晴れ。最低気温21.8℃、最高気温31.0℃。
一つのメルヘン 中原中也
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といっても、まるで珪石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかった川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……
『中原中也全集』第一巻(1967年刊)から
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ついに当地も最高気温が30℃を超える真夏日を記録しました。7月の最終日を飾る真夏日です。
日本中で猛暑となっていることを思えば、暑さも中くらいなのかもしれませんが、暑さ慣れしていない身には少々障りました。
気持ち、涼しくなれる、暑い日常から離れられる・・・・かもしれない詩を思い出して読んでみました。
小林秀雄が中原中也の”最も美しい遺品”と呼んだという作品です。このエピソードは青木健氏が2007年出版の『『別冊太陽』に寄せた「もうひとつの『銀河』物語 宮沢賢治と中原中也」の一節です。
青木氏はこの作品について、「中也が賢治作品との深い交信の結果創出した美しい寓話、もう一つの愛しい死者たちのための『銀河』物語であったと、私は思う。」と結んでいます。
最初に「一つのメルヘン」を目にしたときに、賢治の『銀河鉄道の夜』の光景に似た雰囲気の作品だと思い、なんて美しく透明感のある世界なのだろうと感じました。その後、中也が賢治作品の愛好家だったことを知り、また、上記の青木氏の一文を読みなるほどと思ったのでした。
以来、好きな詩の一つとなり、それは今も変わらず今日に至っています。