの2週間の隔離期間中、晋作はこっそり釣りに出掛け地元民とも交流をもつ。噂はあっという間に拡がり、居酒屋の店主ケン(竹原ピストル)を中心とする「モモちゃんの幸せを祈る会」のメンバー達に警戒される。どんな奴だどこで知り合った、もう同棲じゃないかとすっかり噂が大炎上。そんな中、諸々のディスタンスをぎゅっと縮めていくのが南三陸の食の数々。ケンが次々と出してくる料理を晋作が舌鼓を打ち食べるシーンは本当に美味しそうだ。なかでもメカジキのハモニカ焼きが目をひく。等間隔に並んだ筋の形がハモニカに似て、両手で掴んで食べる姿がハモニカを吹いている様に見えることから命名されたようだが食欲をそそる。「もてなしハラスメントだ」との場面は爆笑ポイント。会話が南三陸の方言で進んでいくのもいい。こっち来いの「こ」、食ってみろの「け」など、わずか一言で日常会話が交されるのが楽しい。
 晋作の会社が空き家に目をつけ、住民を巻き込んで空き家活用プロジェクトに乗り出す。東京からのチームと東北チームが鍋を囲んで語り合う。この東北独自の芋煮会は重要なシーンだ。晋作の言葉が胸に迫る。「ただこの町に生まれなかっただけなのに何でこんなに切ないんですか。外の人間はどうしていいか何が正解か分からなくて。」それに対してケンが「ただ見でればいい。たまに見に来ればいいんでない」と。故郷の宮城を離れて久しい脚本家宮藤官九郎の、優しい視点が滲んでいるシーンだ。
 借りている家の秘密を知った晋作は、自分の好きを諦めない生き方を選択し、周囲の人々の人生をも変えていく。地方の問題を考える時には、百香のような地元を良く知る人間と、晋作のようなフラットな考えのよそ者のどちらも必要なのだということがこの作品を通じて良くわかる。自分が居る狭い行動範囲だけではなく、未知の場所へと続く心の扉を開くことが人生を豊かにしていくのだと、この作品は語っている。
 俳優陣が各々に素晴らしい。劇中に登場する素敵な水彩画は菅田将暉作!(春雷)

監督:岸善幸
脚本:宮藤官九郎
原作:楡周平
撮影:今村圭佑
出演:菅田将暉、井上真央、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、藤間爽子、茅島みずき、白川和子、ビートきよし、半海一晃、宮崎吐夢、少路勇介、松尾貴史、三宅健、池脇千鶴、小日向文世、中村雅俊


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