ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

戦火のナージャ

2011-04-15 00:38:06 | さ行

妻を撮る人もいれば
娘を撮る人もいる、と。


「戦火のナージャ」58点★★☆


ロシアの巨匠ニキータ・ミハルコフ監督が
娘ナージャと共演した
「太陽に灼かれて」(1994年)の続編です。


1943年。

ロシア革命の英雄ながら
スターリンの粛清により
処刑されたコトフ大佐(ニキータ・ミハルコフ)。


しかしコトフが
実は生きているとの情報を得たスターリンは

ドミトーリ大佐(オレグ・メンシコフ)に
捜索を依頼する。


コトフとの因縁があったドミトーリは
コトフの娘ナージャ(ナージャ・ミハルコフ)を
引き取って育てていたが

成長したナージャは
ドミトーリがふと漏らした言葉から
事実に気づく。

「お父さんは生きているのね……?」


ナージャは激しくなるソ独の戦火のなか
父を探す決心をするが――。



2時間30分、いや~壮大でした。


監督は
「プライベート・ライアン」を見て
本作を作りたくなったと話していますが


なるほど
第二次大戦を同じようなスケールで
ロシア側から描きたかったんだな、というのは
よくわかります。



ただ
映画としての構成は
放棄しちゃった感じがする。


軸となるのは
父と娘なんですが


話が時間を前後して展開するなど
各エピソードをブツ切りにして
つないだ感じなんですよ。


それでなくても
前作から数年後のはずなのに
6歳だったナージャが20歳くらいになってたり(苦笑)

そんな穴はあちこちにある気がしますが

しかしながら
各エピソードががそれぞれ
「戦争の写し」として
ものすごく印象に残るのは確かです。



雪の中で命を終え、時を止めた若い兵士。

砂ぼこりのなかで一人踊るジプシーの少女。

瓦礫のなかで向かい合う若い男女……


それらが
ややシュールな一枚の静止画となって
心に刻まれて、


実は
それを目的にしたのかなと思いました。


この作品、3部作になるそうで
監督はすでに続編を制作中とのことです。


ナージャ、また大きくなってるのかなー。


★4/16からシネスイッチ銀座ほかで公開。

「戦火のナージャ」公式サイト


さてさて
おなじみ『週刊朝日』(4/26発売と思います)「ツウの一見」で
ネ申スクリプターの野上照代さんに
本作についてお話を伺いました。


黒澤監督とミハルコフ監督は
とても親交が深かったそうで

来日時のエピソードなども
興味深かった。

ぜひご一読ください☆
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ダンシング・チャップリン

2011-04-13 20:43:54 | た行

周防正行監督の新作は

ドキュメンタリーと舞台シーンの
2部構成という
ちょっと珍しい映画です。


「ダンシング・チャップリン」65点★★★


1991年にフランスで初演された
バレエ作品「ダンシング・チャップリン」。

「街の灯」「キッド」「モダン・タイムス」など
チャップリン映画の名シーンで構成された舞台を
映画化しようという試みで


前半は
映画作りに奔走する周防監督と

チャップリン役ダンサーのルイジ・ボニーノと
監督の妻である草刈民代の
リハーサルなどを描くドキュメンタリー。


そして
できあがった舞台を見るのが後半、

……というわけですが

映画としてはやはり
前半のドキュメンタリーが
圧倒的におもしろいですねえ。


まず映画化にあたって
元ネタの作者(=巨匠振付師ローラン・プティ)に
許可を取るところから
始まるわけですが

まあこの交渉がえらく大変そうなんですよ。


特に舞台場面をどう映像化するかで
監督との意見が分かれるところの
駆け引きなんぞ
相当にハラハラしました。


監督だって意地があるけど
ヘタに巨匠のご機嫌を損ねたら
「なら、この話はナシ!」って
なりかねないしねえ(ヒヤヒヤ)


