ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ザ・ライト―エクソシストの真実―

2011-04-08 17:15:03 | さ行

神はいるかわからないけど
悪魔はいると思ってます。なぜでしょうね。


「ザ・ライト―エクソシストの真実―」51点★★



悪魔祓いに疑念を持つ
神学生マイケル(コリン・オドノヒュー)は

ある出来事をきっかけに
「エクソシスト(悪魔祓いをする人)養成講座」を受講するため
バチカンにやってくる。


まだ懐疑的なマイケルは
伝説的なエクソシスト
ルーカス神父(アンソニー・ホプキンス)のもとで
実地経験を積むように命令される。


神父の元を訪れたマイケルが
そこで見たものとは――?!



バチカンに「エクソシスト養成講座」が存在する――

確かに数年前、このニュースを聞いて
驚いた記憶がありますが


この映画のはじまりは
その養成講座を実際に受講したライターの
取材に基づくものなんだそうです。


ジャーナリスティックとまではいわないけど
まあ
「悪魔は存在するのか、考えてみよ」
と観客に問う映画なようですね。


怪奇現象や「ギャー!」という
血みどろ表現ばかりが
目的ではないので
寝られなくなることはないと思います。


怖がりとしてはホッとしましたが

すると今度は
悪魔に憑かれてるのか精神疾患なのかを
見極めるのも難しいという(苦笑)


あちらをたてれば…的ジレンマですねえ。


ストーリー的にも
主人公の見習い神父の迷い同様に

観客も悪魔を信じていいのか
神を信じていいのか
最後まで不安定にさせられるのが困る。


監督のミカエル・ハフストロームって
「1408号室」もビミョーに
中途半端なスリラーだったし

ちょっと優柔不断なのか
あるいは事象をニュートラルにしすぎなんでしょうかね。


そんななかでも
アンソニー・ホプキンスはやっぱり怪演でした。


「泥棒は家を荒らすとき、明かりをつけないだろう。
悪魔も同じだ」

なんて言う、彼の言葉が怖い。

私はいると信じてますよ、悪魔。


★4/9から全国で公開。

「ザ・ライト―エクソシストの真実―」公式サイト
コメント (2)
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引き裂かれた女

2011-04-05 23:10:43 | は行

熟練監督の手業に
引き裂かれたい~!なんちて。


「引き裂かれた女」78点★★★★



プレイボーイな初老の作家(フランソワ・ベルレアン)は
ある日、テレビ局で
若いお天気キャスター
ガブリエル(リュディヴィーヌ・サニエ)を見初める。

ガブリエルは
金持ちの放蕩息子(ブノワ・マジメル)にも
言い寄られているが

若い彼にはないものを求め
作家のモーションを受け入れる。

親密な関係になった二人だが
その先には
思いもよらない運命が待ち構えていて……?!



ゴダール、トリュフォーらとともに
ヌーヴェル・ヴァーグの代表作家である
クロード・シャブロル。

昨年9月に亡くなった彼の
最晩年の作品です。


あらすじだけ書くと
男女の三角関係からなる
単なる痴情話ですが


熟練監督の手業により
ここにえもいわれぬ後味と奥深さが
生まれているんですねえ。


教訓たれることなく
老いと若さ、経験と未熟、愛の情熱とモラルなどを
ただ現象として描き出し


しかも男女間の心理をえぐってくるのに
赤裸々でなく品がいい。

クラシカルなのに若々しく新鮮。


プレイボーイの初老作家が
いかにも『LEON』ちょいワルオヤジのようだったり

またそういうのに
引っかかるんだこういう女が(苦笑)、と

わざとベタにしてあるところに
けっこう笑えもする(笑)。


「スイミング・プール」や「ジャック・メスリーヌ」など
超売れっ子女優のサニエ(なんとすでに二児の母!)がまた

あの独特のポ~ッとしたたれ目と
あぶなっかしい美しさで
ピッタリの役どころです。


中身も“真っ白”な彼女に
真っ白な雪=ドネージュという名を当てるなど
監督のしゃれっ気も光り


ラストで
タイトルの意味がわかったとき「ポンッ」と
膝を打つほど痛快でした。


これぞオトナの世界。
ぜひご堪能ください~。


★4/9から渋谷シアターイメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「引き裂かれた女」公式サイト


さてさて
『週刊朝日(4/12発売予定)「ツウの一見」で
いま話題のUstream配信の“DOMMUNE(ドミューン)”でも知られる
五所純子さんに
本作について伺っています。

まだお若いのに
この映画におけるガブリエルの役割、そして
73歳監督が提示した男女の機微を
鋭い視点で切ってくださっております。

要チェックです!




