月の岩戸

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プレアデス

2013-05-05 07:10:12 | 詩集・瑠璃の籠

ふすまをいくつも開けながら 和室を巡り
わたしは今日も 岩戸の中を散歩した
ふすまを開けるたび 新しい部屋がある
同じ部屋に巡り合うことなど めったにない
ここはいったい どういうしかけになっているのだろう?

そんなことを考えながら
またふすまを開けると 
どこからか 元気のいい歌声が聞こえてきた
十人くらいの男の声が
威勢のいい民謡のような歌を歌っている
わたしはなんとなく
白雪姫の七人の小人のことなぞ思い出しながら
ふすまをあけたのだ

するとそこに
ヒノキの広い浴室があり
八人か いや十人か いやもっとか
確かには数えられないくらいの
小さな星たちが
声を合わせて歌いながら 風呂を掃除しているのだった

その様子が あまり楽しそうなので
わたしは嬉しい気持ちで
しばしぼんやりと彼らを眺めていた
星は動くのが早くて ひとりが何人もの姿にも見えたりして
正確にはいったい何人いるのか
さっぱりわからない
けれども彼らはとても楽しそうで
彼らが動くたび 風呂場が光をまとうように
きれいになってくる

わたしがいつまでも突っ立ってその様子を見ていると
ひとりの星がわたしに気が付いて
わたしに近寄ってきた

やあこんにちは わたしはアステローペ
みなといっしょに ここの風呂場を掃除にきました
もう少しできれいになるので
湯を張ったら 入浴してください
とてもいい薬の湯なので
あなたの傷が 相当によくなってきますから

わたしは少々驚いて
アステローペに深くお礼を言って 尋ねた
あなたがたは みんなでいっしょに仕事をしているのですか
するとアステローペは答えた

我々は牡牛の宮のプレアデスの室におるものです
このたび 地球の人間の魂を
このような 美しい風呂場で洗うために
地球にいくことになりました

わたしは ああ と驚きの声をあげた
あなたがたも 地球にきてくださるのですか
するとアステローペは
子供のようなあどけない笑い顔を見せて言ったのだ

たくさんの星が降りてくると
トラペジウムのお知らせがあったでしょう
わたしたちもその星たちの仲間です
わたしたちは兄弟のようなものなので
こうしていつも みなで協力し合って
仕事をしています

ああ ありがとう
人間の代わりに お礼を言います
本当に ありがとう
わたしは言った
するとアステローペは
ただただ明るい微笑みを見せて言った

苦労はあるだろうけど
だからこそ我々は楽しい
地上に美しい風呂場を いくつも作って
人間が服のように着ている不幸せの垢を
早くきれいに洗ってやりたい

わたしはもう何も言えず
幸福な気分の中にいた
それはまるで ほんとうに
自分の心が きれいなお湯のお風呂に
ゆったりとつかっているような気持だった

暖かいでしょう
とアステローペは言った
風呂場はもうすぐきれいになります
あなたがふすまを開けて ここにたどりついたら
いつでも入浴できるようにしておきますから
どうぞ入ってくださいね

やがて風呂場はすっかりきれいになった
湯船の中をのぞくと ほんのりと若草色に染まった
暖かな湯が 張ってあった
わたしはプレアデスの星たちに深々とお辞儀をして
お礼を言った

プレアデスの星たちは嬉しそうにそれを受け取ると
次々に姿を消していった
何だかあっという間にみんな行ってしまって
わたしは最後まで 彼らが
本当は何人いるのか わからなかった

御湯を浴び 体を洗い
きれいな薬湯につかっていると
わたしの心の 萎えていた部分が
すっかりきれいになって
ゆっくりと膨らんでくるのがわかった
そして初めてわたしは
自分の心の中に 痛いくぼみができていたことがわかった
ああ わたしの心の傷ついていたところが
今 治ったのだ

地上に向かったプレアデスが
人々の魂の傷をきれいに洗って直してくれる
わたしはそう思うと 胸に何かがあふれてきて
お風呂につかりながら ほとほとと
湯に涙を落とした

ああ すべての星が降りてくる

人間を
たすけるために



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1 コメント

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絵の解説 (てんこ)
2013-05-05 07:13:09
サンドロ・ボッティチェリ、「歌う天使と聖母子」、15世紀イタリア、初期ルネサンス。
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