さて夜の部三つ目の演目は「上州土産百両首」です。
昭和8年初演の作家作。なんとベースはオー・ヘンリーの短編小説です。
もとは歌舞伎としての公演でしたが、大衆演劇、新派、松竹新喜劇での上演が多いようです。兄弟分の男ふたりの友情を描きます。
藤山寛美が主役のひとりだったというと想像がつくと思うのですが、ひとりはちょっと頭の足らないぽーっとした男牙次郎でこちらを菊之助丈が。
もうひとり兄貴分正太郎を芝翫丈が。
菊之助丈は笑いはとるわ、泣かせるわと大活躍。こういうのはかっこよくはないけど実力がないとできんよなとうなった次第。
泥棒稼業をしていた幼馴染のふたりが久ぶりに再会。
兄貴分は世話になってた親分のものを離れることができて、堅気に。
ふたりはそれぞれ10年がんばろうと10年後の再会を約束して別れます。
正太郎と牙次郎、子犬のような愛嬌の牙次郎とそれを受け止める正太郎の友情に知らぬうちに胸がいっぱいに。
幸せで明日を思わす前半が終わると後半。
正太郎は江戸から遠く離れた場所で一生懸命に働き、料亭の養子にと望まれるほどに。そこへやってきたのが江戸から追い出された親分と正太郎もよく知っている子分。
親分は子分に幸せになろうとしている正太郎とはもう関わるなと抑えるのですがここで運命の歯車が狂いはじめるのです。
結末に向かう芝居は真骨頂。
牙次郎がまっすぐに愛情を注ぎ続ける正太郎。本当は正太郎のほうが生き方が不器用だったのでした。
バカにしていたまわりの仲間も牙次郎を愛していた、もしくはその愛情に気づいたであろう場面など終盤は泣きどおし。
しばらくその余韻が体に残りました。
そうそう前半は正太郎と牙次郎が客席に下りて、菊之助丈のお子さんと爺バカの話をしたり客いじりをしたり(私のときは男性がお地蔵さんに見立てられていた)。あの幸せな時があるから余計に後半が哀しいのだな~。
ともかくいいお芝居でした。