ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

女性のための漢方セミナー 気になる不調、これって更年期?

2008年02月03日 | 東洋医学

わが国には約250年ほど前から「血の道症」(ちのみちしょう)という言葉がありました。血の道症とは、漢方で女性だけに用いられる言葉で、頭痛、めまい、精神不安などの症状があらわれます。血の道症の症状は更年期障害の症状とほとんど同じですが、さらに範囲が広く、妊娠、出産、流産、月経など、女性の生理現象一般に伴って発症するものをいいます。従って、年齢的にも広範囲で必ずしも更年期に起こるとは限りません。

更年期障害・血の道症に対して、漢方治療が奏効する場合も少なくありません。患者さん一人一人の症状、体質や状態「証」(しょう)、腹診所見などに応じて、例えば、「加味逍遥散」(かみしょうようさん)、「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくさん)、「桂枝茯苓丸」(けいしぶくりょうがん)、「桃核承気湯」(とうかくじょうきとう)、「女神散」(にょしんさん)、「柴胡加竜骨牡蛎湯」(さいこかりゅうこつぼれいとう)、「抑肝散」(よくかんさん)、「半夏厚朴湯」(はんげこうぼくとう)など、患者さんの症状や「証」に合った漢方薬が処方されます。

漢方医学について

漢方の腹診法

漢方の脈診法

****** 毎日新聞、2008年2月2日

特集:女性のための漢方セミナー 

気になる体の不調、これって更年期?

漢方薬を味方に体力・気力回復

 「女性のための漢方セミナー」(毎日新聞社主催、日本医師会、大阪府医師会後援、株式会社ツムラ協賛)が昨年12月、大阪市北区中之島の同市中央公会堂で開かれました。7回目となる今回のテーマは「気になる体の不調、これって更年期?」。更年期の症状は多様で、個人差が大きく、「原因不明の病気では」と悩む女性も多いようです。パネルディスカッションでは、漢方独自の舌を診る診断方法などを交え、更年期の症状緩和に役立つ漢方薬の具体的な利用法などが紹介されました。(敬称略)

(中略)

基調講演

人生リニューアルの時期--岡留美子さん

症状さまざま、心も体もケア

 更年期とは45歳ごろから55歳ごろまでの、閉経の前後10年を言います。なお、日本女性の平均閉経年齢は50歳ぐらいです。この時期、卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンが急激に減少します。そのため、ホルモンを調節する脳の視床下部が混乱し、体温や発汗、脈拍などをつかさどる自律神経も乱れてしまうのです。

 更年期の症状で一番多いのは「のぼせ」と「ほてり」。「ホットフラッシュ」ともいい、体が急に熱くなったり、突然冷えたりします。動悸(どうき)や冷え症などの症状や、頭痛、めまい、耳鳴り、やる気が出ない、眠りにくいなどの神経性の症状を訴える人もいます。さらに体がかゆい、しびれるなどの悩みや、肌の乾燥、唾液(だえき)量の減少、目が乾きやすいなどの症状も目立ちます。

 さらに、肩こりや腰痛が出たり、関節が痛む人もいます。食欲がない、便秘や下痢をしやすいなど消化器系の異常や、頻尿や残尿感、陰部のかゆみなど泌尿器や生殖器系の症状も出ることがあります。

 更年期には、こうした全身にわたるたくさんの症状が出ますから大変です。もちろん、人によって程度の差があり、ほとんど困らない方から更年期障害になって苦しむ方までいろいろおいでです。

 では、こうした更年期の女性に、漢方薬がどのように味方になるのか、お話ししたいと思います。漢方医学は心と体を分けずに全体として考えます。ですから体も心も揺れ動き、症状が全身に出る更年期にはぴったりなのです。

 漢方では、その人の体質や状態を見て「証(しょう)」を判断し、証に合った薬を使います。症状が同じでも証が違えば別の漢方薬を処方します。逆に一つの漢方薬を違う症状に使うこともあります。

 また、生命活動のもととして「気・血・水」の三つの要素があると考えます。気は体全体を動かすエネルギー、血は血液自体やその流れ、水はリンパ液や尿など血液以外の水分を指します。一つでもバランスが崩れると不調が出ると考えます。更年期はまさに「気・血・水」が乱れる時期なのです。

 国が保険で認めている更年期障害のための代表的な漢方薬には次のようなものがあります=表(更年期障害のための漢方薬)参照。他にもいろいろあり、私たち医師は患者さん一人一人に合う漢方薬を選びます。

 次に更年期症状の方にどのように漢方薬を処方するか、何人かのケースを合わせて具体的に説明しましょう。Aさんは40代後半の主婦です。動悸とめまい、冷えとのぼせの症状があるうえ、不安感が強く夜もなかなか眠れない状態でした。ご主人の病気や子どもの将来、老いたご両親の問題など、多くの心配ごとをお持ちでした。

 まず、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)を処方しました。これはAさんのように、気遣いで身も心も疲れ果てている方に役立ちます。これを飲んだAさんは、元気が出て動悸や冷えがよくなり、夜も眠れるようになりました。

 お子さんの進路の問題で胃痛や胃液があがる感じがする時期には、四逆散(しぎゃくさん)をお出ししました。これを飲むと「胃がすっきりするだけでなく、心の中の葛藤(かっとう)が消えていった」そうです。

 柴胡桂枝乾姜湯で冷え、のぼせは改善したものの、真冬だと冷えて眠りにくい日もあります。その時期には、サフランも一緒に処方しました。料理にも使うサフランは高価なものですが、医師がお薬として処方するものなら保険がききます。精神安定作用もあるので夜もよく眠れ、血の流れが滞っているのを治します。さらにこれを飲んでいるとお肌もとてもきれいになるのです。

 ご両親が病気のときは、介護疲れと心労から、のどのつまった感じがして、めまいが出ました。この時は気の巡りをよくする半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を活用しました。ほかにも時々の症状に応じて漢方薬を使い分けてきました。

 Aさんは最近、いきいきとした表情で診察においでになります。薬に頼るだけでなく、健康維持のためにウオーキングやプールで泳ぐようにしているそうです。診察の際のやりとりを参考にしたら、家族ともうまくコミュニケーションが取れるようになり、同窓会を企画するなど外の世界でも活躍されているようです。更年期は英語でメノポーズといい、閉経という意味です。日本語ではメノポーズに「更年期」という言葉をあてたのですが、これは「人生を新しくするとき」という意味です。すてきな呼び方だと思いませんか。生まれ、成長し、子孫を残す時期を経て、新しく生まれ変わるのです。

 変化の時期は、安定していたものを崩すわけですから、一時的には揺れ動いてしんどいかもしれません。でも、それを経て初めて新たな安定を得ることができます。更年期は、老年期という穏やかな安定期にはいるための準備期間です。これから更年期を迎える方は、これから人生がリニューアルできることを覚えておいてほしいと思います。今、更年期のさなかにある方は、人生をどうリニューアルしていくか考えていきましょう。

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更年期障害のための漢方薬

柴胡桂枝乾姜湯 (さいこけいしかんきょうとう)
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん)
加味逍遥散 (かみしょうようさん)
桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん)
温清飲 (うんせいいん)
五積散 (ごしゃくさん)
通導散 (つうどうさん)
温経湯 (うんけいとう)
三黄瀉心湯 (さんおうしゃしんとう)

(以下略)

(毎日新聞、2008年2月2日)