ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医療不審死、究明機関設置へ(読売新聞)

2006年08月24日 | 医療全般

コメント(私見)

我が国の妊産婦死亡率の推移を見ると、1950年は10万分娩に対して176でしたが、2000年には6.3となりました。また、周産期死亡率(早期新生児死亡率と妊娠28週以後の死産率との合計)の推移を見ても、1950年は出生1,000に対して46.6でしたが、2000年には3.8となりました。

これらのデータから、この五十年間で分娩の安全性が著しく向上したことがわかります。また、現在の我が国の周産期医療は世界でもトップレベルの水準に達していると考えられます。

しかし、今でも実際には、1,000人に4人の赤ちゃんが、また1万人に1人の母親がお産で亡くなっているわけですから、現在の医療水準であっても、必ずしも、一般に信じられているように『お産は母児ともに安全』とは限りません。(例えば、羊水塞栓症や癒着胎盤などの場合、非常にまれな発症率ながら、いったん発症すれば、発症直後に母体死亡となる可能性も非常に高いです。)

従って、妊婦さんとその御家族に対して、分娩時に起こりうる様々な産科疾患のリスクを事前に説明して、きちんと理解してもらっておくことは非常に重要ですが、実際に分娩時母体死亡が発生した場合には、その原因に関してご遺族に納得していただくのが非常に難しい場合も多く、(福島県立大野病院事件のように)警察が刑事事件として医療に介入してくる事例も増えてきました。

医療関連死の原因をめぐる医療機関側と患者側との紛争を回避するためにも、「第三者機関が医療関連死の原因を究明する制度」を早急に整備してほしいと多くの人が考えています。

参考:

母体死亡となった根本的な原因は?(私見)

読売新聞:日本の制度不備を痛感 大野病院事故 医師逮捕に驚きの声

****** 読売新聞、2006年8月23日

医療不審死、究明機関設置へ

厚労省08年度にも…早期解決後押し

 医療行為中の不審死(医療関連死)について、第三者機関が原因を究明する仕組みを構築する作業が、来年度から本格化することになった。

 厚生労働省が、外部の専門家による検討会を来年度に設置することを決めたもので、早ければ2008年度にも新制度がスタートする。厚労省では昨年から、5年計画で第三者機関による死因究明のモデル事業を進めており、その実績をみて検討を始めることにしていたが、患者、医療機関双方からの要望の高まりに応え、検討作業を前倒しすることにした。

 厚労省では、医療関連死の数を年間1万件前後に上るとみている。しかし、公的に死因を究明する制度はなく、患者側が病院の説明に納得できない場合は、民事訴訟を起こすか、捜査機関が立件するのを待つしかないのが現状だ。

 警察庁によると、05年に全国の警察が送検した医療事故は91件で、1997年の3件に比べ急増している。一方、最高裁によると、医療訴訟の審理は迅速化が進んでいるものの、05年に判決が確定したり和解したりした訴訟の平均審理期間は26・8か月と、訴訟を起こす負担はなお大きい。

 このため厚労省は昨年から5年間の予定で、死因究明のモデル事業を東京など6都府県で開始。第三者の医師が解剖と診療録(カルテ)の分析、医療機関に対する聞き取りなどの調査を行ったうえで、法律家も交えた評価委員会が報告書をまとめ、医療機関と遺族の双方に渡している。検討会でも、このシステムを参考に議論が進む見通しだ。

 このほか調査の実施主体や、費用を公費でもつべきか医療機関の負担とすべきかなど、制度設計の詳細についても検討する。実施主体については、〈1〉厚労省〈2〉新たな公益法人〈3〉学会や医療関係の団体〈4〉当事者以外の医療機関――など様々な可能性を議論する。

 医療機関にとっても、患者側との紛争の回避や早期解決につながるメリットがあり、刑事事件となるケースが減るのではないかという期待もある。

 今年3月には、福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた妊婦が死亡した04年の事故をめぐり、産婦人科医が業務上過失致死罪で起訴されたが、「結果が悪ければ医師個人の刑事責任が問われるというのでは、現場の委縮につながる」との反発が医療界から噴出。医療の専門家がかかわる死因究明制度の実現を求める声が医師らの間で強まった。

 医療事故に詳しい鈴木利広弁護士は、「調査に加わる医師に本来の仕事と同様の真剣さがなければ、第三者機関を設けても成功しない。また、中立性を保つため、モデル事業と同じように、調査結果の評価には、医療関係者以外に法律家なども加わることが絶対に必要だ」と話している。

(2006年8月23日  読売新聞)