こうした交渉シーンや
ダンスリハーサルの苦労などの伏線が
後半の舞台に効いてくる、というのが
見どころですね。



どんな映像表現になったかは
ぜひ見ていただきたいですが

まあ正直、
舞台を見た、という感じではありました。


ただ
この形態でなければ
バレエによほど興味がある人以外は
見なかっただろうな、と思うので

その点は十分、成功といえるでしょう。


なにより
こんなにも美しく輝く奥さんの姿とその功績を
フィルムに残したいと思うのは
まったく当たり前の欲求ですよ。


それほどに民代さん
輝いていますから。

語学も堪能で
ダンサーたちと
しっかりコミニュケーションを取る様子も
カッコイイし

意外によく笑うことに
驚いたりもして。


いいですね、キレイな奥さんて。
他人のだけど。


★4/16から銀座テアトルシネマほか全国で公開。

「ダンシング・チャップリン」公式サイト


どうでもいいけど
話題の「ブラック・スワン」(5/11公開)を
民代さんが見たらどう感じるのかなあと
すごく気になっている。

どこかでコメントとかしてるかな。

「ツウの一見」で取材したかったなぁ。

ちなみにプレスシートのこのデザインも
好きです。
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ガリバー旅行記

2011-04-11 20:15:10 | か行

久々のジャック・ブラック!
まあそれだけで
とりあえず、嬉しい(笑)


「ガリバー旅行記」70点★★★☆



主人公のガリバー(ジャック・ブラック)は
N.Y.の新聞社の万年郵便係。

ホントは旅行記者になりたいと思っているが
チャレンジする勇気もなく

編集者ダーシー(アマンダ・ピート)に
恋心を抱いているものの
誘う勇気もない。


そんなある日。
ハッタリが高じ
ガリバーに記事を書けるチャンスが舞い込む。


取材先はあの有名な遭難スポット
バミューダ・トライアングル。


意気揚々と取材に出かけたガリバーを
待ち受ける運命とは――?!



誰もが知ってるお話を
現代版にアレンジしたコメディ。


実社会では冴えない小物な主人公が
小人の国に舞い込んで


図体のでかさだけでなく
態度もでかくなり(失笑)


あきれるほど
インチキとハッタリだらけの
ビックマウスを炸裂させる。


決してヒーローではなく
逆にイヤなヤツギリギリな主人公が
J・B以外では考えられないハマり役で
かなりウケました(笑)。


しかも
何も知らない純粋な小人たちに
アメリカ最新文化を教え込むくだりには

映画だのゲームだのロックだのの
パロディが満載でニヤリ。



下品さも最小限にとどめ(と思う…たぶん。笑)
ややおとなしめな印象もあるけど

1時間25分サクッと笑えて
ファミリーでもOK!な具合に
楽しくまとまっていました。


番長は2D版で見ましたが
これは3Dのほうが
おもしろいかもしれないと思った。

ぜひお試しあれ~。


★4/15からTOHOシネマズ日劇ほか全国公開。

「ガリバー旅行記」公式サイト
コメント (3)
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エンジェル ウォーズ

2011-04-10 23:14:07 | あ行

これは期待以上の快作!

「エンジェル ウォーズ」80点★★★★



ある理由から
監禁生活を余儀なくされた
少女ベイビードール(エミリー・ブラウニング)。


抜け出すことは不可能という
絶望的な状況のなか

あるとき
彼女の意識と体は突然、
異次元空間に飛ぶ。


その世界で彼女は賢者(スコット・グレン)から
生き抜くための知恵を授かる。


「敵と戦い
四つのアイテムと、謎のラストアイテムを揃えれば
自由を勝ち取ることができる」


――現実世界に戻った彼女は
4人の少女を仲間にして

現実と異次元を行き来しつつ
自由を求めて戦いを始めるのだが――。



「300」「ウォッチメン」のザック・スナイダー監督が
初めてオリジナル原案を映像化した
アクションファンタジー。


正直、かなりすっ飛んだ
B級映画かなあと思ったけど

いや~
飛んだは飛んだけど
おもしろさにマジでぶっ飛びました!


