透明な気圏の中から

日々の生活の中で感じたこと、好きな作家についての思いなどを書いてみたいと思います。

心のガラス窓

2013-03-31 14:20:45 | 日記

晴れ時々雪。最低気温-6.6℃、最高気温3.1℃。

三月の終わりはいつもなにがしかの寂しさを感じる。これは何故なのかと思うに、嫌いだと言いながら、早く去ってくれればと願いつつも、心のどこかに紛れている、冬に対するノスタルジアなのかもしれない。もしくは、これから始まるお仕事へのギアチェンジを否応なくせざるを得ない状況があるのかもしれない。

先日、明治神宮文化館宝物展示室で「漆の美展」を見てきた。その中に、なでしこの花が描かれた螺鈿の器があった。光の当たり方により、様々な色に輝き、花弁の細かな切れ目が高い技術を物語っていた。

作家・評論家・エッセイストの池澤夏樹氏は『きみの住む星』という本の中で、傷一つないガラス窓より様々に傷ついた心のガラス窓から見た世界の方が美しく見えるよと教えてくれる。

「ぼくたちはみんなピカピカの傷一つないガラスを心の窓に嵌めて生まれてくる。それが大人になって、親から独立したり、仕事に就いたり、出会いと別れを重ねたりしているうちに、そのガラスに少しずつ傷がつく。時にはすごく硬い心の人がいて、そういう人が大急ぎでそばを走りぬけると、こっちの心にすり傷が残る。夜の空から隕石のかけらが降ってきて心の窓にぶつかってはねかえることもある。少しずつ傷の跡が増えていく。でもね、本当は、傷のあるガラス越しに見た方が世界は美しく見えるんだよ。 花の色は冴えるし、たった一本の草がキラキラ光ることもある。賢く老いた人たちがいつもあんなに愉快そうに笑っているのは、たぶんそのためだろうとぼくは思う。」

わたくしの恥多き、失敗を積み重ね重ねての人生もまた、心にさまざまな傷をつけ、削られて、見様によっては螺鈿のきらめきとはいかないまでも美しい光を与えられているのかもしれない。そう思えば、失敗も怖くない・・・か。

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