歩くたんぽぽ

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エレクトリック・ステイトを読んで

2021年12月12日 | 
以前新宿の紀伊国屋書店で見かけてからずっと気になっていた本をやっと手に入れた。

スウェーデンの鬼才シモン・ストーレンハーグが描く『THE ELECTRIC STATE』だ。

バンドデシネをチェックしようと海外漫画コーナーに立ち寄った時のこと、

最初はタイトルの鋭利な響きに惹かれ棚から抜き取った。

パラパラページをめくって目に飛び込んできたのは洗練された絵で描かれたディストピア。

都会的なそれではなく荒野や砂漠が舞台で、荒地に打ち捨てられたらしきドローンに目を奪われた。

ちらっと値段をチェックすると3000円、絶妙。

少し考えて、突発的な欲求かもしれないからと一旦その場を離れた。

それから数ヶ月、結局忘れることができなかったので購入してみると、これが当たりだった。

以下ネタバレあり。





『THE ELECTRIC STATE』

シモン・ストーレンハーグ 作
山形浩生 訳
株式会社グラフィック社 2019年



アート界隈、SF界で旋風を巻き起こしている話題の人らしい。

説得力のある画力と詩的とすら思える一人称の儚げな語りで少女とロボットの旅を描いている。

小説でもないし絵本でもないしコミックでもないしバンドデシネっぽくもない。

綺麗な絵に添えられた短い文章はエッセイや日記を彷彿とさせる。



説明の少ない文章の中で見え隠れするドローン戦争の傷跡とニューロキャスターというキーワード。

1枚目のセンター社の「mode6」の広告が最後まで効いている。



この物語の本質はいったいどこにあるのだろうか。

過度な文明化への警告なのか、世界の終わりか不在か虚無か。

あくまでそれらは外側の景色で、そんな世界で淡々と進む一人の人間の物語なのか、あるいは愛か。

砂浜に置いて行かれたスキップの抜け殻がいったい何を意味していたのか、考えてみてもわからない。

懐かしさと寂しさが波にさらわれて、いずれ跡形もなく消えてしまうのだろう。

少女は人間の気配や痕跡が覆い尽くす人のいない世界で、生身の人として大海原へ旅立つ。

二人が漕ぎ出したカヤックをノアの箱舟という人もいるけれど、私にはそう思えない。

人工知能とも人間の集合意識とも違う畏怖すべき大いなる何かの誕生が強く心に残った。





実のところこの本のことをあまりわかっていない。

説明がなさすぎて、正確に把握するのがとても難しいのだ。

でも一人称視点で切り取られた世界は、ある意味でとてもリアルだとは思う。

世界の見せ方として成功している。

それにしても赤い車の男はいったい何だったんだ。

読者がこの答えを得る機会はあるのだろうか。

語りすぎよりは語らなさすぎの方が性には合っているから、まぁいいさ。



とにかく絵が素晴らしい。

線で描く絵が好きな私にとってあまり好みの画風ではないけれど、そうは言ってられない。

圧倒的な画力に加え、想像を膨らませる奥行きがある。

未来を想像し続けたインダストリアルデザイナーのシド・ミードがふと頭をよぎる。

世の中には絵の上手い人、想像力の豊かな人ってたくさんいるんだなあとしみじみ。

ファーストインプレッションってやっぱり大事だね。

いいものに出会いました。

映画化が決まっているらしく、楽しみが増えたのだった。

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