ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

キッズ・オールライト

2011-04-25 20:21:28 | か行


「お前んち、ママが二人なの?クールじゃん!」という
現代のリアルが
無理なく伸びやかに描かれた良作です。


「キッズ・オールライト」83点★★★★


同性婚したレズビアンカップル
ニック(アネット・ベニング)と
ジュールス(ジュリアン・ムーア)。

二人はともに同じ精子ドナーから
精子提供を受け、

レイザー(ジョッシュ・ハッチャーソン)と
姉ジョニ(ミア・ワシコウスカ)を産み、
4人家族となって幸せに暮らしていた。


そんななか
18歳になったジョニは
弟にせがまれて
自分たちの生物学的な父親を探し出す。


その人の名はポール(マーク・ラファロ)

姉弟は母親にナイショで
父なる人物に会いに行くことにするが――?!



いや~、ホント
この青空のごとく爽やかな
いい映画でした!


まずは
多様化する現代の家族のかたちを
「ちゃんとわかってる」人が描いてるなあという
気持ちよさですね。


監督のリサ・チョロデンコは実際に
自身も精子提供を受けて子を出産しているそうで
なるほど、やっぱりそうか!


この4人家族は
一見ノーマルでなさそうにみえて
いやいや
モラルや見識がめちゃくちゃノーマルだし


彼らの周囲の人々もまた
同性婚も精子ドナーも
人それぞれの生き方としてきちんと寛容してくれている。


「お前んち、ママが二人?クールじゃん!」って
言える感覚、最高じゃないですか!


それにこの家族に起こる問題は
全然特別なことじゃない。

例えば、
男女だろうが、男男だろうが、女女だろうが
どんな家庭でも二人いれば
父的役割と、母的役割って、分担されていくものですよね。

(シングルマザー、ファザーの場合は
それを一人でこなさなきゃいけないから大変だけど)


本作では
医師のニックが父的役割を担い
この家の働き手であるという自意識に支えられて
がんばっており、

対して
専業主婦的役割を担ったジュールスは
「自分にはまだ何かできるはず」という自己実現願望を
持っている。


そんな家族のなかに
異質な存在=ポールが入ってきたとき

その家族の均衡が崩れる様子が
とても繊細に、ユーモアたっぷりに描かれてて
ウケるんですねえ。


さらに長年連れ添うカップルの倦怠期や惰性、
そして
「この人じゃなければ、自分も違ってたかも」となる展開、
ね、「ブルーバレンタイン」でもおんなじ。

どこの家でも
「あるある」だらけだと思いますよ。


アネット・ベニング&ジュリアン・ムーアのカップルが
リアル過ぎて怖い気もしますが(笑)


単純に女=母性とかじゃない、
人はその持ち場でいろいろ持ち分あるんだというのも
爽快だったなあ。


なにより
人とちょっと変わったことや
特別なことを「差別」にしない
この自然さと、あたたかみと、笑いを、

ぜひ楽しんでいただきたい!


★4/29から渋谷シネクイント、TOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「キッズ・オールライト」公式サイト
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八日目の蝉

2011-04-24 15:26:17 | や行

試写室でおじさま方が
ボロ泣きしてましたねえ。


「八日目の蝉」67点★★★



角田光代の同名小説の映画化です。


会社の上司(田中哲司)と不倫していた
希和子(永作博美)は

彼の子どもを堕ろしたことで
子どもを産めない身体になってしまった。


悲嘆にくれる希和子は
彼の妻が子どもを産んだことを知る。

ショックと絶望から
希和子は彼の自宅に忍び込み

衝動的に
赤ん坊を誘拐してしまう。


そして21年後――。

誘拐された娘、恵理菜(井上真央)
大学生になり
家庭のある男(劇団ひとり)と付き合っていた。

そんな彼女の前に
21年前の事件を調べているという
フリーライター(小池栄子)が現れて――。



147分、飽きることなく見たし、
印象に残っている場面も多い。
小豆島のシーンとか。

永作博美は「子に捧げる無償の愛」を体現し、
ラストへ向かって井上真央も
グイグイと吸引力を増し

その変化も魅せたと思う。


ただ、すいません
物語の前段階で
全然入り込めなかったんですよねえ。


だってこれ
相当男に都合いいアホな話じゃない?