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愛しきソナ

2011-04-04 23:44:23 | あ行

これ、チラシがあまりよくないなぁ。
もっと取っつきやすい図案に
すればよかったのに。


「愛しきソナ」71点★★★☆


「ディア・ピョンヤン」(05年)で注目された
在日コリアン2世
ヤン・ヨンヒ監督2作目のドキュメンタリーです。



大阪で生まれ育ったヤン監督は
6歳のとき
3人の兄がピョンヤンへ行き


以来、両親と自分は日本に
兄たちの家族は北朝鮮にと
わかれわかれになり暮らしている。


ヤン監督は1990年代から
ちょくちょくピョンヤンを訪れ
家族の暮らしぶりをビデオに収めてきた。


今回は次兄の娘で
彼女にとって姪っ子にあたる
少女ソナにフォーカスし


彼女との10年以上にわたる交流と、成長の記録、
そしてソナたちのピョンヤンでの暮らしぶりを
中心に描いています。


「ディア~」とダブるエピソードもあるけど
ソナ=ピョンヤン側に視点を変えることで

向こうの人々の暮らしぶりが
より詳細に映されているのがおもしろい。



兄たちが暮らすアパートの様子や
しょっちゅう停電する生活事情、


コンクリート舗装ガタガタの道や
「お、意外にビルが多い」などなど


風景の珍しさに加え
「え?」という結婚事情まで紹介されたり。
(まあこれは、ソナのお父さんの社会的地位など
特別な事情によるものかもしれませんが…)



見ながら
「家族ってどこも同じなんだなあ」という
しみじみと親しみのわく瞬間があるのと同時に


何十年も同じ演目を演じ続ける劇場など
“時間の止まった国”の不気味さも
さらっと出てくる。


さらにソナにとって
「大好きな叔母さん」で
ありつづけたいであろう監督だけど


日本で育ち「自分で選択する自由」を
アイデンティティに組み込んだ彼女の
姪っ子への言動は

ときにやや暴走もしていることが
映画には映っている。


偏りのない知識を得て、
さまざまな価値観を知って欲しいという
伯母心でしょうねえ。

でもこの環境ではことさらに、難しい。


監督自身も
たまにやってきては
日本や海外の文化を
姪の日常に持ち込んで去って行く

ある意味、無責任で気楽な
「伯母」という自分の立場の難しさについて
葛藤しているようでした。


それはそのまま
二つの国の距離の表れでもあり。


ヤン監督は
「ディア・ピョンヤン」が原因で
北朝鮮政府から入国禁止を言い渡されているそうで

今後、家族の物語が
どのように続いていくのか
気になります。


★4/2からポレポレ東中野で公開中。4/23から新宿K's cinemaほか全国順次公開。


「愛しきソナ」公式サイト



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悲しみのミルク

2011-04-01 23:29:10 | か行

主人公が暮らす
砂ぼこりの乾いた土地と

主人公が働く邸宅の
緑豊かな庭のコントラストが
悲しいほどに美しすぎる……。

「悲しみのミルク」75点★★★★


南米ペルーの貧困地域。

ベッドに横たわった老女が
悲しい歌を歌っている。


彼女は
1980年代から約20年間にわたって
ペルーを恐怖に陥れた
革命組織「センデロ・ルミノソ」の

恐ろしい蛮行に合っており
その辛い記憶を歌っていたのだ。


そんな母の恐怖の記憶を引き継いだ
美しい娘ファウスタは

体内にあるものを潜め
ひっそりと目立たぬように生きてきた。


しかし母が死に
ファウスタは白人家庭のメイドとして
働くことになるのだが――。


年老いた母の
衝撃的な歌から始まるこの映画。

ペルーというと
インカ帝国やマチュピチュへの憧れや

鮮やかな色の民族衣装など
フォークロアなイメージしかなかったので

またしても
「同時代にこんな恐ろしい出来事があったのか!」
という衝撃がありました。


しかし本作は直接的に
テロの恐怖や蛮行を描くわけでなく

美しく静かな映像のなかに
その怖さを
ひっそり忍ばせているところがいい。


絵作りにも
ハッとさせられるものがあり

34歳女性監督の感性の豊かさと深みに
感心しました。


あまり知らない文化圏の話であることや
ムワッと生温かい空気
緑豊かな庭、お手伝いさん……
などから連想したのか


ベトナム映画「青いパパイヤの香り」に
初めて出合ったときの感覚を
思い出したりして。


それにしても
ファウスタの秘密は

女性なら誰もが
「うっ」と共有できるもの。


観ている間じゅう
しくしくと苦しみを
共有するような感覚がありました。

これは
男性にはわからないだろうなあ。


しかも
実際に現地で行われていることだそうで
悲しい歴史はまだ続いているんです。


ほんと映画って
勉強になるよ。


★4/2からユーロスペースで公開。ほか全国順次公開。

「悲しみのミルク」公式サイト
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