ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

未受診で出産、高いリスク=子の死亡18倍、未熟児4倍-日本医科大分析 (時事通信社)

2007年09月18日 | 地域周産期医療

妊婦検診を受けずに病院に救急搬送されるなどした出産例の場合は、周産期死亡率は全国平均の17.6倍、2500グラム以下の低出生体重児は全国平均の約4倍の頻度だったという調査結果の記事です。

分娩施設が減少し続けていて、分娩場所の確保がだんだん難しくなっています。切実な問題として、妊娠の初期に産婦人科を受診して、分娩する施設を確保しておく必要があります。自分が希望する分娩施設でお産をしたいと思っても、初診時に、「この月はすでに分娩の予約を締め切りました。」と言われてしまったら、他の病院を探すしかありません。

また、急変時に救急車を呼んでも、妊婦検診を受けてない場合は、妊娠経過などの状況が全くわからないので、場合によっては、受け入れてくれる医療機関がなかなか決まらない可能性も高くなってしまうかもしれません。

きちんと妊婦検診を受けることの重要性を啓蒙していく必要があります。

****** 時事通信社、2007年9月15日 

未受診で出産、高いリスク=子の死亡18倍、未熟児4倍-日本医科大分析

 妊婦検診を受けずに出産した場合、子の死亡率が通常の約18倍に上るなど非常にリスクが高いことが15日までに、日本医科大多摩永山病院の分析で分かった。

 救急搬送先が決まらず死産した奈良県橿原市の妊婦も、検診を受けておらず、この問題が注目されていた。中井章人教授は「検診の重要性を再認識させる結果だ。母子保健に関してさらなる啓発が必要」としている。

 同教授らは、妊婦検診を受けずに同病院に救急搬送されるなどした出産例を詳しく調べた。1997年1月から2006年1月までの9年間に34例あり、最年少15歳、最年長44歳。24歳以下の低年齢層が多く、24人が未入籍だった。

 このうち、死産と生後間もない死亡が各2例で、子の死亡は4人(12%)。妊娠22週から生後1週までの「周産期死亡率」は、全国平均の17.6倍だった。

 2500グラム以下の低出生体重児は12例(35%)で、約4倍の頻度だった。10例(30%)が、新生児集中治療室(NICU)への入院を要した。 

(時事通信社、2007年9月15日)

****** 読売新聞、2007年9月18日

急増する「飛び込み出産」

妊婦健診受けず、受け入れ拒否の一因に

 陣痛や腹痛を覚えて初めて救急車を呼んで医療機関に駆け込み、いわゆる「飛び込み」で出産する事例が増えている。

 その多くが、妊婦健診を一度も受けたことのない「未受診妊婦」という。各地で救急搬送中の未受診妊婦が受け入れを拒否されるケースが相次いでおり、専門家は「赤ちゃんと自分の健康のためにも、妊婦健診を受けて」と呼びかけている。

 医師不足が影響

 「今年になってすさまじい増え方です」。横浜市大付属病院産婦人科教授の平原史樹医師は、「飛び込み出産」がこのところ急増していると指摘する。

 神奈川県産科婦人科医会がこのほどまとめた調査によると、同県内8か所の基幹病院で扱った飛び込み出産は、2003年に20件だったのが04年28件、05年39件、06年44件と年々増加。今年は4月までで既に30件を超えており、年末には100件を超えると推計している。平原医師によると、飛び込み出産のほとんどが未受診妊婦だという。「産科病院や分娩(ぶんべん)施設が減り、医師不足のため健診を受ける機会も減っているため」と分析する。

 未受診妊婦は救急搬送されても妊婦・胎児の健康状態が把握しにくいため、受け入れを拒否されることが多い。8月末に奈良県で妊娠中の女性が病院に受け入れを断られ死産した事例では、かかりつけ医がいなかったことがわかっている。その後、北海道、宮城、千葉などでもかかりつけ医のいない妊婦の受け入れ拒否のケースが明らかになっている。

 9月7日、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の幹部が厚生労働省を訪れ、産科救急医療体制の整備や産婦人科医師不足への対策を舛添要一厚生労働大臣に陳情した。陳情書では未受診妊婦についても言及し、救急医療での対応を検討する必要がある、と指摘している。

 同学会の産婦人科医療提供体制検討委員会の委員長で北里大医学部教授の海野信也医師は「未受診妊婦の『飛び込み出産』は全国的に増えている。産科医療の現場では非常に困惑している」と指摘する。

 日本助産師会専務理事の加藤尚美さんによると、飛び込み出産につながる未受診妊婦は以前は出産を経験したことのある女性に多かったが、最近は〈1〉若年妊婦〈2〉外国人女性〈3〉経済困窮家庭――などに多い傾向があるという。「自分自身の健康へ関心が低いのも特徴」と指摘する。

 「命にかかわる」

 加藤さんは「健診を受けないことはお母さんの健康を損い、赤ちゃんの命にかかわる恐れがある。健診は必ず受けてほしい」と話す。そして「未受診妊婦を減らすためには、無料健診をさらに拡充するほか、若いころからの健康教育を充実させる必要があるでしょう」と話している。

 妊婦健診 流産や早産などを予防するため、妊娠週数に応じて問診や内診、胎児の超音波検査などを行う。出産までに13~15回受け、費用は自己負担で1回約5000円、血液検査や超音波検査を行うと1万~1万5000円かかる場合もある。国は原則2回分の健診費用を負担しているが、独自に負担軽減に取り組む自治体もある。

(読売新聞、2007年9月18日)