飯田エフエムで放送した内容:
① 常位胎盤早期剥離とはどういう状態のことを指すのでしょうか?
常位胎盤早期剥離とは、妊娠20週以降で、まだ胎児が子宮の中にいる間に、正常な位置にある胎盤が子宮の壁から剥がれることをいいます。
② 母体と胎児にはどのような影響があるのでしょうか?
胎児は胎盤を介して母体から酸素や栄養を受けているため、妊娠中に胎盤が剥がれてしまうと酸素が不足し、脳性麻痺などの障害が残ることや、子宮内で胎児が死亡することがあります。また、母体がDICなどの重篤な状態になることもあります。DICとは出血傾向、多臓器不全のみられる非常に重篤な状態で、DIC発症時にはできるだけ早急に診断し治療を開始する必要があります。
③ おもな症状は?
常位胎盤早期剥離の典型的な自覚症状は、動けなくなるぐらいに激烈な下腹痛で、お腹は板のように硬くなります。 性器出血がみられることもあります。 胎動を感じにくくなります。症状が典型的でない場合も多いです。
④ 主な原因、なりやすい月齢などさらに詳しくお話しください。
妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離の既往、切迫早産、交通事故などの腹部の外傷、喫煙などの危険因子に該当する場合、常位胎盤早期剥離を発症しやすくなります。これらの危険因子に該当しない場合でも常位胎盤早期剥離を突然発症することもあります。常位胎盤早期剥離の頻度は全妊婦に対し0.5~1% で、その大部分は妊娠32週以降に発症すると言われています。
⑤ちなみに原因の一つ妊娠高血圧症候群とは何でしょうか?症状は?
妊娠高血圧症候群の定義は、「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧が見られる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないもの」とされています。以前は妊娠中毒症と呼ばれましたが、最近、名称が妊娠高血圧症候群と改められました。妊娠高血圧症候群の頻度は全妊婦の約5%で、母体や胎児のさまざまな合併症の原因となりますので、妊婦健診では毎回必ず血圧測定や尿蛋白の検査が行われます。
⑥常位胎盤早期剥離と疑われた場合、どのような検査を行うのでしょうか?
臨床症状から常位胎盤早期剥離を疑った場合、腹部超音波検査、胎児心拍モニター、血液検査などを行います。超音波検査で胎盤と子宮の壁との間に血の塊(すなわち胎盤後血腫)が認められた場合の診断は確実ですが、実際には超音波検査ではっきりした所見が認められないことも多いです。
⑦それらの検査で常位胎盤早期剥離と診断された場合、どのような対処を行いますか?
常位胎盤早期剥離と診断された場合は、できるだけ早急に分娩を終了させる必要があり、胎児の生存が確認された場合、経腟分娩の直前でなければ緊急帝王切開を行います。胎児が死亡した場合でも、時間の経過により母体のDICが進行するので、すみやかな経腟分娩または帝王切開を行います。それと同時にDICに対する予防あるいは治療を行います。
⑧ 次の妊娠への影響はありますか?
常位胎盤早期剥離を発症した場合、次の妊娠でまた常位胎盤早期剥離を発症する頻度は5~10%と極めて高率となり、発症率は約10倍に増加しますので、厳重な管理が必要となります。
⑨常位胎盤早期剥離を起こさないようにするために気を付けることはありますか?
常位胎盤早期剥離は母児の命にかかわる非常にこわい病気ですが、いつ誰におこるのかの予測は非常に困難です。重症の妊娠高血圧症候群がある場合におこりやすいと言われていますが、実際には妊娠高血圧症候群と関係なく発症することも多いです。適切な予防法もありません。常位胎盤早期剥離がおこった場合に発症後できるだけ早く診断して緊急帝王切開などの母児の緊急救命処置を行うことが、我々にできる唯一かつ最善の道です。常位胎盤早期剥離はそれほど珍しい病気ではなく、飯田市立病院でも昨年1年間だけで6例経験しました。気になる症状があれば、自宅で様子を見ることなく病院にすぐに連絡していただきたいと思います。