ノーベル文学賞が取りざたされる村上春樹氏が、昨年春、4年ぶりにリリースした書下ろし長編。全2巻1,048頁の大作。
物語~30代の画家(わたし)が突然の離婚で移り住んだ家は、かって老画家のアトリエだった。その家の裏には謎の祠があり、そこから毎夜のように聴こえる怪しい鈴の音と、屋根裏から発見された「騎士団長殺し」と名付けられた絵画に隠された秘密とは?
「1Q84」以来の長編で、2巻合わせて200万部を超えるベストセラーというので勢い込んで読んだが、結局、(1Q84同様)「訳わからん」との感想しか残らなかった。
つまり、イデアとか、メタファーとか一見、斬新な概念を持ち出してはいるのだが、要は、物語を都合よく展開するための小道具でしかなく、読者の納得性や共感を広げるものとはなっていない。
従って、読者にとってすれば「勝手にすれば」ということになり、一体、著者は、この小説で何を言いたかったのかさえよくわからない。1部の展開が面白かっただけに、これらが頻繁に登場する2部の成り行きが残念だった。
蛇足:アマゾンには、300件を超すコメントがアップされている。総じて厳しいが、その中から1件ご紹介しよう。
「なんだろな?読後のがっかり感。この小説からはなにも感じるものがない。小説家「村上春樹」というネームバリューから来る落差がとても大きい。まず、新しさがほとんどない。今まで書いてきた小説群の情景の繰り返しだ。
確かに”村上ワールド”全開で、村上文学を始めて読む人は面白く読むと思う。私も最終節の前までは一気に読んだ。この先どうなるんだろ?と読み続けさせる物語の展開はまさに”村上節”だ。でもそれは美人局的でただそれだけ、後に何も残らない、むしろ空虚さえ感じる。
それは「村上春樹」を読んでる人は既に知ってる世界で、ちょっと仕掛け(イデアとリアルの関係性など)を代えただけだ。なんで同じような情景を繰り返すのかと思う。ネタバレ的なことは多くの方が指摘してるのでここでは触れない。
気になるのは村上氏が自分の世界に閉じこもっているように思えることだ。カズオ・イシグロ氏が全く新しい物語で読者を惹きつけているのと対象的だ。そして過剰な性的描写を含め文章全体に物語の深淵さや品位を感じさせるものがない、とても”文学”とは言えないレベルの小説だ。」