理由
2019年09月30日 | 本
一片の曇りなき満足感。
なんだこれ。
面白すぎるだろ。
宮部みゆきの小説を初めて読んだ。
この人は多分すごい人だ。
参りました。
『理由』
宮部みゆき 著
朝日新聞社 平成10年(新潮文庫 平成14年)
なかなかとっつきにくい本ではある。
事実、私は最初の100ページくらいを読んではやめ、忘れ、読んではやめを繰り返していた。
取っ掛かりがなかなか見当たらないのだ。
私が今まで読んできた小説は物語然としていたし、
その最たる要因である主人公が当たり前のように存在していた。
主人公とは感情移入のスイッチであり、物語の案内人である。
彼らは読者の立場を明確にしてくれるし、
彼らの後についていけばなんの迷いもなく物語のゴールへたどり着けた。
しかし『理由』は案内人を用意してくれていない。
甘やかされてきた読者はその時点で何を頼りに物語を進めばいいのかわからなくなってしまうのだ。
それ自体がこの物語を特別足らしめる肝だったとははいやはや。
この物語は荒川区にある超高層高級マンションで起きた一家四人殺人事件をめぐる物語である。
文章が書かれたのはすでに事件の全容が暴かれ周知の事実となったころ、
多くの関係者へのインタビューによってより生々しくかつ客観性を保って事件を伝える、というスタンス。
この物語には子どもも多く登場する。
子どもの視点のときだけ三人称一視点の物語として語られていたのは
大人と子どもが見ている世界を明確に分けようと意図したものなのか。
だとすると小糸孝弘だけインタビュー形式だったのはなぜだろう。
小説を読んでここまでリアリティを感じたのは初めてだ。
「本当にありそう」というリアリティではなく、「真実の置き場所」が非常にリアルなのだ。
過去の事件は人の記憶の中にしかない。
そのため多くの人にインタビューする訳だが、
同じ事件について語っているのにも関わらず人によって見え方が全然違う。
この本は彼らが語る真実を否定せず、物語を一本化しようとしていない。
それぞれの都合や思い込みでねじ曲げられた言葉を全てそのまま載せているのだ。
って”彼ら”って誰やねーーーん!!
あまりに現実味があるので”彼ら”が本当に実在する人のように錯覚してしまうほど。
一から全て著者が作っていると思うと不思議な気持ちになる。
このちぐはぐで移り気なパズルを少しずつ組み立てていき、最終的に事件の全容を提示している。
はじめは徹底された客観性に馴染めず戸惑ったが、200ページあたりから読む手が止まらなくなる。
スタンスへの戸惑いよりも、少しずつ明らかになる真相に目が離せなくなっていったのだろう。
遅い気もしないではないが、それでも余るほど面白さを享受できる。
初めて宮部みゆきの本を読んだのであまり偉そうなことは言えないけれど、
この本を読む限りどこにも宮部みゆきはいない。
著者の都合や作為を感じる瞬間が全くなかった。
というのもミステリーを読んでいるとなんとなくパターンが見えてくることがある。
こういう時はこうくるか、それとも予想を裏切る?って著者と駆け引きする瞬間があるものだ。
それはそれでそういうやりとりが楽しい訳だが、この本の中には著者を感じる瞬間がない。
『理由』の中に存在する登場人物があまりに生々しく生きているものだから、著者の出る幕などないのだろう。
いや違う、著者がそうしているのだ。
お見事である。
私の好きな漫画家は、キャラクターは言うことをきかないと言っていた。
キャラクターにはそれぞれ性格があって、
それを踏みにじってこちらの思うストーリーに当てはめることはできないのだと。
だからこそ自分でも想像しなかった話になるし、それこそが漫画の面倒くさくて面白いところだと。
『理由』を読んでその言葉を思い出した。
20年以上も前に書かれた本だけど、私からするととても新しい。
後から知ったのだけど、この本は宮部みゆきの代表作の一つとしてあげられることが多いようだ。
いい本に巡り会えた。
なんだこれ。
