ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

麦子さんと

2013-12-16 23:24:22 | ま行

「ばしゃ馬さんとビッグマウス」に続く
吉田恵輔監督、最新作!


「麦子さんと」71点★★★★


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とある田舎町に降り立った麦子(堀北真希)。

タクシーに乗ると、運転手(温水洋一)が
麦子の姿を見て
「ええええ~~!!!」と仰天。
行く先々でも「えええ~~!!」の嵐。

実はここは
麦子の母(余貴美子)の実家のある町。

麦子は母の若いころに、瓜二つらしいのだ。

そんな町で麦子は
「母と思っていなかった」母の思い出と向き合うことになる――。

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なんでしょう、この不思議に「カクッ」と「ぬぼっ」とした
テンポと脱力ぐあい。

冒頭から
「え?いきなり、この人が死ぬの?」と
起承転結が読めないし、
しかもアニメがはさまるこの展開はなに(笑)

説明しすぎな場面があったかと思えば
逆にブツ切れのシーンがあったり、首をかしげる点もあるんですが
終わるとふわり、気持ちのよさが残るんですなあ。


そこにきて
主人公の兄役の松田龍平氏の、あのテンポ。
母役の余喜美子氏の、あの“懐深~い”感。

役者がみな当て書きのように
しっくりきている。

それが主演・堀北真希氏の透明さと
謎の相乗効果を生んでいるんですが

実際に当て書きだったのは堀北さんだったそうで
うまいこといったのだと思います。


吉田監督はつねに
オリジナル作品で勝負しているところがスゴイ!方ですが
本作は構想8年だそう。


母親の背景が
あの大ヒット連続テレビ小説に重なる点が多いのは
なーる、奇妙な時代の一致かもなあ、と思います。

どこか不格好な家族や、不器用な人々の日常は
いま日本映画が一番得意な分野だと
ワシは思いますハイ。


★12/21(土)から全国で公開。

「麦子さんと」公式サイト
コメント (2)
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オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ

2013-12-15 23:22:22 | あ行

ジム・ジャームッシュ監督も
コレで久々に完全カムバックじゃね?


「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」74点★★★★


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米・デトロイトの
さびれたアパートでひっそりと暮らすアダム(トム・ヒドルストン)。

伝説のミュージシャンとして知られる彼は
実は何世紀も生き続けている吸血鬼だ。

そんな彼のもとに
モロッコのタンジールに暮らす
恋人の吸血鬼イヴ(ティルダ・スウィントン)から電話がかかってくる。

「吸血鬼にとっても、
なんだか生きにくい世の中になってきた――」

そしてイブはアダムに会うため
飛行機でデトロイトにやってくるが……。

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ジム・ジャームッシュ監督の新作。
これはなかなかによかったすよ~。

ファーストシーンの回るドーナツ盤は
回る回る吸血鬼たちの永遠なる時間を表してるんだねえ。


吸血鬼という題材の持つアウトサイダー感と、
その悲哀と切なさ、
永遠を生きることの憂いがうまく表現されていて

そのへんを得意とする
ジャームッシュ節が、題材と
ゆるーく、しかし見事に結実したと言えるでしょう。


吸血鬼だけに、全編が夜シーンで
しかしその闇の描き方が実に表情豊かなのも素敵。

モロッコ・タンジールのエキゾチックな月夜
デトロイトの薄青い月夜と蛍光灯の夜……。

「プッ」と膝カックンな笑いもあり、
ティルダ・スウィントンの吸血鬼役は当り役すぎる(笑)。


吸血鬼たちが
人間を“ゾンビ”と侮蔑的に表現していることにはじまり、

「吸血鬼にも生きにくい世の中になった」というぼやきに

汚染にまみれた地球の惨状への注意喚起が
含まれているのも
とても現代的だと思いました。


★12/20(金)から全国で公開。

「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」公式サイト
コメント (7)
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ブリングリング

2013-12-14 11:25:43 | は行

ソフィア・コッポラ監督の最新作。


「ブリングリング」66点★★★


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カリフォルニア州の高校に
転校してきたマーク(イズラエル・ブルーサル)。

父親は映画業界にいて、暮らしぶりも悪くないが
本人はいまいち冴えず、学校では無視されている。

そんな彼に
レベッカ(ケイティ・チャン)が声をかけてきた。

ファッションやブランド好きの二人は意気投合。

そしてある日、レベッカはマークを
「留守中の家に忍び込んじゃおう」と誘う。

さらにレベッカの友人、
ニッキー(エマ・ワトソン)らも加わって――?!

