もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

艦内での挨拶

2022年07月02日 | 自衛隊

 本日は艦内での「挨拶」に関するあれこれである。

 ここ1週間のうちに2回、病院待合室(患者待機所)で数時間過ごすことを余儀なくされたが、看護師さんの患者呼び込みに対して1度で応じる人が少ないことに気が付いた。殆どの看護師さんが名前を2度呼ぶので、それを1度とカウントしての上である。さらに、返事をする患者に至っては、1度の呼び込みで対応する人の2~3割であるように感じた。
 勿論、診察を俟つ患者は何らかの疾病・症状を抱えており、即座に対応できない人や返事をするのも億劫な人も多いだろうが、それにしても少な過ぎるように感じた。
 海上自衛隊に入隊または初めて乗艦した隊員がまず教えられるのは、呼びかけに返事をすることと相互に挨拶を交わすことであるように思う。
 海上自衛隊には独特の挨拶があり、上陸等で艦を離れる場合には当直者や後事を託す者に対して「お願いします」と挨拶し、帰艦した場合には「有難うございました」と挨拶するのを例としている。階級・職責に開きがある場合や親しい間柄では、「願います(頼む)」や「有難う」に短縮される場合もあるが、鬼のような艦長でも出艦する場合は当直士官に「願います」の一言を残す。
 かっての映画で、吉田善吾提督から山本五十六提督への連合艦隊司令長官申し継ぎの場面で、吉田提督が「願います」という場面が描かれているし、特攻機で出撃する搭乗員が見送りの上官・同輩に「お願いします」と挨拶したことは知られているが、これらも特別なことを依頼する意味ではなく、万感の意を込めつつも一般的な挨拶の形である。
 一方、「返事をしない」ことは、自衛隊・一般社会を問わず相手を無視若しくは相手に不服従を示すもので、「返事をする」ことは艦内生活は勿論のこと一般社会でも人間関係を円滑・正常に保つ基本的なマナーであるのではないだろうか。
 軍隊組織における挨拶の1形態と看做される敬礼については、自衛艦旗掲揚時(0800)以降は、幹部に対してや舷門通過等の場合を除いて、曹士間の敬礼は省略するとされているが、言葉による挨拶には強制規定もない代わりに省略規定もない。しかしながら、人間関係なかんずく団体生活を円滑に保つ必須アイテムであることから、社会が如何様に変化しても艦内での挨拶の美風が廃れることは無いと思っている。

 待合室の固い長椅子に座りながら、通常の立ち振る舞い可能と見受けられる紳士然とした同年配老人が、2度3度の呼びかけに無言で応じる姿を見て、「この人は如何様の人生・社会生活を送ってきたのだろうか?」と疑問に思える事態を散見して、老人は現役世代に対する感謝と労りの心を忘れるべきでないと思った。