いままでの作品で、一番いいじゃん!



ブロンドにヘソ出しセーラー服姿、
そこに日本刀をひっさげた
「東京カワイイTV」(By.NHK)系ギャルが

極限に作り込まれた
ゲーム的世界で壮絶なバトルをする。


なぜ戦う?なぜこんなに強い?――って
最初はワケわかんないんですが(笑)


映像にとりあえずねじ伏せられちゃう。


独特のスローモーションを多様したカットや
見たことのない構図、

ガンガンかかる音楽と

キレのいいミュージックビデオに
のっかてるような
気持ちよさに身を任せてしまう。


しかし
じゃあ話はすっ飛ばしてるのかというと

これがちゃーんとラストまで
整合性を保ってるんですねえ。


そこが、素晴らしい!


映像と内容が、乖離してない。
筋が通ってる。


しかも思い返すと
「あ、もしかして……?」的謎解きが楽しめるほどの
堅牢さもあって。



バトルシーンにしても
ミニスカートの太ももに傷ひとつつかない
ウソっぽさが

生々しい殺戮より
ワタクシには好みでした。

ダーク版「バーレスク」とも
言えるかもしれないなあ。


「スコット・ピルグリム VS.邪悪な元カレ軍団」(4/29公開)も
日本カルチャーの影響を
ガンガン感じる快作だけど

あちらはパックマンやファミコンのチャーミングさで
こちらはXboxって感じかな。


いずれも
ニッポンを誇りに思える作品で
うれしいね!

★4/15から全国で公開。

「エンジェル ウォーズ」公式サイト
コメント (4)
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ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路

2011-04-09 16:55:01 | な行

ショパン、モーツァルト、マーラー
さらにプッチーニと
今年は音楽家の映画が実に多い。

色合いも出来も様々ですが
すべてに共通するものがある。

それは――“女”っす。


「ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路」66点★★★



18世紀中頃。

11歳のモーツァルトと4歳年上の姉ナンネルは
仲のいい姉弟。


弟はすでに作曲家としても頭角を現し
姉の演奏も歌も一級品。

二人は両親とともに各地を回り
演奏をしていた。


あるときパリ・ヴェルサイユ宮殿での
演奏会を前に馬車が壊れ、

一家は近くの修道院に身を寄せる。


そこでナンネルは
ある少女と親しくなる。


そのことが彼女を
運命の出会いへと導いていき――。



天才モーツァルトに姉がいて
しかも歌に演奏に、さらに作曲にも才能があったけど

時代とある理由で能力を封印した――という話。


一家がまさに旅芸人さながらに
各地を巡業していたとか

知らない事実があり
へええと興味深かったです。


さらにこの映画、
画作りにも俳優にも
ビミョーな素人くささがあるんですが
それが不思議と特長になってる。


特に
ナンネル役の少女のもっさり感は相当で
でも見ているうちに
だんだんクセになる魅力があり


まあどこでこんな女優を見つけたのかと思ったら
監督の娘だった!(笑)


さらにナンネルと親しくなる
重要な役の少女も監督の次女だそうで

どうやら実際、相当な
家内制手工業らしいです。
納得。


映画としてはまとまっているし
悪くないですが

時代に埋没させられた女性の話は
どうしても気の毒さと
モヤモヤが残る。


映画でせめて
彼女のことを知ってあげるのって
いいことなのかもしれませんね。


ちなみに劇中でナンネルが作曲する曲は
女性作曲家マリー=ジャンヌ・セロが
当時を研究しつつ
イマジネーションを膨らませて
新たに作曲したもの。

聴き応えあります。


★4/9からBunamura ル・シネマで公開中。ほか全国順次公開。

「ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路」公式サイト
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