コメント(私見):
数年前より、県外の大学から医師を派遣されていた産婦人科の多くが、地元大学への医師の引き揚げにより分娩の取り扱い休止を余儀なくされてきました。
最近になって、ついに、長野県の医師派遣の総元締めである信州大から医師を派遣されてきた基幹病院の産婦人科までもが、次々に分娩取り扱い休止に追い込まれる事態となってきました。
しかし、これはまだまだほんの事の始まりにしか過ぎないと多くの人が考えています。分娩を取り扱う施設の数は今後もどんどん減り続けるでしょうから、地域の産科施設としてこの世の中に生き残っていく限りは、施設の分娩件数が増え続けることは確実で、おそらく、将来的には施設の年間分娩件数が二千件とか三千件とかになっていくことも十分に予想されます。
いくら住民の署名を集めたり、国や県や大学などに請願書を提出したりしても、ほとんど何の効果もないと思われます。
施設の研修・指導体制を整備して、できるだけ大勢の産科医・助産師・新生児科医・麻酔科医などを集めて、将来にわたって持続可能な地域に密着した周産期医療チームを作り上げていくことを考えない限りは、将来的に地域の産科施設としてこの世の中に生き残っていくことがだんだん難しくなっていくと思われます。
****** 朝日新聞、2007年9月7日
「出産の場」さらに狭く
昭和伊南病院で産科医引き揚げへ
駒ヶ根市議会 対策求める請願採択
昭和伊南総合病院(駒ケ根市)に2人いる産科医が来年3月限りで県内の他の病院に移ることになり、これで昭和伊南での出産の取り扱いが来春以降、休止に追い込まれる事態になった。地元の駒ケ根市の母親たちは4日、安心して妊娠・出産できる具体策を求める請願書を市議会に提出し、採択された。とはいえ、即効性のある妙案は「里帰り出産」を断るぐらいしか見当たらないという。「出産の場」があちこちで狭められていく。 (田中洋一)
上伊那地区で産科医のいる公立病院は現在、ともに一部事務組合が運営する伊那市の伊那中央(産科医4人)と昭和伊南(同2人)だけ。昭和伊南の千葉茂俊院長によると今年4月、医師を出している信州大から産科医の引き揚げ方針を通告された。理由について、信大医学部の金井誠講師(産科)は取材に「医師が急減する中で県内全体を見たとき、最悪の事態を避けるためのやむを得ない措置」と説明する。
この少し前の3月下旬、県の「産科・小児科医療対策検討会」は、深刻化する産科・小児科医不足の対策として緊急避難的に医師の集約化・重点化を進めることを提言。上伊那地区では、伊那中央を「強化」する方針が示された。
上伊那地区でのお産は年間1600件前後。うち昭和伊南が500件前後をになってきた。来春以降、この500件は「強化病院」の伊那中央に回らざるを得ない。伊那中央の薮田清和事務部長は「現状の産科医4人でもすでに勤務は過酷」と話し、せめて1人の増員を求めている。昭和伊南は、出産できなくても相談には応じられる窓口や、院内助産院の開設を検討している。両病院の苦肉の策が「里帰り出産」のお断り。上伊那地区で2割ある里帰り出産の受け入れを断る一方、伊那中央での産科医増員のほか、分娩室や入院ベッド増で受け入れ拡大を目指す。
駒ケ根市の母親たちは、提出した請願書で「年100件のお産難民が生まれる恐れがある」と指摘。代表者の主婦、須田秀枝さん(46)は「受け入れ態勢が整わないうちに産科医を引き揚げる見切り発車は、何としても避けてほしい」とクギを刺す。全会一致で採択した市議会は、意見書を知事に提出する。
医師不足に拍車をかけたのは、3年前に導入された国の臨床研修医制度。医学生が高度・専門医療を学べる大都市の有名病院を研修先や就職先に選ぶ傾向が強まった。「そのあおりで県内の医師不足が急に深刻になった」と、昭和伊南の福沢利彦事務長は話す。
各地域で顕在化する産科医や小児科医の不足。県市長会は8月30日、産科医の集約では住民に不安を与えない配慮と対策を講じるための財政支援を、県と国に求める特別決議を採択している。
「奈良のような事例報告ない」 産科医不足問題で知事
奈良県で先月、妊娠中の女性が救急搬送中に受け入れ先の病院が見つからず死産した問題で、村井仁知事は6日の会見で、県内では同様の事例報告はないとし、「患者をたらい回しするようなことが起きないよう対応している」と話した。
県健康づくり支援課によると、県は00年、県立こども病院を高度な産科医療を提供する「総合周産期母子医療センター」として機能を整備するとともに、各地域の病院と連携させた「周産期医療システム」を構築。以来、他県への妊婦の搬送事例はなくなったという。
村井知事は一方、産科医不足の問題は「トンネルの先に明かりが見えていない」として、今後も重点的に取り組むことを改めて強調。県立須坂病院で来年度以降の分娩取り扱いを休止せざるをえなくなった問題について、「薄氷を踏むような状況に私たちはいることを端的に示した。本当に大変なことになってしまった」との認識を示した。
ただ県の研究資金貸与事業により、県外から産科医を含む4人の医師を確保できたと述べた。
(朝日新聞、2007年9月7日)