青春タイムトラベル ~ 昭和の街角

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シェラ・デ・コブレの幽霊 ~日曜洋画劇場

2021-01-10 | 青春・名画劇場

僕が人並み以上に映画を好きになったのは、日曜洋画劇場のおかげです。この番組を見たために、映画好きになったと言っても過言ではありません。私が初めてこの日曜洋画劇場で見た映画が、何と「シエラ・デ・コブレの幽霊」で、放送日は1967年8月20日。恐らく夏休みの子供向けに恐怖映画を放送したのでしょう。映画好きだった母親と見ました。今も子供心に覚えているのは、毎晩幽霊から電話が掛かってくることと、その幽霊は海外ホラーなのに珍しく足がなく、叫びまくる幽霊だったこと。そして、「いつもおつかいをしてたら、また映画を見せてあげる」と、親から言われたこと。(笑)

この「シェラ・デ・コブレの幽霊」は、その試写版を見たアメリカのテレビ局幹部が、あまりの恐怖から嘔吐したといわれ、ついには「恐すぎる」という理由で、アメリカ本国では、お蔵入りとなり、上映および放送されることが無かったという「いわくつきの作品」。一方で、製作資金を回収する目的でアメリカ国外へのフイルム貸し出しは行われ、日本を始めヨーロッパ各国およびオーストラリアでは「未公開映画」として、数回テレビ放送されています。日本での放送は、僕が見たこの時!放送前は頻繁にCMも流され、当時の同番組も20パーセント近い高視聴率を記録。以降は地方の深夜放送などで数回放送されたのを最後にフイルムの貸し出し期間満了となり、再放送されることはなくなりました。そして、今や現存するフィルムは、確認されている限りでは世界中に2本だけで、ビデオ化もDVD化もされていない幻のホラー映画となっていたのです。

このことが分かったのは、テレビ番組「探偵!ナイトスクープ」の2009年8月28日放送分において、本作を探して欲しいという依頼があったからです。世界に2本だけ残っている1本の所有者が日本人だったのですが、版権がどうなっているのか分からないために、依頼者や探偵さんは鑑賞できましたが、放送で画像は流されませんでした。依頼文を岡部まりさんが読んでいるとき、「それ見たことある」と家族に話した僕も、そんな幻の映画になっているのだったら、ぜひ見たかったのですが・・。

この作品、現在では海外版のDVDが発売されています!

その後は親との約束通り、僕が西部劇が大好きだったので西部劇を中心に、夏休みに放送されるドラキュラやフランケンシュタイン等を、日曜洋画劇場で楽しみました。1968年1月7日放送の「赤い河」、1969年7月6日放送の「リオ・ブラボー」の2本の映画が、僕をジョン・ウェインの大ファンにさせてしまいました。しかし僕は、「駅馬車」は高校生になるまで見たことが無いという「にわか」ウェイン・ファン。(笑)天王寺の汚い映画館でやっと観たときは面白かった!「これが映画だ!」というくらい面白かったです。

日曜洋画劇場が僕に与えた影響は大きく、僕の世代の映画ファンと言えば、映画は映画館で見るものという意見が大半を占めていましたが、「家で無料で観れるならその方が、大勢の人々が沢山の映画が観れていいじゃないか」と、僕は思いました。中学生になった時には、知らない映画があるのが悔しいとばかりに、ローカル局の「サンテレビ」深夜放送に至るまで夜更かしして鑑賞し、「Lマガジン」を調べては名作を求めて名画座に通っていました。



さて、日曜洋画劇場といえば、淀川長治さんの解説でした。僕は淀川さんの映画を心から楽しむ姿勢が好きでした。小難しい評論を言うのではなく、映画をどう楽しむかを解説してくれていました。放送される映画が、淀川さんの意に反してくだらない映画であった場合は、「どんなくだらない映画でも絶対いいところがある。それを拾ってみんなに説明するのが私の使命」だと。そんな時はカメラワークや音楽を褒めたり、出演者の他の作品を紹介したりと、いろんな手を使っていました。

1998年9月、長年親交があった黒澤監督が他界。ひとつ年上の淀川さんは、自らの死を予期していたのか、棺で眠る黒澤に「泣かないよ。僕もあとから追いかけるから、もうすぐだよ」と語りかけました。そのわずか2か月後の11月10日、死の前日に、入院先の東大病院から車椅子でスタジオに出向いて、「ラストマン・スタンディング」(1998年11月15日放送分)の解説を収録。収録を終えた後に体調を崩して倒れる。そして翌11日午後8時7分、腹部大動脈瘤破裂が原因による心不全で逝去。享年89歳。最期の言葉は、病室に駆けつけた姪御さんに言った「もっと映画を見なさい」でした。最後まで映画をお茶の間に紹介し続けて逝かれました。

沢山の洋画を観た日曜洋画劇場。ここで1度しか観れず、その後DVDでは観れない名作が沢山あります。ジョージ・C・スコット主演の「激怒」、「ケインとアベル」などは、ぜひDVD化して欲しいものです。また、日曜洋画劇場で放送された吹き替えを収録したDVDも発売して欲しい。「天国から来たチャンピオン」「ファール・プレイ」「ロンゲストヤード」「リオ・ブラボー」いくらでもあります。そんなに贅沢でもないと思いますので、小さな字の読めない子供でも観れるように、吹き替えはもっと積極的に入れて欲しいものです。

最後に蛇足ながら、日曜洋画劇場のエンディングで使用されていた楽曲、モートン・グールド楽団の「So in Love」は、グールド自身が編曲・ピアノ・指揮したもので、1951年7月12日のモノラル録音。長くCD化が待たれていましたが、これが現在ソニーミュージックから発売されているオムニバスCDアルバム「Image 10 Emotional & Relaxing」(CD番号:SICC-20121)の11曲目に収録されています。

はい、もう時間がきましたね。それではまたお会いしましょうね。「さよなら、さよなら、さよなら」。