ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ブルーバレンタイン

2011-04-20 21:29:54 | は行
「ブラックスワン」は
映画が女優(ナタポー)を押し上げてるけど

これは完全に女優が、映画を押し上げてる。

だからワシの理論では
ミシェル・ウィリアムズこそ
主演女優賞にふさわしい!


「ブルーバレンタイン」86点★★★★


とある田舎町に暮らす若い夫婦、
夫ディーン(ライアン・ゴズリング)
妻シンディ(ミシェル・ウィリアムズ)
そして
可愛い娘のフランキー。


夫ディーンはペンキ塗りの仕事をしてるが
仕事はそこそこ&ほどほどで

どちらかといえば
娘との時間を大切にしている。


一方、生まれ育ったこの町で
がんばって資格を取って働く妻シンディは
夫にもっと向上心を持って欲しいと思っている。

互いに不満もつのり
ケンカばかりになってしまう二人。


しかし、二人は最初から
こうだったわけではないのだ――。



なぜ愛は始まり、そして終わるのか。
あるカップルの出会い、
倦怠、やがて噴出する不満、そしてその後・・・と


誰もが経験するであろう
めちゃくちゃ普通の話を


過去といまを絶妙に行き来する
映画ならではの見せ方と

心情描写を突き詰めた脚本、

“生きている”役者の演技で
新たな驚きとして見せてくれた傑作です。


完成までいろいろあって
11年もかかったそうで
(破産とか、解雇とか、死とか・・・と監督は言ってます)

普通はこねくり回すと
ロクなことにならないんですが
この映画の場合は
シンプルな題材が極限まで突き詰められ、練られて
いい結果になった。


それに
最初にキャスティングされ
映画化まで辛抱強く付き合ってきたという
ミシェル・ウィリアムズが
本当に素晴らしいんです!


冒頭シーンで
「うわ、これまたリアルにムッチリになったな」
と思ったら

それが現在の彼女で

そのあとに
過去の若かりしころのシーンが出てくるんで

その対比が
ものすごい説得力になる。


生まれ故郷を出ることなく
生活に追われ、

「もう、いいのアタシ」的なあきらめ感と
しかし
完全には終わりきれないくすぶり感を

ここまで表現できる若手は
いないですよ。


20代よりも30代、さらに上へと
年を重ねた人ほど他人事とは思えない
リアルな映画だと思います。


しかしなあ。

「この人じゃなければ、自分もこんなじゃなかった」
「もっと違う人生だったかもしれない」

って、
自分への不満を相手への不満にすり替えるのは
古今東西、年齢問わず
誰もがやってしまう罠なのか。


それは幻想なんだけどねえ。


★4/23から全国で公開。

「ブルーバレンタイン」公式サイト
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GANTZ PERFECT ANSWER

2011-04-19 23:14:05 | か行

あれ?パート1より
ずいぶん点が上がったじゃないですか(笑)


「GANTZ PERFECT ANSWER」60点★★★


謎の黒い玉「GANTZ」によって召還され
星人と戦うことになった
一度死んだはずの
玄野(くろの、二宮和也)と加藤(松山ケンイチ)。

加藤が戦いで命を落としてしまうところまでを
描いたのが前回の「GANTZ」。

本作はその続きであり、結末です。


加藤なきあと、玄野と
玄野に想いを寄せる多恵(吉高由里子)は
一緒に加藤の弟の面倒を見ていた。


その間も玄野はたびたびGANTZに呼び出され
次々と星人を倒し、
いまやGANTZの中心的存在となっていた。


そんなある日、
GANTZから次のターゲットが提示される。


それはなんと――多恵だった!


究極の選択を迫られた
玄野が出す答えとは?

そしてGANTZの謎は解けるのか?