どうも“母性”を都合よく解釈した絵空事、という
感じがしてしまう。


不倫がダメ!とか
そんなキレイ事を言ってるんじゃなく
ストーリーに
引っ掛かるところが多すぎた。


そもそも
不倫相手の奥さんが産んだ子なんて
憎っくき存在でこそあれ
愛したりできるものか?


希和子は明らかに最初から
重要指名手配犯なのに
こんなに逃げ切れるものか?


予防接種や学校問題など
子どもを育てるための社会的な煩雑事の
処理のしかたも都合よくないか?


女が女を助ける、に終始し
そもそもの原因を作ってる男は放置。
腑に落ちんぞ!


まあ一番ムッとしたのは
小池栄子演じるライターの第一印象かも(苦笑)

女のフリーライターの
イメージってこれかよ!という。


ただし
彼女はそのルックスや挙動に理由があると
のちにわかるので、いいんですけどね。


でも試写室では
マジで野太いすすり泣きがあちこちから聞こえてたし
グッとくる人も多いのでしょう。


配偶者がいるか、いないかなど
観る人間の背景が如実に反映される作品なのかもしれない。

ぜひ劇場でご判断ください。


ちなみに番長は
日テレドラマ「Mother」の“母性”のほうが
そこにいたる動機も
主人公の心理変化も共感できました。


★4/29から全国で公開。

「八日目の蝉」公式サイト
コメント (4)
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イヴ・サンローラン

2011-04-23 17:15:56 | あ行

この献身的な愛に感動……!


「イヴ・サンローラン」77点★★★★



21歳でクリスチャン・ディオールの
後継者に抜擢された
天才デザイナー、イヴ・サンローラン。


ファッション界の寵児となった彼が
2008年に亡くなるまで
いかに輝き続けたか。

その成功と名声の影で
どんな地獄を味わっていたかを


彼と50年を共に過ごし、支えてきた
公私にわたるパートナー
ピエール・ベルジェ氏が語る
ドキュメンタリーです。


ベルジェ氏のとつとつとした語りと共に
過去の写真や映像、
二人が暮らした家などが紹介され

とても静かに進む映画で

「追悼」という印象がピッタリ。



この二人の関係は超有名らしいですが
番長、全然知りませんでした。


なもんで
サンローランってこんな人だったのかあと
いう驚きがまず第一。


彼は自分を
「生まれたときから、憂鬱で陰気」と
自己評価するほど

すごーく内向的だったんですって。



そんな彼が、成功と背中合わせに
プレッシャーに耐え、どれだけの苦しみを味わっていたかを
改めて知り

その苦痛を想像するに
背筋がひんやりしました。


そして
その内気でやせっぽちな青年と
「雷に打たれたように」恋に落ち

その影となり
私生活でも、仕事でも支え続けたというベルジェ氏。


自分がいかに彼を愛したかを
静かに語る様に

「ここまで愛せる人に出会えるってうらやましい……」

「ここまで献身してくれる人って素晴らしい……」

と思うとともに

愛する人を失ったとき
遺された者は、どう生きるのか

その哀しみに
胸が圧迫されました。


サンローラン氏が亡くなって2年、
哀しみはもはや慟哭ではないけれど
それだけに、染みいる。

うう、つらいっすよね。。。


さらに映画では
二人が収集した美術品の数々が(ものすごい点数!)
黙々と運び出され

オークションに出される過程が描かれるんですが
これがまた切ない。


「もし私が先に死んだら
イヴは決してこれらを手放さなかっただろう」と
言うベルジェ氏ですが

彼にとってはこれがけじめのつけかたであり
弔いなんだろうと感じました。


同時に
「一流が選ぶ美とは、こういうものか……」と
目の保養にもなりました。


名声もセンスもお金も欲しいけど
やっぱ愛が欲しいよねえ。

いやホントに欲しいもの
実は「献身」か?(汗)


★4/23からTOHOシネマズ六本木ヒルズ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開中。


「イヴ・サンローラン」公式サイト
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まほろ駅前多田便利軒

2011-04-22 20:18:44 | ま行

立ったり、座ったりだけで
絵になる男っていいすねえ。


「まほろ駅前多田便利軒」72点★★★★



東京郊外の地方都市“まほろ市”で
便利屋を営む多田(瑛太)。

あるとき多田のもとに
偶然出会った高校の同級生・行天(松田龍平)が
転がり込んでくる。


多田は行天に仕事を手伝わせ、
家に住まわせることにする。


ペットの世話や
塾通いする子どもの送迎、
娼婦のストーカー対策まで

二人は便利屋の仕事を通して
“ワケあり”な人々と出会うことになり――?!



