ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

再生の朝に―ある裁判官の選択―

2011-03-07 21:13:49 | さ行
年を取ったなあと
驚き、強く感じる瞬間。

(1)映画監督が、自分より年下だった。
(2)頭頂部が気になり出した(それは今、関係ないぞ!)
(3)映画で初めて知る「え?こんなことがあったんだ」という事件が
   同時代に起きていた。


本作もそんなひとつでした。


「再生の朝に―ある裁判官の選択―」59点★★☆



1997年、中国の河北省。

寡黙なベテラン裁判官ティエンは
娘をひき逃げ事件で亡くしてしまう。


マジメだが融通の利かないティエンに
周囲は
「娘はティエンへの恨みを持つものに殺された」
などと言いもするが

彼は心を閉ざす妻と、心を慰めてくれる愛犬とともに
淡々と日々の業務をこなしていた。


そんなある日、ティエンは
自動車2台の窃盗で捕まった青年を
裁くことになる。

犯罪当時の刑法に従い
ティエンは青年に死刑を言い渡すが

折しもこのとき法改正が行われ
改正後の法律では
青年は死刑ではなくなる。

果たしてティエンは青年に
このまま死刑を執行させるのか――?



実際に起こった事件に
インスパイアされたという本作。

はあ?自動車2台の窃盗で死刑?!
あ然としてしまいますが

これがつい最近
1997年の出来事なんですねえ。
信じられない。


今日と明日で命の価値が変わってしまう
馬鹿馬鹿しくも不条理な国の
恐ろしさにあきれるばかりですが


描かれるのは割と普遍な人間心理で
共感できることも多い。



例えば
困った人に「ちょっとだけ、多めに見て」と頼まれても
断固として受け付けない
主人公の融通の利かなさが

いざ
自分が同じ立場になったときに
自分に跳ね返ってきてしまうことへの皮肉だったり。

法律と自分の心のどちらに従うか、とか
公私のさじ加減の難しさ、など。


監督の第一目的は
おそらく中国の現状を訴えることにあると思いますが
そうした人の心模様も
ちゃんとすくい取っていると感じました。


ただ
「愛するものの喪失」というテーマは
ちょっと手に余った感あり。

まだ2作目の監督だけに
映画としては端々につたなさがあったのも
惜しいところ。


ただ
中国で社会派を貫き
現状を告発する勇気と意義は
並大抵じゃないでしょうね。


★3/5からシアター・イメージフォーラム、銀座シネパトスで公開中。ほか全国順次公開。

「再生の朝に―ある裁判官の選択―」公式サイト


現在発売中の『週刊朝日』(3/11号)のツウの一見
中国の法律に詳しい東大教授・田中信行さんに
お話を伺っています。

中国の司法の現実を知り
より「あ然」としつつ
この映画の持つ意味がより深くなりました。

ここからも見られますのでどうぞ☆
コメント (2)
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