前作は幼稚さと残虐シーンの相乗に
けっちょんけっちょんのトホホとなったけど

やっぱり続編が気になって
観てしまったのは事実。

そして……
もう
すっかり慣れましたこの世界にも(笑)


いや、マジな話
今回はガンツの謎を追う男(山田孝之)という
第三者の登場で

グンと観客に親切になり
かなり見やすくなってます。


戦闘シーンも分量的にいいし。


神経を逆なでするような
わざとらしいおふざけもなく、


前作ではほとんど出番らしい出番のなかった
吉高由里子が
けっこう飛び出してきているのもいい。


まあ終盤のバトルシーンは
さすがにちょっと飽きてしまいましたが


それでも
原作マンガとは違うというラストも
ちゃんと決着ついてたと思います。


原作、1巻しか読んでないので
これが「パーフェクトアンサー」なのか
そのへんの機微が
正確にはわからないけど


ただ
「デス・ノート」映画版しかり
オリジナルで腑に落ちるラストを作るって
かなり得点高いですよ。

前作観た人はやっぱ観るべきですねハイ。


★4/23から全国で公開。

「GANTZ PERFECT ANSWER」公式サイト
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抱きたいカンケイ

2011-04-18 20:45:58 | た行


ナタリー・ポートマンを
ナタポーって略すと知ったとき
かなり衝撃だった。

あまりに合理的で(笑)。3文字!


「抱きたいカンケイ」71点★★★☆


いまもっとも旬なナタポー主演で
「ラブコメなのに、意外と……」と
評判が高い作品です。



14歳で出会って以来、
何かと顔を合わせてきたエマとアダム。

だが2人は決して恋人同士には
ならなかった。

そして現在。

多忙な医師となったエマ(ナタリー・ポートマン)は
再びアダム(アシュトン・カッチャー)と
偶然出会い、

勢いでついに男女のカンケイに


てっきりエマと恋人同士になると思っていたアダムに
エマはクールに言い放つ。


「恋の駆け引きとかしてる時間ないし
セックスしたいときだけ
メールで呼び出すカンケイでいい?」


「……よーし、のった」と
同意したアダムだけど

さてどうなりますか――?


正直、期待ほどではなかったんだけど
確かにラブコメとしては出来がよいと感じました。


男女のやりとりが
ナチュラルなのもいいけど

これは
アシュトン・カッチャー自身の
長所というかキャラクターの魅力が大きい。

のぼーっと図体でかく、ハートもでかく
とにかく、明るい。


対するナタポーが
ガリガリなのはともかく
(おそらく、ブラック・スワン仕様)

ラブコメのヒロインとしては
あまりにも男性ウケしなさそうなんで(苦笑)

この配役は絶妙でした。


彼のおおらかさに
ナタポーもうまくのっかって
より魅力が出たと思う。


あっけらかんとしたセックスシーンなんて
思わず微笑んじゃうほどでした。


ただ惜しいのは
やっぱりオチがわかりきってるところだなぁ。

面倒臭くとも、しんどかろうと
やっぱ最後には、ねえ……という。


とにかく
いま最高に輝いてるナタポー
傑作「ブラック・スワン」(5/11公開)に
意外な拾いものだった「水曜日のエミリア」(7/2公開)と
主演作が目白押しなんで

要チェックです。


★4/22から全国で公開。

「抱きたいカンケイ」公式サイト
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キラー・インサイド・ミー

2011-04-17 14:23:30 | あ行

マイケル・ウィンターボトムって
よくわかんない監督だわあ。


「キラー・インサイド・ミー」32点★★


ジム・トンプスン原作
『おれの中の殺し屋』(1952年発表)の
映画化です。


1950年代の西テキサス。

保安官助手ルー・フォード(ケイシー・アフレック)は
ハンサムで人当たりのいい
町でも評判の好青年。


恋人のエイミー(ケイト・ハドソン)とも
仲良くやっている。

ある日、
彼は捜査の一環で
娼婦ジョイス(ジェシカ・アルバ)と出会う。

すると
ルーの中の悪魔が目覚めてしまい――。



う~ん、これは正直、つまんなかった!