瑛太×松田龍平という
魅力的なキャスティングだからでしょうか

試写室は超満員、大盛況。


やっぱこの映画の魅力は
まずは主演俳優そのものですからね。


二人が演じる人物像も
ぶっきらぼうで、ちょっとはずした感がまた
カッコよく


衣装もペンキついた作業着着てみたり
またそれをいい感じに
着崩して、着こなしちゃうんだ彼らは。



見た目だけでなく

つんのめるような会話のテンポや
調子っぱずれな間合い、

小道具に「フランダースの犬」を使うとことか

狙ってるけど、やりすぎてない
作品全体のまとの当て方や力加減も
考え抜かれている。


製作はリトルモアで
なるほどリトルモアから写真集が作れそうな世界でした。


――て、

ううう、決して悪く言ってるんじゃないのに
イジワルっぽくなってしまうのはなぜだ(笑)


決してぬるくはなく
きちんと世界観を作ってると感じましたが

でもここに描かれる「男子」は
もしかしたら
あくまでも“女子ウケ”範疇なのかもしれない。



『週刊朝日』の映画星取りで
男性陣の点が辛く
女性チームが高得点だったのも
なんかわかる、っつうか(笑)


原作は三浦しをんの直木賞受賞作。

普通は映画見た後に、原作を読みたくなるもんですが
これはならなかったなぁ。

キャラがもう決定的に
固定されてしまったからですかね。


★4/23から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「まほろ駅前 多田便利軒」公式サイト
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メアリー&マックス

2011-04-21 20:37:35 | ま行

これはちょっと
特異なクレイアニメーションですよ。


「メアリー&マックス」74点★★★★



オーストラリアに住む
8歳の少女メアリー。

メガネにそばかす、おでこにはしみ、
夢想家な彼女は
ありていに言うとブス子ちゃんで
友達がいない。


あるときメアリーは
電話帳を無作為に指差して
その相手と文通しようと思いつく。

抽出されたのは
アメリカに住む44歳の男性マックス。


彼は人との関わりが難しい
アスペルガー症候群だった。


孤独なもの同士、
二人はお互い自分のことを
包み隠さず手紙に書き


文通は、何年も何年も続いていくが――。



まず冒頭、
メアリーがマックスへの手紙に
自己紹介文を書くんですが

「私はメアリーです。好きな色は茶色です」


ちゃ、茶色?(笑)8歳の少女が?

もうそこからしてツボっていうか(笑)



「社会で生きにくい人」っていう題材は
よくあるけれど

この映画には
まず間違いなく作り手本人が
ガチで「生きにくい人」なんだろうなという
本物感がありました。



主人公たちの心理面も軽いタッチながら
相当深くまで吐露されるし


実際、アスペルガー症候群が
アニメになったのって初めてじゃないか?


しかもそれを
クレイアニメで
描いちゃうっていうのがすごいですよ。


この話は
アダム・エリオット監督の実体験で

マックスのモデルは
実際に長年文通してた相手なんだそうです。


さらに監督は遺伝により
筋肉の収縮で体の一部が震えてしまう
難病を患っているそうで


その震える線やタッチを生かした
独特の造型が
不思議に魅力的な
クレイアニメーションを生み出しているんですね。


そして、そんな監督だからこそ
「生きにくい」人々への眼差しが
決して甘くなくビターすぎるほどでもあるんだと
ふかーく納得。

そしてそれゆえに
そこに生まれる一筋の希望や喜びが
リアルに感じられるんだと
また納得、でした。


いまの世の中を生きにくくない人となんて
友達になりたくないやと
番長は思うんで。


多くの人に、響くのではないでしょうか。


★4/23から新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋で公開。ほか全国順次公開。

「メアリー&マックス」公式サイト
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