脈診とは動脈の拍動を触知して診断に役立てる方法である。
現代の日本漢方の脈診では、橈骨動脈拍動部を所見としてみる。患者の橈骨茎状突起の内側の拍動部位に中指(この部が関上)を、それに接して、示指(この部が寸口)、薬指(この部が尺中)を置く。一般的には、寸、関、尺と呼ぶことが多い。
以下、「学生のための漢方医学テキスト」(日本東洋医学会学術教育委員会)より抜粋
●代表的な脈の所見
健康者の脈を平脈という。
①脈の深さ: 浮←→沈
・浮脈:皮下に血管が浮いているようで、指を軽く当てるだけで、すぐにはっきりと触れる脈 。
・沈脈:指を軽く当てただけでは拍動を触れず、強く圧迫してはじめて触れる脈。
②脈の強さ: 実←→虚
・実脈:力のある脈。按圧している指を力強く押し返してくる脈であり、強く按圧しても消失しない。
・虚脈:力のない脈。按圧している指を押し返す力の弱い脈であり、強く按圧すると消失する。弱脈ともいう。
③脈の回数: 数(さく)←→遅
・数脈(さくみゃく):速い脈。医師の1呼吸間に患者の脈が6回以上の脈。およそ1分間に90回以上。
・遅脈:遅い脈。医師の1呼吸間に患者の脈が4回以下の脈で、およそ1分間に60回以下となる。
④脈の幅: 大←→小
・大脈:大きな幅の広い脈。さらにあふれるばかりの大きな脈を洪脈という。
・小脈:幅の狭い脈。指頭で触れる血管の太さが細く感じるものであり、細脈ともいう。。
⑤脈の緊張: 緊←→緩
・緊脈:張りがある脈。ピーンと張った弓の弦のように、脈管の性状が緊張しているもの。
・緩脈:ゆったりした脈。脈の緊張がそれほど強くなく、穏やかなもの。
⑥脈のなめらかさ: 滑←→渋
・滑脈:なめらかな脈。脈派の伝播が玉を転がすようにスムーズなもの。
・渋脈:渋滞している脈。脈派の伝播が遅く、ドロドロと流れる脈。
【以上、「学生のための漢方医学テキスト」(日本東洋医学会学術教育委員会)より抜粋】
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実際に脈診に精通することは大変難しく、同一患者の脈についても医師により結論が違うこともよくあって、客観性に乏しく、デ-タとしても残し難い。古典には多くの脈状が出てくる。例えば、日本では二十四脈、中国では二十八脈など、多数の分類が行われてきた。しかし、これらの違いを客観的に示すことは難しく、また各々の意味付けも曖昧となるので、過去においても度々その整理と簡略化の試みが行われてきた。 循環器系についての診断機器の発達している今日の日本で、果たしてどれ程の意味をもつかは不明である。