紳士的な保安官の裏の顔……って話なんですが
人物描写が浅すぎるんですよねえ。


一生懸命、読み取ろうとしたんですが
やっぱり

涼しい顔して、女ボコボコにして
ヘタな嘘ついて、また殺しを重ねる
ただのアホにしか見えましぇん(汗)


昔ならこの手の犯罪者は
「あんなにいい人が……信じられない!」
「恐ろしい殺人鬼だわ!」と
人々を恐怖に陥れたのかもしれないけど

もうそういう時代じゃないですから。

外面よくて中身は悪魔、なんて
みんな慣れっこになっちゃってるんですよ。

もっと狂気の内面とか
動機とか
掘り下げてくださいー。


それにしても
マイケル・ウィンターボトム監督。

「ひかりのまち」(99年)
「イン・ディス・ワールド」(02年)とか
すっごくいい!と思うと

よくわからない題材に挑んだりして
謎な人だ。


今までの作品をみても
サスペンス、文芸ロマン、ロマコメ、
難民問題、近未来SF……と
ジャンルにホントこだわってない。

アーティスティックなのかと思うと
意外に商業っぽい感じもして

本当につかみどころがない。


まあ作品は必ず
見ちゃうんですけどね。

「マイティ・ハート/愛と絆」(07年)も
よかったし。


1961年生まれで、まだ40代と
意外に若いことにびっくり。

次回は何に挑むのか
やっぱり気になっちゃいますねえ。


★4/16からヒューマントラストシネ渋谷ほか全国で公開。

「キラー・インサイド・ミー」公式サイト
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木洩れ日の家で

2011-04-16 01:05:47 | か行

あたしゃね、
こういう映画が
どうしても好きなんじゃよ。


「木洩れ日の家で」75点★★★★


ポーランド、ワルシャワ郊外。

緑深い森にある古い屋敷
愛犬フィラデルフィアと暮らす
91歳の老婦人アニエラ(ダヌタ・シュフラルスカ)。


彼女は亡き夫との思い出深い
その屋敷を愛しているが

都会に住み
ときおり訪ねてくる息子も孫娘も
ボロ家に興味はなかった。


あるとき
アニエラの元に
「家を売って欲しい」という人物が現れるが――?



古家で犬と暮す
91歳の老婦人の毎日を描き、
しかも映像がモノクロ…なんて

もろ番長好み。


見たらまあ
期待以上にすてきな映画でした。



実際に撮影時、91歳だった女優
ダヌタ・シュフラルスカありきの企画ではありますが
(なんと95歳のいまも現役!)

ほとんどが彼女の独り言と
犬との会話で
成立しているすごさ。


また彼女演じるアニエラが
品がいいのに
ひょうひょうとしてて
実にチャーミングなんです。




たまにしかやってこない
アニエラの息子にすり寄ってく犬に
キツーい皮肉を言ったり


部屋に入ったとたん
「あれ?何しに来たっけ」とつぶやいたり
(ある、ある)

はたまた
可愛いげのない孫娘を
あっさり泣かせてくれたりもしちゃう。

まあなんて爽快で
お茶目なおばあさんでしょう!(笑)



彼女の相棒である
愛犬フィラデルフィアも
信じられないほどの芸達者で驚きました。

こりゃ立派な助演“ドッグ”賞だと思ったら

ポーランドの映画祭で
しっかり“特別賞”を受賞してた(笑)


モノクロの映像も
余韻があって美しい。


古家のガラス越しに
ぼやけた老婦人の像が映るシーンなど

映像表現からも
「老いとはなにか」や
「止めることのできない時間や変化」について
思いを至らせてくれます。


静かに、独り見をおすすめします。


★4/16から岩波ホールで公開中。

「木洩れ日の家で」紹介サイト
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