山村出身の貧しい青年が技術開発に夢を託して奮闘する姿をその時代背景と共に克明に描いた直木賞作家の意欲作。2012年8月号~14年10月号「小説 野生時代」連載、上下巻合わせ778頁の大作。
物語~時は明治末期。徳島の貧しい葉煙草農家に生まれた少年・音三郎は電気との出会いを通して科学技術の将来を信じ、発明家への道を歩むべく大阪に出るのだが、待っていたものは厳しい現実であった・・・。
電灯のソケットに使用される特殊なバネの開発では、大手の工場に先を越され、また、無線機の開発でも予算の不足から実用化に漕ぎつけることができない。
結果、資金の潤沢な軍の研究所に(学歴を偽って)潜り込むのだが、次第に開発の目的を見失い人間性にも破綻をきたす。
技術開発とは何か、どうあるべきかを問う意欲作だが、先のSTAP細胞の発見と実用化の過程にも、似たような問題を抱えていたように思う。読んで楽しい物語ではない。