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ティーン窃盗団が
Googleマップでセレブ宅を特定し

彼らの留守中に忍び込み、やりたい放題に盗みを働いた――という
実話に基づくお話。

自身がまごう事なき“セレブ”であるソフィア・コッポラ監督が
この問題を提起する、そのシニカルさがシュール(笑)。

ブログなどでセレブ自身が
「今日は〇〇のパーティーに行くわ」とか
はい、ただいま留守にしてまっせ、とばかりに
自身の情報をだだ漏らししている状況の危うさ

そしてSNSなどで
セレブを「知り合い」と錯覚したり、

罪悪感もなく盗みに入り盗んだものを
SNSにアップしてしまったり――

昔では考えられなかった現代っ子の
不可思議な“世界のとらえ方”を捉えようという、
意図があったのかなと思います。


もちろんファッショナブルな楽しさや
フレッシュな役者ケイティ・チャンなど
魅力はあるのですが

思っていたよりも
単純に実際の事件をなぞったような感じで表面的だった。

彼女らが“浪費”する青春の時間が、
彼女ら好む服や宝飾品のごとく、

たとえ高価な物だとしても、キラキラしていても
薄っぺらく、安っぽいイミテーションにしか見えないのが
不思議な感覚でしたねえ。

実名のセレブたちが登場し、
そこに
エマ・ワトソンら“セレブ”が役者として絡む、という
ミックス加減も、また不思議な感覚でした。


★12/14(土)から全国で公開。

「ブリングリング」公式サイト
コメント (2)
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武士の献立

2013-12-13 22:56:57 | は行

さっき、テレビつけたら
余貴美子さんが出てた。

綺麗、だよねえ・・・。


「武士の献立」67点★★★


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江戸で加賀藩に仕える女中・春(上戸彩)は
天才的な舌と、料理の腕前の持ち主。

キッパリした性格が災いし、実は出戻りだが

あるとき台所方の舟木伝内(西田敏行)に
その才能を見出され、

「加賀で家を継ぐ次男・安信(高良健吾)の嫁に!」と
懇願される。

しかし安信は、料理に関心ゼロ。

春は安信に、料理のなんたるかを
教えることになるのだが――?!

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加賀藩に実在した
大名家の食事をまかなう包丁侍=舟木伝内と安信。

その史実をベースに描かれた時代劇です。

もっとほのぼの&ほんわか話かと
思ってたんすが、

意外に全体、硬質で

ストーリーに加賀藩の騒動が大きく絡み、
シリアスな色合いが強かった。


それはそれでいいと思うのですが
メディア戦略と、実体の差異がちょっと気になった、という。

武家を料理から見るという視点はいいし、
すねた次男坊(高良健吾)と年上で気の強い嫁(上戸彩)という組み合わせも
なかなかにおもしろく、

安信の母役の余貴美子さんも、
父役の西田敏行さんもベスト配置で

滑り出しは上々だったんだんですけどね。

全然違う話なのに
タイトルが
「武士の家計簿」と似てるのもどうなんだろう、とか。


あとどうしても気になってしまったのが
ラストの楽曲。

好きなアーティストなんですが
どうもそぐわないんですよね~。惜しい感じでした。


★12/14(土)から全国で公開。

「武士の献立」公式サイト
コメント (2)
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祭の馬

2013-12-12 23:41:46 | ま行

すんごく悲しいかも…と身構えましたが
全体的には穏やかでした。


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「祭の馬」69点★★★★


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3.11以後、福島県南相馬市を取材した
「相馬看花」(12年)の松林要樹監督の

相馬を舞台にしたドキュメンタリー第二弾。


相馬に古くから伝わる
「相馬野馬追(そうまのまおい)」という
数百の馬による伝統神事。

その神事のため相馬に集められていた競走馬たちが
3.11で津波に襲われ、
さらに原発事故で置き去りにされてしまう。

馬と、馬を飼う人々の思いと運命を
一頭の元・競走馬を軸に
3.11から1年半に渡って追った作品です。

馬って、見ているだけで
どこか切ないものがある生き物だし

福島の動物たちの運命には
常に心を痛めているので

正直、見るのにけっこう勇気が入りました。


確かに冒頭、一斉避難命令の間に
餓死してしまった馬たちの姿が映され、
つらすぎるものもあった。

それでも、全体的には穏やかな作りで
見てよかったと思いました。

「生き物だもん、ほっとけないさ」と
なんとか馬たちを最良の状態で飼育し、祭を実行しようとする
人々の姿があたたかいし


松林監督は「相馬看花」よりさらに
伝えるべき素材を、効果的に相手に伝える術を磨き、


東電に、国に踏みにじられた人と動物の叫びを、
勢いあまることなく、
抑制とユーモアさえある目で見続けている。


動物と人の関わり、そして
そもそもの、馬たちの運命を
考えさせる部分もあり。

かすかだとしても、希望も感じることができました。

なにより
「現実を見ねば、もっともっと間違った方向に進んでしまうよ?」と
馬たちは言っているのです。きっと。


★12/14(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「祭の馬」公式サイト
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