「教場」・・・木村拓哉さん主演のドラマが話題になっています。「教場2」は、お正月1月3日~4日2夜連続で放送されます。
泣く子も黙る、大阪府警の警察官採用試験のお話です。僕は、本当に刑事になりたかった一時期がありました。その為に今後は外国人の犯罪も増えるだろうと考え、大学は英文学部を選び、柔道部で4年間鍛えました。
警官になるにはどうしたらいいのでしょう。簡単です。採用試験に合格すればいいのです。(当時の試験と現在に違いがあるかも知れませんので、ご了承下さい。)
最寄の警察署で願書をもらって来ることからスタートです。そしてまずは病院に行きます。(笑)健康診断を受け、決められた書式のものを提出しなければなりません。心電図や脳波、血液検査、などでした。とにかく項目が多く、一日仕事!そして忘れもしませんが、徴兵検査と同じように、恥ずかしい所の検査まであるのです!この時の看護婦さんが、また運が悪い事に美人の女医さん!「パンツを脱いで下さい」とサラリと一言。躊躇していると、「照れなくてもいいですよ」。「あなたは職業柄慣れていても、こっちは家族にすら見られた事がない。」と言い返していました。しっかり前後共チェックされました。あれは本当に恥ずかしい出来事ですよ。まさかあんな項目があるとは思いませんでしたから。
そして診断書を持ち、門真の運転免許試験場へ。ここが1次試験の会場でした。内容は身長、体重などの身体測定と筆記試験です。少しでも身長を高くするために、時間ギリギリに会場入り。しかも背が重力で低くならないよう、(寝起きは誰でも身長が伸びています)自動車で、できるだけリクライニングして行きました。公式発表は173センチ。
この日会場に集合した連中がまた、見るからに危なそうなのばかり。相撲の新弟子検査かレスラー採用試験かと錯覚しました。みんな火花が散る、一触即発の雰囲気なのです。どう見ても捕まる側の人間が集合しているようでした。
筆記試験は公務員採用試験と同じようなもので、英語・数学から一般常識まで、バラエティに富んだ内容でした。そして論文。この1次試験は、自分は軽くクリアしました。そして数日後に地獄の2次試験がありました。
暑い暑いセミの鳴く夏の日でした。場所は交野の(すごい田舎)大阪府警察学校でした。
僕はこの日に備えて調整は完璧。生涯でもベスト・コンディションの中の1日でした。一次試験の結果に書類選考を加えたものを突破してきた者が集合です。自衛隊の制服を着ている者もいれば、すごい身体をした者まで。全員がトレーニングウエアに着替えて、体力試験がまずスタートです。これが交野の惨劇の幕明けでした!
会場は警察学校の体育館。しかし、ドアを締め切っています。そして天井は太陽光線が入るように設計されています。要は試験会場はサウナのような環境を作り出した中で行われるのです。準備運動をしていると、受験生1人1人に警察学校の生徒が1人ずつマンツーマンで横に来ました。試験の監督です。すごく厳重でした。
スタートは腕立て伏せ。試験官の号令に合わせ、1回1回、床ギリギリの所まで胸を降ろす。顔は下ではなく正面を見る。これに違反した場合もしくは号令に合わないスピードになった時、横についている警官の卵が肩を叩き、その種目はそれで失格となります。TVの筋肉番付けのような甘いものじゃない。気合を入れてやりましたが、これがキツイ!やって見れば良く分かりますが、1回1回ジックリ筋肉を痛めつける。何とたった20回を超えた所で早くもヘビー級の体格をした者から脱落が始まり、体育館のあちこちから呻き声が聞こえてくる。不気味な世界です。ほとんどサドマゾの世界を想像してくれれば結構です(笑)
50回を超えるともう九割がダウン。しかし何も知らない自分はとにかくやりました。この先地獄が待っているとも知らず・・。100回を超えて残ったのは5人だったと記憶しています。で、150を超えて残ったのは自分だけでした。試験監督が遠くから「後何回できるか聞け」とマンツーマンで付いている試験官に命令、「どうですか?」という質問に、よし、「ええかっこしたれ!」と「200まではOKです」と応えました。これで記録は200かなと。なにしろもう自分1人ですから、次の種目に行くだろうとの読みでした。甘かった!「それじゃ200回で止めて下さい」とのオコトバ。まだ30回以上残っているのです。途中で終わろうものなら嘘つきになってしまう。まあなんとか出来ましたが。腕も胸もパンパンです。
そしてほんの10秒のインターバルで、次は腹筋です。「しまった!」他の受験生は自分のワンマンショーのお陰で息も乱れていないのに、自分だけは肩で息をしている。大変なハンディです。腹筋は30秒の間に何回できるか。しかし1度でも背中が床に付かない、もしくはおでこが試験官の手につかないと記録0になります。必死でやったら試験監督がこちらに来ました。自分のやった数がどうも多過ぎたらしいのです。無駄に張り切り過ぎて体力が消耗して。みんなその間に息を整えているのに、僕だけは終わった所で即、次の種目へ。もう開き直りました。どうせ合格すれば黒でも白の世界に入校するんですから。反復横跳びや平衡感覚の試験、いろんな種目がインターバル無しで襲いかかってきます。
試験官さえ、汗だらけの中、自分たちは必死。担架で退場して行くのもいるし、ゲロして倒れ込んでいく人も。まさに会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していました。全種目を終えて外に出たときは、炎天下なのに、クーラーの効いた部屋に入ったようでした!しかしトイレに直行して、さすがに僕も吐きました。
そして適正試験。筆記試験ですが、筋肉痛でシャーペンが持てない。汗が止まらないので、答案用紙の上にパタポタと落ち、水溜まりが出来てしまう。そこにシャーペンでは、字も何も書けない。答案用紙が破れるのです。とにかく全て終わった時はもう何とも言えませんでした。完全燃焼しました。「どうしてもう少し適当にやらないの?」という声が聞こえてきそうですが、これには理由があります。通常この手の試験は数が出来たら合格というものでは無いからです。じゃ、運動能力のバランスかというと、それだけではありません。
と言うのは、腕立て伏せなんて試験の時に出来なくても、警察学校に入校すれば、嫌でも誰でも出来るようにされます。だからこの時点でどれだけ出来たかではなく、まだここからどこまで伸びるかを見られると考えたからです。だから高卒者のような若い人ほど将来性を加点されます。しかし、大卒で年齢の上の僕などは、今の段階で「これくらいは当然。もっと鍛えて下さいね。」という所を見せなければならない必要があったのです。そして1週間後に面接があり、合格発表まで数週間待つ。恐らくその間に昔は、身元調査があったのだろうと思います。
結果は合格でしたが、サントリーや電電公社も合格しましたので警察官の道を選びませんでした。合格者は更に全寮制の警察学校で頭脳も身体も鍛えられます。警官は本当にある意味エリート。人が逃げ出して来た方向に向かって行く仕事です。警察官、自衛官、消防、公務員・・・。僕らの代わりに働いてくれる人々に、感謝の気持ちを忘れたことはありません。今、僕の息子は自衛官で頑張ってくれています。