面白すぎるだろ。
宮部みゆきの小説を初めて読んだ。
この人は多分すごい人だ。
参りました。
『理由』
宮部みゆき 著
朝日新聞社 平成10年(新潮文庫 平成14年)
なかなかとっつきにくい本ではある。
事実、私は最初の100ページくらいを読んではやめ、忘れ、読んではやめを繰り返していた。
取っ掛かりがなかなか見当たらないのだ。
私が今まで読んできた小説は物語然としていたし、
その最たる要因である主人公が当たり前のように存在していた。
主人公とは感情移入のスイッチであり、物語の案内人である。
彼らは読者の立場を明確にしてくれるし、
彼らの後についていけばなんの迷いもなく物語のゴールへたどり着けた。
しかし『理由』は案内人を用意してくれていない。
甘やかされてきた読者はその時点で何を頼りに物語を進めばいいのかわからなくなってしまうのだ。
それ自体がこの物語を特別足らしめる肝だったとははいやはや。
この物語は荒川区にある超高層高級マンションで起きた一家四人殺人事件をめぐる物語である。
文章が書かれたのはすでに事件の全容が暴かれ周知の事実となったころ、
多くの関係者へのインタビューによってより生々しくかつ客観性を保って事件を伝える、というスタンス。
この物語には子どもも多く登場する。
子どもの視点のときだけ三人称一視点の物語として語られていたのは
大人と子どもが見ている世界を明確に分けようと意図したものなのか。
だとすると小糸孝弘だけインタビュー形式だったのはなぜだろう。
小説を読んでここまでリアリティを感じたのは初めてだ。
「本当にありそう」というリアリティではなく、「真実の置き場所」が非常にリアルなのだ。
過去の事件は人の記憶の中にしかない。
そのため多くの人にインタビューする訳だが、
同じ事件について語っているのにも関わらず人によって見え方が全然違う。
この本は彼らが語る真実を否定せず、物語を一本化しようとしていない。
それぞれの都合や思い込みでねじ曲げられた言葉を全てそのまま載せているのだ。
って”彼ら”って誰やねーーーん!!
あまりに現実味があるので”彼ら”が本当に実在する人のように錯覚してしまうほど。
一から全て著者が作っていると思うと不思議な気持ちになる。
このちぐはぐで移り気なパズルを少しずつ組み立てていき、最終的に事件の全容を提示している。
はじめは徹底された客観性に馴染めず戸惑ったが、200ページあたりから読む手が止まらなくなる。
スタンスへの戸惑いよりも、少しずつ明らかになる真相に目が離せなくなっていったのだろう。
遅い気もしないではないが、それでも余るほど面白さを享受できる。
初めて宮部みゆきの本を読んだのであまり偉そうなことは言えないけれど、
この本を読む限りどこにも宮部みゆきはいない。
著者の都合や作為を感じる瞬間が全くなかった。
というのもミステリーを読んでいるとなんとなくパターンが見えてくることがある。
こういう時はこうくるか、それとも予想を裏切る?って著者と駆け引きする瞬間があるものだ。
それはそれでそういうやりとりが楽しい訳だが、この本の中には著者を感じる瞬間がない。
『理由』の中に存在する登場人物があまりに生々しく生きているものだから、著者の出る幕などないのだろう。
いや違う、著者がそうしているのだ。
お見事である。
私の好きな漫画家は、キャラクターは言うことをきかないと言っていた。
キャラクターにはそれぞれ性格があって、
それを踏みにじってこちらの思うストーリーに当てはめることはできないのだと。
だからこそ自分でも想像しなかった話になるし、それこそが漫画の面倒くさくて面白いところだと。
『理由』を読んでその言葉を思い出した。
20年以上も前に書かれた本だけど、私からするととても新しい。
後から知ったのだけど、この本は宮部みゆきの代表作の一つとしてあげられることが多いようだ。
いい本に巡り会えた。
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