17世紀オランダ絵画の巨匠レンブラントの作品を巡る四つのエピソードをパラレル編集で描いたドキュメンタリー。貴族の家系に生まれた美術商のヤン・シックスは、ロンドンの競売会社クリスティーズに出品された「若い紳士の肖像」を安価で落札する。レンブラントの肖像画のモデルになった先祖をもつヤンは、独特の嗅覚でこの作品がレンブラントの真作だと睨んだ。美術館の学芸員や専門家に鑑定を依頼するがなかなか真正の証明は得られない。最終的にレンブラント研究の第一人者のお墨付きをもらい、44年ぶりのレンブラントの新作発見となるのだが・・・ヤンは思わぬトラブルに巻き込まれてしまう・・・監督のウケ・ホ―ヘンダイクは純粋に真正を明らかにしようとする学究の徒の姿ではなく、欲得まみれの真贋騒動をコミカルに活写している。
ロスチャイルド家から1億6000万ユーロ(約200億円)で売りに出されたレンブラントの肖像画を巡るルーヴル美術館とアムステルダム国立美術館の争奪戦。ルーヴル美術館で自分のコレクションを得意げに披露するアメリカの大富豪・・・どのエピソードもお金がらみで、芸術の真価よりも経済的価値に重点を置いている感があるが、スコットランドのバックル―公爵の場合は少し異なる。古城でレンブラントの「読書する老婦人」と暮らす公爵は、まるで絵の中の老婦人が生きているかのように寄り添い、老婦人の側で一緒に読書をする。レンブラントへの想いはさまざまだ。この映画の原題は「私のレンブラント」。レンブラントに向き合う人々のそれぞれの心模様が伝わってくる。
この映画はドキュメンタリーなのにフィクションのような印象を受ける。誰かが筋書きを書いたかのようにドラマチックに展開していく。映画は肖像画のディテール・ショット(大接写)で始まるが、同じようにカメラは登場人物の内面に肉薄している。レンブラントの購入を巡る疑惑でTVの真相究明番組に出演したヤンが、他の出演者から質問攻めにあうシーンがある。トラブルの発生を予期していたかのようにカメラは淡々とヤンをとらえている。被写体との距離の近さがドラマを生む。被写体がドラマを作ってくれるのだ。カメラは傍らで辛抱強く待てばいい。ドキュメンタリーの手法とはそういうものなのだろう。
それにしても美術品の真贋とは何だろう。レンブラントの第一人者が「若い紳士の肖像」を真正だと判断した根拠の一つが襟の描き方だった。別の専門家は襟の描き方がおかしいと言い、第一人者は襟の描き方がまさにレンブラントだと主張した。何とも曖昧模糊とした判断基準だなと思う。レンブラントは工房で作品を制作しており、延べ50人以上いた弟子たちは師匠の画風を忠実に再現しようと日夜刻苦勉励していた。これら周辺画家の作品がレンブラントと酷似しているのは致し方ない。「伝レンブラント」(レンブラントが描いたと伝わっているが、断言はできないという程の意)がたくさんあると言われている所以である。
以前、筆者はヨーロッパの古典絵画の技法を学んだ画家と真贋問題について話したことがあった。その画家はもし制作時期も画材も一致していて技術的にもレンブラントの水準に達していれば、レンブラント作とみなしていいのではないかと語っていた。実作者らしい見解だなと思う。この場合「レンブラント」とは個人名ではなく、レンブラントの技術を有する者を指すことになる。もちろん専門家は大反対するだろうが、真贋問題で泥仕合をするぐらいならすっきりしてよいかもしれない。もっとも専門家にはレンブラントの描写力を見極められる確かな審美眼が必要となるだろうが。(KOICHI)
原題:My Rembrandt
監督:ウケ・ホーヘンダイク
脚本:ウケ・ホーヘンダイク
撮影:サンダー・スヌープ グレゴール・メールマン
出演:ヤン・シックス エリック・ド・ロスチャイルド エルンスト・ファン・デ・ヴェテリンク
ロスチャイルド家から1億6000万ユーロ(約200億円)で売りに出されたレンブラントの肖像画を巡るルーヴル美術館とアムステルダム国立美術館の争奪戦。ルーヴル美術館で自分のコレクションを得意げに披露するアメリカの大富豪・・・どのエピソードもお金がらみで、芸術の真価よりも経済的価値に重点を置いている感があるが、スコットランドのバックル―公爵の場合は少し異なる。古城でレンブラントの「読書する老婦人」と暮らす公爵は、まるで絵の中の老婦人が生きているかのように寄り添い、老婦人の側で一緒に読書をする。レンブラントへの想いはさまざまだ。この映画の原題は「私のレンブラント」。レンブラントに向き合う人々のそれぞれの心模様が伝わってくる。
この映画はドキュメンタリーなのにフィクションのような印象を受ける。誰かが筋書きを書いたかのようにドラマチックに展開していく。映画は肖像画のディテール・ショット(大接写)で始まるが、同じようにカメラは登場人物の内面に肉薄している。レンブラントの購入を巡る疑惑でTVの真相究明番組に出演したヤンが、他の出演者から質問攻めにあうシーンがある。トラブルの発生を予期していたかのようにカメラは淡々とヤンをとらえている。被写体との距離の近さがドラマを生む。被写体がドラマを作ってくれるのだ。カメラは傍らで辛抱強く待てばいい。ドキュメンタリーの手法とはそういうものなのだろう。
それにしても美術品の真贋とは何だろう。レンブラントの第一人者が「若い紳士の肖像」を真正だと判断した根拠の一つが襟の描き方だった。別の専門家は襟の描き方がおかしいと言い、第一人者は襟の描き方がまさにレンブラントだと主張した。何とも曖昧模糊とした判断基準だなと思う。レンブラントは工房で作品を制作しており、延べ50人以上いた弟子たちは師匠の画風を忠実に再現しようと日夜刻苦勉励していた。これら周辺画家の作品がレンブラントと酷似しているのは致し方ない。「伝レンブラント」(レンブラントが描いたと伝わっているが、断言はできないという程の意)がたくさんあると言われている所以である。
以前、筆者はヨーロッパの古典絵画の技法を学んだ画家と真贋問題について話したことがあった。その画家はもし制作時期も画材も一致していて技術的にもレンブラントの水準に達していれば、レンブラント作とみなしていいのではないかと語っていた。実作者らしい見解だなと思う。この場合「レンブラント」とは個人名ではなく、レンブラントの技術を有する者を指すことになる。もちろん専門家は大反対するだろうが、真贋問題で泥仕合をするぐらいならすっきりしてよいかもしれない。もっとも専門家にはレンブラントの描写力を見極められる確かな審美眼が必要となるだろうが。(KOICHI)
原題:My Rembrandt
監督:ウケ・ホーヘンダイク
脚本:ウケ・ホーヘンダイク
撮影:サンダー・スヌープ グレゴール・メールマン
出演:ヤン・シックス エリック・ド・ロスチャイルド エルンスト・ファン・デ・ヴェテリンク
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